第10話 カレーに乗せるモノ(2)


 まあ、そんな流れで俺は今、オロールと一緒に行動をしている。

 別に従者である彼女たち弱いワケではない。


 魔人族の中では能力の高い方だろう。ただ、ブラックドラゴンに対処できなかった彼女たちを連れて行くのは危険である。


 高位の貴族が相手となった場合、彼女たちの存在が重荷になる可能性は十分に考えられた。恐らく、彼女たちが離れた一番の理由は――


(オロールに血統魔法を「使わせないため」だろうな……)


 従者である彼女たちになにかあった場合、オロールの性格なら躊躇ちゅうちょなく血統魔法を使いそうだ。


 少なくとも――学園にる魔王候補を把握はあくするまでは――彼女は血統魔法を秘密にすべきである。


 俺の役目はオロールに血統魔法を使わせない事にあった。

 わざわざ、こんな事を考えて行動しなければならないとは――


(貴族というのも面倒だな……)


 念のため、街へと出た俺はパールに命令し、地図を購入させた。

 門にた学園の担当者から渡された地図と比較するためだ。


 予想していた通り、いくつか違いがある。

 担当者から渡された地図の方は安全面が考慮されているのだろう。


 記載されているルートが少ない。


(購入した地図のルートを使った方が近道だが……)


 その分、危険なのだろう。

 レクリエーションへ参加できる期間は学園都市に到着してからの3日間。


 もしくは入学式までだ。

 それまでに10の要所を回らなければならない。


 要所は1人で回ってもいいし、複数人で行動してもいい。

 それぞれに学園が用意した実力者がて、課題が出されるようだ。


 学園には門限があるため、正午から夕刻までの開催となる。

 考えれば、攻略法はありそうだが――


(俺は頭を使うタイプじゃないしな……)


 まずは自分の力だけでやってみる事にした。魔人族の特性でもあるのだろうが、どうにも「魔法を使いたい」という欲求がある。


 この街にそういった欲求を強くする仕掛けがあるのかもしれないが――


(自分の力をためすには、いい機会か……)


 若干じゃっかん、そんな期待を込めながら、街を移動するルートを確認した。

 そして、目的地を決めた現在「最初の要所へ向かって歩いていた」というワケだ。


 まるで街を見下ろす城のように、都市の中心部でたたずむ魔王学園。

 街のいたる場所から見ることが出来る。


 ここは別名『迷宮都市』ならぬ『迷惑都市』と呼ばれている。学園へと続く大通りと主要な生活道路以外「なにかしらの罠がある」と考えた方が良さそうだ。


 本来なら、決められた期日以内に効率よく要所を巡る必要があるのだろう。

 すべての要所を巡ることよりも、確実に攻略できる課題を選ぶべきだ。


「気を付けてください。カリオ様は黒髪黒瞳」


 とパール。確かに初代魔王と同じだ。

 この街では特に目立つ。因縁をつけてくる相手がいるかもしれない。


 その事を危惧きぐしているのだろう――と思ったのだが、


「ビリビリする女子にねらわれる可能性があります」


 などと真顔で付け加える。ベランダでシスターを助けてはいないし、自動販売機をっている女子もいないので、その心配はないハズだ。


「赤髪の女子にも気を付けるです! わん!」


 ハスハス――とラッシー。きっと、アレの事だろう。

 実力はあるのだが「評価が最低」もしくは「未知数」の主人公。


 そんなキャラがよく巻き込まれるヤツだ。例えば、順位を決める戦いがある場合「最強クラスの赤髪の女性に決闘を申し込まれる」というのがお約束である。


 更にその女性は「剣と炎を操る」のが定番だ。着替えをのぞいてしまうなどのラッキースケベから決闘バトル展開イベントになる事が多い。


 主人公が決闘バトルに勝つ事で「赤髪の女性が自動的にれる」そこまでが様式美パターンである。何処どこで手に入れた知識か知らないが、


「余計な心配だ。そんな展開……」


 あるワケないだろ――と言って、俺は「ないない」といった感じで手を払う。

 パールとラッシーは口をつぐんだ。


 だが、その目は「あー、これはもう手遅れだ」と言っている。


(勝手に人の未来を決めつけないで欲しい……)


 なにやら、実際に起こりそうな気がしてくるから不思議だ。

 俺は気を取り直す意味も込めて、


「さて、最初に向かうべき場所だが……」


 どうすればいい?――そんな意味の視線をパールへと向ける。すると、


「定番通り『近い場所から順番に回る』と思っていたのですが」


 とパールは答えた。「それが礼儀だろうな」と俺は返す。レクリエーションという事なら――気合を入れて――学園の関係者が待っていそうだ。


 パールは俺が一番近いポイントへと向かっていると思っていたらしい。

 しかし、オロールも当事者である。


 そのため、彼女の意見も聞かなければならない。

 だが、オロールは俺に一任してくれるらしい。


 信頼しているので、口出しはしないようだ。


(逆にプレッシャーなんだが……)


 俺は責任を感じつつ、


「パールが購入してきてくれた観光ガイドによると……」


 美味しいケーキの店があるらしいぞ!――と告げる。


流石さすがはご主人、分かっているのです! わん♡」


 とラッシー。パタパタと尻尾を動かす。

 オロールはそんなラッシーの様子を見て、微笑ほほえんでいる。


 てっきり、突っ込まれるかと思ったのだが、パールに異論はないようだ。

 俺たちは人気のカフェへと向かう事にした。


(ほら、赤髪ヒロインとの決闘要素なんて何処どこにもないだろ?)

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