第10話 怨みとダイヤモンド02/04。
狩場を変えていれば、こういう事にもなる。
サンスリーは自重気味に、近寄ろうとしなかった実家周辺の土地に来ていた。
聞こえてくる噂で、兄のイーワンの悪い評判は聞かない。甥にあたるパイハンの悪い噂も聞かない。
まあ、聞かないだけで、「ない」とは言っていない。
権力者らしく、ほかの権力者と変わらないだろう。
イーワンは自身の経験から、溺愛している愛息子のパイハンが、きょうだいから命を狙われないためにも、2人目以降の子供を作らなかった。
問題が起きるとしたら、それが原因になるだろう。
それなりのトラブルが散見する中、サンスリーの目を引く依頼があった。
ダイヤモンド鉱山に発生した、モンスターの原因究明と排除、鉱山の奪還任務だった。
このダイヤモンド鉱山は、元々はサンスリーの父、パイレーが所有していたが、サンスリーの【自由行使権】を国から買うために手放したもので、手放してこんなにすぐに魔物の巣窟になるのは通常あり得ない話だった。
手放す際には審査がある。
トラブルは無いか、魔物や山賊が住み着いていないか、出土するダイヤモンドの品質。
そういうモノを全て審査されて許可が下りて初めて手放せる。
だからこそ、こんなに早く魔物の巣窟になるのは通常あり得なかった。
今の所有者は国ではなく別の権力者で、父も上手いのは、後30年もせずに枯渇するダイヤモンド鉱山を手放した事。
それは枯渇した鉱山を手放すには国に賠償金を支払う羽目になるので、思い入れがなければ、損をしないためにも何処かで手放す必要が出る。
だが、ダイヤモンド鉱山を手放して手に入れられるものはそうない。
等価交換に等しくないと多大な税金がかかる。
そして枯渇させるためにはいかなくて、遊ばせておけばまた更に課税される。
【自由行使権】は、それを考えればよい買い物で、兄のイーワンはこの内容に内心ホッとしただろう。
だから税金分プラス利益を求めると、あの鉱山は30年しかもたない。
一度権利を手に入れてしまうと地獄だ。
権利は買うものが現れなければ、常識的な距離の権力者が国から命じられて、10年分の利益相当の価値で買わされる。
この点ではパイレーは手放した人間なので、買い戻すことは許されないし、言いようによっては免除になる。
そして手に入れたものを、5年は手放せないルールがある。
最後まで持っていたものが負ける、ババ抜きのような状態になる。
そんな鉱山だが、最もよろしくないのは魔物の氾濫になる。
魔物が確認されて、一定期間内に解決できないと、王都から騎士団が問題解決に現れて、権力者に賠償金を求めるし、魔物の氾濫の原因が、突然発生するダンジョンコアによるものならまだしも、野良の魔物が住み着いて魔物の巣に成り果てた場合なんかには、責任の所在が権力者にあり、管理を怠ったとして更に罰金と追徴金を課してくる。
それを考えると、破格の条件で冒険者を雇おうとする気持ちもわかる。
サンスリーは依頼を受けると斡旋所で言い、受領証明書を渡されるとダイヤモンド鉱山へと向かった。
7日後、常識的な時間で鉱山に着いたサンスリーは頭を抱えて呆れてしまう。
「どうやったらこうなる?」と思わず呟いてしまうのは、鉱山が放つ瘴気が、通常の魔物の巣窟や氾濫とは違い、ここから採れるダイヤモンドに白い輝きは期待できず、悪魔崇拝者達が喜ぶような、瘴気を放つ呪いの媒介にしかならないのではないかと思えたからだった。
今も一攫千金を夢見てきた賞金稼ぎ達が瘴気に当てられて泡を吹いて倒れたのだろう、仲間に連れられて来ていたり、瘴気に当てられて反転して魔物化してしまいそうになり、頭を抑えて「やめてくれ!」と叫びながら逃げ出してくる。
まだこの位置ならば、ある程度の実力者は平気で、権力者に仕える兵士が「お前は無事なようだな。原因究明と奪還を頼むぞ」と声をかけてくる。
3食寝床付きなんて滅多にない条件だが、破格の条件にはそれだけの事があるわけで、サンスリーはため息の後で、「鉱山なんだよな?中で悪魔召喚の儀式とかしてないんだよな?」と聞く。
顔色を変えて「それすら調査解決をするのがお前の仕事だろう!」と言って怒鳴る兵士に、「多分、奥に行くと出てくる魔物はアンデッドの類だ。斡旋所に書かれていた支給品では装備が足りない。銀の武器を持ってこい」と言ったサンスリーは、「様子見をしてくる」と言って鉱山に向かって行った。
鉱山の手前ですら地獄絵図だった。
紫色に染まったゴブリンやオークが凶暴化していてサンスリーに襲いかかってくる。
「まあいい。ドルテ。暴れろ」と指示をしたサンスリーは、軒並み迫ってくる魔物達をドルテで葬り去ると、鉱山の入り口に到着する。
その時、サンスリーの耳には赤ん坊の泣き声のようなものが聞こえてきて、嫌な予感に襲われる。
「十中八九か…最悪だな」と言って戻り、昼食を食べ終わると、銀の武器を持った兵士が来た。
「持ってきたぞ!奪還して来い!」
「足らんな。とりあえず入り口まで行ってきた。周りのゴブリンやオークなら倒した。まあ明日にはまた増える。見てくるなら今のうちだ。銀の武器はひとまずこれでいい。足りないのは聖水とミルク粥と清めた聖木、後はシスターだ。それ以外に鉱山の現場監督を見つけ出して、どうやって採掘をしていたか聞いて来い。どうせお前達は採掘時の護衛に駆り出されなかったのだろう?」
一度に話すサンスリーに兵士が困惑した顔で聞き返すと、「まずは採掘方法を聞いて来い。そして必要なものをそろえろ。明日には更に悪化するぞ。際限なく悪化をして王都が動いてみろ、高額な罰金と賠償請求は確定だ。ここの権力者の家が吹き飛べばお前達も路頭に迷う」と言って追い出してしまう。
食後のサンスリーはドルテを鍛える為にも、「食べた分は働く、周辺の魔物を倒しておこう」と配給に言って、鉱山を目指すと再び集まっていた魔物達を倒して夕方を迎える。
本当なら鉱山の奥にドルテを行かせられれば良かったが、今回の魔物はそういう類ではなかった。
夕方になり陣地に戻ると、サンスリーのお使いを終えて戻ってきていた兵士が、真っ青な顔でサンスリーを見て「ゲイザー、お前は何を知っている?」と聞いてきた。
「中の魔物は怨み玉になってる。素体はわかるな?」
「…子供…なのか?」
「そうだ」
「なんで…そんな…」
振るえて顔を覆う兵士を見てサンスリーは想像力が足りないと呆れてしまう。
「簡単だ。買わされた鉱山で、いち早く利益を出す為には何をする?節制や倹約だ。ここの持ち主は、あまり考えが及ぶタイプではないのだろうな。かける所をかけて安くするところは安くする。それを間違ったから、幼い子供を攫ってきて、箱詰めして鉱山の枯れてしまった部分に追いやり、魔物達がそっちに夢中になっている間に掘り進むのさ」
「わ…わかっていたのか?」
「赤ん坊の声が聞こえた時にな…。鉱山で子供の泣き声、瘴気、凶暴化する魔物。すぐに目星はつく。無いのは証拠くらいだ。いくらなんでも、子供を何人も攫って殺せば数だって足りなくなる。それで連中は愚かにも赤ん坊に手を出したんだ」
「それはどうなる?」
見た感じ兵士に魔法の素養はない。
だからこそ知識不足で想像力も欠如してしまう。
サンスリーは生徒に教える教師のように「魔法を習う時の基礎に近い。赤ん坊の魂っていうのは穏やかでシンプル。汚れていないから強い力を持っている。本当なら優しい両親の元で幸せになれるかもと思っていたのに、攫われて箱詰めされて魔物の餌、そして周りには子供達の犠牲者までいた。赤ん坊が子供達の無念を集めて増幅したんだ」と説明をした。
「な…なんという事を…」
「ちなみに言うなら、集まっていた魔物達は雌だ。魔物にも母性はあるんだろうな。凶暴化は子を守る親としての本能のようなものだ。繁殖期に巣に近づくと襲われるだろ?」
ここまで聞いた兵士は真っ青な顔で今にも倒れそうになっているが、サンスリーは容赦なく追い討ちをかけていく。
「なあ、なんで子供だと思う?」
「何?」
「餌なんて大人でも変わらないだろ?大人の方が身が多い」
「そ…、それは大人の方が暴れたり逃げたり…」
「箱詰めの時に手足を縛るんだ。暗い鉱山の中で魔物から逃げ切れるかよ」と呆れながら言ったサンスリーは、そのまま「晩飯の鶏肉と一緒だよ。若鶏なんて権力者しか食えないだろ?権力者が身が固くなる老齢の肉なんて好んで食うか?自分たちが襲われないように確実にうまい餌を置いたんだよ」と続ける。
聞いていた男はついに夕食の匂いもあり吐いてしまう。
サンスリーは意地悪く笑うと「な?早く成仏させてやろう。言ったものを明日朝までに必ず用意しろ」と言うと、兵士は必死になって行動を開始していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます