第12話 怨みとダイヤモンド04/04。

4ヶ月後、サンスリーは別の領地で依頼を探しているときに、期限切れの依頼の中から、あのダイヤ鉱山の新たな依頼を見つけ、王都の介入で解放されて、また別の権力者の手に渡った事を知り「想像通りだな」と呟く。


斡旋所にはサンスリーと職員の男しかおらず、斡旋所の男が退屈凌ぎに、「何があったか興味あるかい?」と聞いてくる。


「ないな。4ヶ月前、あの鉱山にいた魔物を知っているから、なんとなく想像はつくさ」

「へ?そうなのかい?まあ反転騎士が現れて暴れたんだろ?ロクな土地じゃない。もうあそこは忌み土地だな」


サンスリーは想定外の内容に、「何?反転騎士?確かにあの騎士は精神汚染されていたが、そこまでじゃなかったぞ?それに前の時は怨み玉だ」と言うと、男は「怨み玉からの反転騎士ね。最悪だな」と言って、もう一度「興味あるかい?」と聞いてきた。


「酒を奢ろう。ボトルでいいか?」

「ありがとよ」


酒を持ってきたサンスリーを休憩用のテーブルに招き、コップに酒を注ぐと、男は更にサンスリーの体験した4ヶ月前を聞いてきて、ざっと経緯を話すと「ありがとよ。じゃあ俺の話だな。反転騎士はリャントーって男だったよ。嫁さんと娘が、本人の療養中に鉱山の囮に使われたらしい」と語り出した。


鉱山を奪還した権力者はリャントーから何があったかを聞き、怨み玉に関しては思い当たる節しかないので、変な余裕を見せていた。

そして、赤ん坊の使用を禁止して、仮に赤ん坊で怨み玉ができても、シスターと傭兵とミルク粥に聖木と聖水があれば簡単に解決できると曲解をした。


精神汚染と聞き、騎士であるリャントーが反転して反転騎士の魔物になる可能性から、ゴネられる事もなく暇をもらった所までは良かったが、妻子は領地の家族達を気にして、男と旅には出なかった。また、移動速度面でリャントーの治療の迷惑になりたくないと言って見送ったことが裏目に出る。


リャントーが旅に出て7日目、復旧したばかりのダイヤモンド鉱山の囮に使われてしまう。

理由は働かない騎士の家族を領地に置く意味がないとか、そんなくだらないものだった。

それも後腐れないように、リャントーの家族は妻子のみだったが、妻にはいた家族達も皆囮にされた。


2ヶ月後、戻ってきたリャントーは家族に何があったかを知り、慌てて鉱山に向かう。

瘴気を浴びて精神汚染まであったリャントーには、入り口から聞こえてくる妻と娘、家族達の声により、瘴気をまとった反転騎士となる。


手始めに鉱山の人間を皆殺しにしたリャントーは、権力者の元には向かわずに、家族と共に過ごすように鉱山を占拠すると、奪還に来た元同僚達や「また頼む」と言っていた傭兵達を片っ端から殺してしまう。


聖水を持ってきた者も、聖木を持ってきた者も、派遣されたシスターも関係なく殺してしまう。


遂には巡礼から帰ってきたシスターが、リャントーを説得して成仏させると言って鉱山まで来たが、そんなシスターまで殺してしまう。


その頃にはリャントーは反転騎士として、殺された者たちの無念を怨み玉に作り替えるだけではなく、それを自分と合わせた、とてつもない存在になっていた。


あの怨み玉は成仏したが、別で殺された子供達や、あの怨み玉とは相性の問題で怨み玉にならなかった子供達すらリャントーの力で怨み玉に変えてしまい、全てを取り込んでしまっていた。


権力者はバカ丸出しで、リャントーにミルク粥を渡すが、あれは子供の怨み玉だから効果があるわけで、この場合だとリャントーには家族しかいないが、家族は全員死んでいるので何も通用しない。


最終的に独立した行動が可能な教会が王都に告げ口をする形で、死霊専門の騎士団が送り込まれてリャントーは強制的に成仏させられる。

権力者は責任を取らされて、ダイヤモンド鉱山の放棄ととてつもない額の罰金と賠償金を払う事になり、それらから逃げる為に自害を選び、家族に代替わりをした。

ダイヤモンド鉱山に関わる賠償金よりは、自害による代替わりの方がはるかに安い。


こうしてダイヤモンド鉱山はまた新たな権力者に無理矢理押し付けられる事となった。


リャントーのあの真面目な顔と態度。

あれだけの怨み玉を成仏させた心根を持つシスター。


惜しい人を亡くしたとサンスリーは思いながら、選ばなかった「人攫いの殲滅と攫われた娘の保護」の依頼を受けることにする。


受けなかったのは、「可能な限り娘の足取りを追い、保護してほしい。それが肉片一つでも、骨の一片でも保護してほしい」とあったからだった。


どうせ権力者や、権力者の息がかかった相手が好き勝手やっている。

完遂して報告を行っても、笑顔で「ありがとう」と言われることなんてない。絶望の慟哭の中、後払い部分を請求して人でなしの言葉をぶつけられる。


今回はなんだろうな。

娘が幼ければこの前の画家みたいな事もありえる。

まだマシなコースだと、薬物と洗脳魔法で記憶を綺麗に消されて、権力者の娘にされている事もある。

後味の悪さで言えば、娘のお友達が欲しかったとかいう理由で攫われるケースもある。飽きて処分される前なら娘も帰りたがらない。

逆に人攫いのような思いをする羽目になる。


娘が妙齢なら、それこそロクな目に遭っていないだろう。

男でも攫われれば容易に起きる事だが、性処理に使われるなら性器を改造されて、人に戻れなくなっている事もある。

そんな娘を連れ帰っても親は喜ばない。


前にあった攫われた青年は、一日中権力者の女を悦ばせるだけの存在にされていて、一日中尽きないようにさせられていた。

あの親も、改造されてしまい日常生活に戻れない子供が戻っても喜ぶ事なく、泣き叫んで最後には家に火を放ち、家族での死を選んでいた。


だが依頼は依頼。


サンスリーは契約を済ませると、人攫いが棲みつく廃墟を目指していた。


「ドルテ?勝手に出てくるなよ」

「やだよゲイザー!殺そうよ!」

「お前は本当に殺したがるな」

「だって悪い奴が居なくなれば世の中は平和だよ」

そんな声が聞こえてきた気がした。

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