第12話 プリンの代償(2)


 俺は考える素振そぶりを見せた後、


「分かった。場所を変えよう」


 と言って席を立つ。

 少なくとも、上位貴族であるのなら――


なにかしらの情報を持っている可能性は高いな……)


 まあ、それも「上手うまく取り入ることが出来れば」の話である。

 どうにも『スタティム家』の家系は、その辺が下手なようだ。


 転生者とはいえ、俺も例外ではない。

 取りえず、彼女たちが仕えている貴族のもとへと案内してもらう事にした。


 彼女たちは急いでいるらしく、入り組んだ路地を通る。やはり、門にた担当者から渡された地図には、記載されていないルートがあるようだ。


 このルートが近道なのだろう。

 使える道が一つ増えるだけでも有難ありがたい。


「オロール、大丈夫か?」


 俺は声を掛ける。「はい♡」と答え、オロールは俺の手を取ってくれた。

 はぐれないように女子生徒たちの後を付いていく。


 すると、魔法陣のえがかれた広い場所へと辿たどり着いた。

 予想はしていたが、例のレクリエーション――そのポイントの一つのようだ。


 待っていたのは蒼色あおいろの瞳と長くあざやかな薔薇色ピンクローズの髪をした女性。

 美人だが――オロールとは違って――気の強そうな人物である。


(まるで女王といった風格だな……)


「魔人十支族『アルドル家』の方のようですね」


 オロールが耳打ちをする形で、こっそりと教えてくれた。

 魔人十支族とは初代魔王に仕えた一族をす。


 他の魔人族からは一目いちもくかれる存在だ。

 魔力至上主義者の多い魔人族の中でも、取り分け階級意識が強い。


 そういった理由からだろうか?

 個の能力がひいでている分、団結力に欠けるのが魔人族である。


 オロール自身も本家ではないが、魔人十支族に連なる家系なので、俺よりも詳しいらしい。


 俺たちを案内してくれた女子生徒たちが、主人である令嬢に説明を終えると、


「ほう、お前が『至高の存在プリン』を創り出せるというのか……」


 面白い――と言った表情で、気の強そうな女性は俺をにらみ付ける。

 『プリン』に対して、並々ならぬ畏敬いけいの念を頂いているらしい。


 実際「そんな魔法はない」と思っているのだろう。

 完全に信用されてはいないようだ。だが、同時に、


「見た所、新入生だな……」


 もし本当に『至高の存在プリン』を創り出せるなら、この魔法陣を使わせてやろう――的なことまで言い出した。


 しかし、その目は「まあ、無理だろうがな」と言っている。

 その態度たいどに、何故なぜかオロールは怒っているようだ。


 綺麗な表情はくずさず、黙ってアルドル家の令嬢を見詰める。俺としては、美人に見詰められるだけで緊張したり、気後きおくれしたりしてしまうだが――


(アルドル家の令嬢は平気そうだな……)


 彼女にとっては「仔猫こねこがじゃれてくるようなモノ」なのかもしれない。

 平然としているようで、それを楽しんでいるようにもとれる。


 彼女はオロールを一瞥いちべつした後、視線を俺へと戻し、


「だが、その黒髪黒瞳。初代魔王様と同じ……」


 ならば、試してみるのも一興いっきょうか――などとつぶやく。

 俺がスタティム家の人間であることは、女子生徒たちから聞いているハズだ。


 例え、上位貴族であっても――血統魔法の事は知っているだろうから――俺とは距離を置こうとするのが普通である。しかし、彼女は気にした様子すら見せない。


 想定していたよりも相手は大物のようだ。

 恐らく、次期魔王候補なのだろう。


 新入生の実力を測ることが学園の目的かと思っていたが、同時に次期魔王候補の実力も見ておきたいらしい。


 彼女の性格と魔力量を考慮こうりょするなら、ここで一蹴いっしゅうされて会話は終わりだっただろうが――


(これは機会チャンスかもしれないな……)


 『プリン・ア・ラ・モード』に対抗できる料理を出せば、彼女と戦わずに済むのだ。しかし、その前に自己紹介をした方がいいだろう。


「まずは名乗らせて頂いても、よろしいでしょうか? 高貴なる薔薇バラ姫様」


 そう言って、俺は一歩前へ出ると左胸に右手を当てる。キャラではないため、胡散臭うさんくさいかもしれないが、こういうのは恥ずかしいくらいが丁度いい。


 薔薇姫?――とアルドル家の令嬢は首をかしげる。


「これは失礼。あまりにも美しい髪だったため、鮮やかに咲く薔薇を連想したのですが、お嫌でしたか?」


 俺の見え透いたお世辞に「いや」と令嬢。今度は首をゆっくりと左右に振った後、


「隣にいるのはテッラム家の御令嬢だろ……」


 彼女のエスコート中に言われてもな――と付け加える。確かに、オロール程の美少女を連れている時に使う台詞セリフではなかったのかもしれない。


 下手をすると嫌味とも取られてしまう。それでも、俺はおくすることなく、


「月下に咲く一輪の花と鮮やかに咲き誇る薔薇の美しさは、比べるモノではございません。わたくしは『カリオ・ヴァニタス・スタティム』と申します……」


 以後お見知りおきください――とお辞儀ボウ・アンド・スクレーを行う。

 そんな俺の仕草に合わせて、


「オロール・テッラムです。お会い出来て光栄です」


 とオロールもカーテシーを行った。

 この場合は「気に入られた」というよりも「あきれられた」のだろう。


 アルドル家の令嬢は、口元に手を当て苦笑する。そして、


「私は『エレノア』――『エレノア・イグニス・アルドル』だ」


 と名乗った。俺は透かさず、カレーを用意する。

 ただのカレーではない『プリンカレー』だ。


 カレーの真ん中に『プリン』が乗っている。

 勿論もちろん、皿と銀匙スプーンも、ちゃんと出て来る。


 俺のカレー魔法に死角はない! 『プリン・ア・ラ・モード』に対抗し『至高の黄色い恩方』プリンズ・ウール・ゴウンとでもしておこうか?


 これから、この街の名物になるかもしれない。

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