第12話 紫のもの
奏多は母と校長先生と特別教室のことを
話そうといつものクラス教室ではない
別部屋に案内されて、母のキンキン声に
反応していてもたってもいられなくなった。
嫌になって、その場に倒れ込んだ。
不快音に敏感だ。
母が校長先生に嫉妬していることなんて
気にしていない。
ノイズに敏感の奏多は、頭痛がして、
ずっと頭をおさえていた。
白い空間に飛ばされた。
クロンズとヌアンテは天窓から
それぞれ翼を広げて、降りてきた。
「さてさて、今日も仕事しますか。」
「私は見学してるわ。」
「おい!!…まぁいいや。
今度はなんだ?
えっと、唇がチアノーゼできている?
でもさっき母さんの声に
反応したんじゃないの?
口関係あんのかな。
紫色だ…。」
「きっと、紫のモンスターね。」
ヌアンテは端によけて適当に話す。
ハリネズミの微宙は、隣にちょこんと
座った。
コウモリの光宙は、
クロンズの周辺にバサバサと飛んでいる。
「紫って、そんな単純な話なのか?」
腕を組んで悩んでいると、
ヌアンテは目を大きく見開いて、
後ろを指差した。
「ちょ、ちょっと、クロンズ。
私の大正解だって!!
逃げろーーーー。」
クロンズはヌアンテに言われてすぐに
後ろを振り返った。
遠くから巨大なぶどうの丸い物体が
次から次とゴロゴロと転がってくる。
大人の身長くらいはあるだろう。
2mだろうか。
まるまるとコロコロしていて、
ゲームの中に出てくるキャラクターにも
見えなくもない。
ゴロンゴロンと大きさが違うぶどうが
何個も転がってくる。
クロンズは慌てて、寝ている奏多を
起こして、背中に乗せた。
翼を大きく広げてバサバサとして逃げた。
「ちょっとでかくない?
このぶどう。
食べられるのかな。」
空中をバサバサと浮かんでいた
ヌアンテは、ゴロゴロと転がるぶどうの
上に乗ってみた。
「あ、あ、あ、玉乗りサーカス団
ヌアンテちゃんでーす。」
「あ、私もやってみる。」
微宙も楽しそうだと思ったのか、
小さめのぶどうに乗って、くるくると
ぶどうをまわして移動する。
「おいおいおい、遊んでいる場合かって、
奏多!そろそろ起きろーーー。」
クロンズは背中で眠る奏多に
声をかけた。パチパチと瞬きする。
地震のようにゴロゴロと転がっている
大きいぶどうに驚愕していた。
ふわふわと飛行が不安定になる。
「今、端っこにおろすから。」
ずっと奏多を背中に乗せて
飛んでいたため、疲労感が出た。
端っこから端っこまで巨大なぶどうは
敷き詰められていた。
どこにおろそうか悩んでいる間に
力尽きて、奏多をおろしてしまう。
「あ……。」
手を伸ばそうとした。
奏多の下を新幹線より早く、
飛行機よりも早いスピードで
ヌアンテは背中に乗せた。
「危ないじゃない!!!」
「……やればできんじゃん。」
クロンズは天使らしい行動するヌアンテを
見て安心するが、力が抜けて、
ぶどうの上にゴロゴロしながら
落ちていった。
姿が見えなくなる。
「え、ちょっと待ってよ。
クロンズ!!
何、やってるんだか。」
ヌアンテは、背中に奏多を拾って、
クロンズを空中から探した。
「ちびっ子たち!!!
早く、クロンズ探しなさい!!」
「え?ちびっ子たちって誰のこと?」
「僕たちのことじゃない?」
コウモリとハリネズミの2人は
顔を見合わせて確認する。
ハリネズミの微宙はいつの間にか、
仲良くなったコウモリの光宙の背中に
乗っていた。
クロンズの真似をしたかったらしい。
「そうだね、そろそろクロンズ探そうか。」
「ちょっと、流暢に話してんじゃないわよ。
私、今、一仕事するから!!!」
「そんなに仕事する人が偉いの?」
「ねぇ?」
「はぁ?!なんだって?」
少々キレ気味のヌアンテは、言い返す。
その言葉にぴゅーっと飛んで、
巨大ぶどうの中を見渡してクロンズを
探していた。
「さてと、集中するかぁ。
あれ、あんた話できないんだよね。
ただ、恥ずかしいだけだと思うけど!!」
ヌアンテの声に反応してコクコクコクと
頷いた。
奏多を背中に乗せたまま空中で
バサバサと翼を動かした。
天高く掲げて、2本の指を擦り合わせた。
「パープルノイズ!!」
低い重低音が鳴り響いた。
ヌアンテの声では足りないようで
現状では変わりなかった。
「奏多、おんなじに叫んで。」
奏多は、黙って頷いた。
目を合わせて、せーので叫ぶ。
「「パープルノイズ!!!」」
2人の声が重なっていたが、ヌアンテは大事なことが抜けていた。何も変化していない。まだクロンズも見つからない。
「あれ、ちょっと待って。
楽器出すの忘れていたよ。」
また天を掲げて、指をこする。
一瞬にして、目の前に少し大きめの
電子ピアノが現れた。
「あ、これだったね。
間違いうっかりだったわ。
さてと、はい奏多。
一緒にやろう。」
「う、うん。」
少しずつ声を発せるようになってきた。
横に並んで連弾をし始めた。
ピアノ教室に習ったことのある奏多は
好きだった曲を引いた。
『星に願いを』の曲だった。
ゆっくりひくと
リラックスしてしまうようで
巨大なぶどうたちは一瞬にして
動きをとめた。
一つ一つが風船が割れるようにぱんぱんと
はじいて割れた。
中からどろどろのぶどうエキスが
流れていく。
小さくなって良くなったと思ったが、
今度はぶどうエキスに溢れて、
溺れそうになった。
「嘘でしょう。
これ、どうしようってのよ!
ちょっとクロンズ。」
「おい、起こすなよ。
寝てんだから。」
やっとこそ、悪魔の本性発揮してきたかに
思えたが、そう言いながらも
次々と流れてくるぶどうエキスに
どう対抗していくかを腕を組んで
考えていた。
「言ってること違うじゃない。」
「しっ!!」
クロンズは口元に静かにのポーズをとる。
上から何かが降り立った。
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