第15話 最悪の襲来
レンに助けられ、落とし穴と
理由はもちろん下層に落ちたレンと合流するためだ。
不幸中の幸いというべきか、レンが掛かったトラップはダンジョンの通路を分断するほど大きな落とし穴だったので、
だが、またあの数の
なので急ぎたい気持ちを必死に堪え一歩一歩、慎重に移動する。
間違いなくレンは第三階層のどこかにある
普通に考えれば、たった一人で大量の魔物がいる場所に落ちれば、生還は絶望的だが、レンの強さならどこかで必ず生きている筈。
しかし、そう信じていてもアリスの心から不安は消えない。
もし、レンが死んでいたら? そんな悪い考えが一度頭を過ったら止まることはない。
(レン様ともう会えないなんて絶対に嫌……レン様までいなくなったら私はもう生きていけない……)
薄暗い静寂の中で、時間が経つにつれアリスの心は疲弊していった。
「――ダメだ……このままじゃレン様に会う前に私がおかしくなってしまう。しっかりしなきゃ……」
アリスは不安を払拭するために、レンから貰ったマントを握りしめ、レンと過ごした短い旅の記憶を思い返す。
(レン様は絶対生きてる、生きてる生きてる生きてる――)
アリスはレンの生存だけを考え、不安で押し潰されそうな心を奮い立たせる。
ここで折れていてはレンには二度と会えない。
会いたいなら動くしかない。
今のアリスにできることを精一杯やるしかないのだ。
〜〜〜
第三階層。
レンは
「だぁぁああああ!! 邪魔くせえ!!」
レンは空洞を右に左に高速で跳び周り、突撃してくる巨大ゴキブリを蹴散らしていく。
「……クソっ……こっちは早くアリスと合流しなきゃなんねーのに、無限に湧いきやがる」
レンは
このゴキブリ型の魔物の情報はまだ聞いていなかったので名前すら知らないが、見た目は前世のゴキブリに近く、違いは頭の左右にブレード状の牙があることと、体長が一メートルぐらいあることだろう。
問題はこの大きさでも走るスピードが本来のゴキブリと変わらないことだ。
前世でゴキブリは時速三百キロ以上の速度で走っているとテレビで見たことがある。
レンの動体視力と反射神経が無ければ、頭に付いたブレードでとっくに引き裂かれていたであろう。
そう考えるとアリスと一緒に落ちなくて本当に良かった。もしここにアリスも居たら守ることはできなかっただろう。
「……俺もここから生きて出れるかかなり怪しいけどな」
なぜ一時間もこの部屋にいるのかというと、魔物を全部倒そうとしていたわけではない。 ずっと出口を探しているのだ。だがいくら探してもこの
「困ったな。エターナルマップがあれば脱出口を見つけるのは簡単だったが……いや、そもそも脱出口なんてあるのか?」
これはトラップだ。なら脱出口などそもそも無いという可能性もある。
そうなると落ちてきた天井の穴から元の場所に戻るしかないが、穴は垂直で横幅も大きく、ボルダリングできそうな突起も無い。それに落下時間を考えると相当深い場所にレンは落ちた。よじ登るのは現実的ではないだろう。
「参ったな。早くなんとかしないと、体力が持たないぞ」
高速で襲ってくるゴキブリを躱すだけでも、体力を使うというのに、大量のゴキブリで埋め尽くされた空洞から出口を探さなければならないのだ。
レンの化け物じみた体力を持ってしてもそう長くは持たないだろう。
ならば体力が尽きる前に、出口を見つけ出すしかない。
「アリスをこんな場所に残して死ぬわけにはいかないんだよ!!」
レンは咆哮を上げ、巨大ゴキブリの群れに飛び込んだ。
〜〜〜
第三階層に下ったアリスはエターナルマップを頼りに
「レン様ー! レン様ー!」
もう既に
音を立てると魔物が寄ってきそうだが、この階層においてその心配はない。
なぜなら、第三階層にいる魔物は主にスライムという粘液を体に纏った魔物で、目や耳などの感覚器官が無く、自らスライムに触れない限り襲ってくることはないからだ。
ちなみにスライムの粘液は神経毒から生物の骨を溶かす強力な酸まで、様々な物があり、種類によって色が違うので、一目見ればどんな性質の粘液かが分かる。
中には食べられるものもあるそうで、クレアがもし遭難しているなら、安全面でも食糧面でもこの階層が一番確率が高いらしい。
だが、今のアリスにとってはレンと合流する事が最優先だ。
「……水が滴る音がしますね」
地上に生息するスライムは水辺に生息している事が多いので、もしかしたらこの階層には水源があるのかもしれない。
現状、エターナルマップと水袋以外のダンジョンに持ち込んだものは全てレンに持たせていたので、食糧は無く、水も残り少ない。
レンといつ合流できるか分からない現状、近くに水源があるなら水だけでも確保しておきたいところだ。
そう思い、アリスは水音がする方へと向かう事にする。
数分歩くと目的の場所に辿り着いた。
そこは十メートルほどの水場がある広い空洞だった。
(水はありましたが、スライムも居ますね……色は……赤ですか……)
赤は可燃性の粘液も持つスライムだ。それが十匹ほど水場の周囲に集まっている。
アリスの攻撃手段は火魔法なので、攻撃すれば爆発を引き起こしてしまうだろう。
ダンジョン内で爆発させるのは天井が崩落してしまう可能性もあり危険だ。
(いえ、そもそも倒す必要はありません……触れなければいいだけです。水を汲んですぐ離れれば大丈夫な筈)
アリスはスライムに気付かれないよう。ゆっくり水場に近づき水袋に水を汲む。幸いスライムたちは最初の位置から動こうとはしない。
(よし! これで水の確保はできました!)
水を確保したアリスはこの場から離れようと水面から顔を上げようとし、違和感に気付く。
水面が僅かに波打っているのだ。
当然ここ水場は川に繋がってるわけではないので、水面が動くこと自体おかしいのだが、だんだん波が激しくなっていく。
否、水面だけではない。地面までもが次第に小刻みに揺れ、地響きまでもが聞こえ始める。
「――ッ!? な、なんですか――」
アリスは原因不明の揺れに動揺する。
「――収まった……?」
次第に揺れは収まり、再び空洞に静寂が戻った。
一体今のはなんだったのだろうか。そう考えていると視界の端で広場の壁が突然爆ぜた。
「きゃっ!?」
アリスの短い悲鳴は轟音にかき消され、爆発した壁の方から瓦礫が飛んでくる。
「――ちょ、ちょっと待ってくださいっ!?」
アリスは持っていた水袋を捨て去り、飛んでくる瓦礫から全力で逃げる。
「――ハア……ハア……何が起こったんですか……?」
アリスは逃げた先の岩場で乱れた息を整え、今し方爆散した空洞の壁を見る。
壁の周辺は爆発の影響で、砂煙が濛々と立ち込めていて何も見えない。
煙が晴れるまで、しばらくじっと観察していると、次第に大きな影が見え始める。
「――嘘……なんであれがここに……っ!?」
アリスは巨大な影を目にして、絶望と恐怖で身体が震える。
あんな大きな魔物、このダンジョンには一匹しか存在しない。
それは、本来第三階層に居る筈がない魔物、このダンジョンの主、『
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