第30話 任務完了
ドラウグル王国王都、城門前。
レン、アリス、クレアの三人は
「――じゃあ、ボクはここで別れるよ。城に戻って父上に無事を報告しなければならないからね。アリス、レン、今回の事は感謝してもしきれない! 本当にありがとう!」
「もう何回目だよそれは。礼ならギャンツのおっさんに貰うから気にするな」
「そうですよ! 私もクレアにはたくさん助けられました! お互い様です!」
帰路で耳がタコになるほど礼を言われたので、感謝の言葉はもうたくさんだ。
だが、クレアは「いやいや、一生の恩だからね。何度でも礼を言わせてくれ!」という始末。しばらくは会う度に感謝されそうだ。
「二人はこの後どうするの?」
「もう日が暮れるからな。今日のところは宿に戻って休むよ。冒険者ギルドへは明日の朝にでも顔を出せばいいだろう」
「アリスもそれでいいよな?」
「そうですね。私もヘトヘトなので、レン様の意見に賛成です」
「そっか、じゃあボクも明日の朝に冒険者ギルドに行くよ。ギャンツさんにも心配をかけたし、二人が助けに来てくれたのも彼のお陰だからね」
レンとアリスにとってもクレアが居てくれた方がありがたい。
ないとは思うが報酬の件で揉めた際にクレアが居た方が都合がいいからだ。
「じゃあ、二人とも! また明日!」
「ああ」
「はい、また明日会いましょう」
〜〜〜
翌日、レンとアリスは宿を出て冒険者ギルドに向かっていた。
「どうしたアリス。眠そうだな」
「昨夜、お手洗いに行ったときにリアに捕まってしまいまして……」
「……なるほど、迷宮で何があったのか根掘り葉掘り訊かれたわけか」
「そうなんですけど……私も私で、疲れを忘れて話し込んでしまったので、これは自業自得ですね。気付いた時には夜が明けていて自分でも驚きました」
後先考えずに夜更かしをするなど、真面目なアリスらしくはないと思ったが、どうやらリアとは良い友人関係を築けているようだ。
まあ、レンと違ってアリスは社交的なので、心配する必要はないのだが。
「……ならアリスは宿に戻って休んでていいぞ。報告だけなら俺一人でもできるからな」
「いえ、ギャンツさんには言いたいことがたくさんあるので、私も同行します!」
目の下にうっすらと隈を作ってるアリスはそう意気込む。
今回の件でアリスは怒り心頭だ。いきなりギャンツに殴りかかってもおかしくはない。レンとしてはトラブルにならないことを祈るばかりだが。
「アリスさん、お願いだから話し合いでね? 武力行使は最終手段だからね?」
寝不足で正常な判断ができない可能性を考慮して、一応アリスには釘を刺しておく。
「レン様、私を何だと思っているのですか? 私は出会いがしらにいきなり人を殴るような野蛮な女ではありせん。ちゃんと今回の報酬を受け取ってから、燃やします」
「いや、待て……やっぱりアリスは宿に戻ろ――」
「レン様! 行きますよ!」
引き留めようとするレンの腕を掴み、強引に冒険者ギルドに向かおうとするアリス。
レンはその鬼気迫る背を見ながら黙って連れていかれるしかないのであった。
〜〜〜
アリスとレンは冒険者ギルドに入り、受付嬢が立っているカウンターでギャンツへの面会を希望する。しかし――
「ギャンツさんが居ない!? それはどういうことですか!!」
カウンターから身を乗り出す勢いで、受付嬢に詰め寄るアリス。
「――そ、それが昨日、支部長直々の依頼で、
龍影の森を探索していた冒険者パーティが帰ってきまして、彼らの話を聞いた支部長は血相を変えて、王城へ向かわれ、その後、飛竜に乗って冒険者ギルド本部に向かわれたらしいのです」
「龍影の森で何かあったのか?」
「申し訳ありませんが、詳細は私共にも聞かされておりませんので、お答えすることはできません」
受付嬢は心底申し訳なさそうにそう答える。
どうやら本当に何も知らされていないようだ。
これ以上受付嬢を困らせてもしょうがないので、レンとアリスはカウンターを後にし、ロビーにある休憩スペースで今後の方針を話し合う。
「……困りましたね。これで冒険者登録をすることができなくなってしまいました」
「おっさんが帰ってくるのを待つってのはダメなのか?」
「……飛竜がどれぐらいの速度で移動できるのか分かりませんが、ギャンツ支部長が帰ってくるのを待つというのは現実的じゃないでしょう」
「冒険者ギルド本部っていうのはそんなに遠い場所にあるのか?」
「冒険者ギルド本部がある場所はミズガルド共和国という大陸の中心に位置する大国です。ここからだと休まずに馬を走らせたとしても往復で一年以上はかかると思います」
「なるほど……それは確かに無理だな」
レスタム王国の隣国であるドラウグル王国に長居するのは追われる身のアリスにとっては危険すぎる。
現に
そもそも、今アリスが隣に居ること自体が奇跡なのだ。
魔将リリムとの戦いで気を失っていたレンは、目が覚めると全てが終わっていた。
死んだと思っていたアリスは傷一つ無い状態で生きていたし、クレアも無事だった。
後々二人に話を聞くと、レンがリリムを倒したという事になっていたが、気を失った後のことはレンは覚えていない。何か夢を見ていたような気はするが、それだけだ。
残ったのはレンではない誰かがリリムを倒し、アリスを救ったという事実と、何もできなかったという無力感だけ。
「――レン様? 急に黙ってどうしたんですか? 体調でも?」
「――いや、なんでもない。ちょっと考え事をしていただけだ」
「なら良いのですが……無理はいけませんよ?」
「目の下に隈を作ってるアリスには言われたくないな」
隈があることを指摘されたアリスは一瞬硬直し、すぐに目元を手で覆い隠す。
「――そ、そんなに目立ちますか……?」
指の隙間からレンを見ながら恐る恐る訊いてくるアリス。
「……まあ、大丈夫だろ。よく見ないと分からないよ」
「――そうですか……? でも、恥ずかしいので、今日はあまり私の顔を見ないでください!」
「努力はする」
隈ぐらいそんなに気にすることではないとレンは思うが、アリスも年頃だ。
自分の見た目には気を遣うのだろう。
「なんだ……?」
なぜかジト目で睨んでくるアリス。
「……いえ、別に……鈍感なのに、そういうのには気付くんだなーと思いまして」
「そうか……? ありがとう」
「褒めてません……」
褒められたと思い、礼を言うと微妙な顔をしたアリスに否定されてしまう。
そんなやり取りをしていると、不意に声がかけられる。
「失礼ですが、あなた方はもしかしてレン様とアリス様でいらっしゃいますか?」
振り返るとそこには清潔感のある装いに身を包んだ長身の男が立っていた。
白くなり始めている頭髪と、顔に刻まれた皺を見るに、年齢はギャンツと同じぐらいだろうか。
「――そうですが……どうして私たちの名前を……」
「ああ、やはりそうでしたか! 聞いていた特徴とそっくりな方々が居られたので、そうではないかと思ったのですよ! ギャンツ支部長からあなた方の事はお聞きしております!
あ! 申し遅れました、私はこの冒険者ギルドで副支部長を務めさせていただいているチャールズと申します。以後お見知りおきを」
自らを副支部長と名乗る男がレンとアリスに向かって優雅に一礼するのだった。
〜〜〜
冒険者ギルドの副支部長を名乗る男に応接室に案内されたレンたちは、そこで
「
「俺たちが嘘を言っていると?
レンは
「いえ、クレア王女を助けていただいた恩人にそのような疑いを持つ筈がありません。
私がおかしいと思ったのは、
迷宮で生まれた魔物は通常、定められた自らの領域から出てくる事はありません。これは迷宮の主も同様です」
アリスとレンもギャンツからそう聞かされていたのでそれは間違いないだろう。
「それは俺たちも聞いてたが、じゃあなんで
「……考えられるとすれば、第四階層に降りてきた冒険者を追いかけているうちに、上階の第三階層に迷い込んでしまったか、もしくは
そもそも、クレアが迷宮から脱出できずにいたのは、第三階層で
なので、クレアが
ならば、クレア以外の冒険者が引き連れてきた可能性だが、これも同じ時期に別の冒険者が迷宮に入ったという情報をギャンツから聞いていないので、無いと思っていい。
残るは後者だが、これには心当たりがある。
それは魔将リリムの存在だ。
あの女がどこから来たのかは不明だが、クレアより先に迷宮に入り、第四階層まで脚を踏み入れた可能性は充分ある。
ここからは完全にレンの推測だが、アリスとクレアはリリムが姿を現す直前から、リリムへの恐怖心で身動きがとれない状態になっていた。レンには何も感じられなかったが、今思えば殺気のようなものを放っていたのだろう。
そんなものを振り撒きながら第四階層に脚を踏み入れれば、魔物とはいえ生物である
リリムの強さは本物だ。
「……外的要因ですか……」
「何か心当たりがありましたか?」
「――いえ、なんでもありません」
どうやら、アリスもレンと同じ考えに至った様だ。だが当然それをチャールズに話すつもりはないだろう。
「それよりも、本題に入りましょう。今回のクレア救出任務の報酬の件です」
「ああ、そうでしたそうでした! その件についてですが、すぐにでもお二人の冒険者登録手続きをさせていただきます!
「ありがとうございます! これで正式に冒険者活動ができるようになりますね! レン様!」
「ああ、やったな」
なにはともあれ、チャールズのお陰でギャンツが戻るまで冒険者活動ができないという事態は回避できたのだった。
これでレンとアリスは正式な冒険者として真っ当な活動ができると言うわけだ。
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