第17話 強キャラとの邂逅
それから、ルーシーの言う通り、俺たちは学校内を回って見た。
やっぱりゲームの設定通り、貴族の騎士になるための施設が贅沢に揃っている。
まるで某夢の国みたいな広さに、一通り回るだけでもそれなりに疲労感を感じるほどだ。
最後に俺たちの寝る宿舎に着いて、扉を開けて見ると俺は驚嘆する。
広い。ベッドがデカい。隣の部屋なに……? あっ、貴賓室か。……いや、なんで生徒の部屋にお茶会やる部屋あるの!?
そんな風に部屋を見回していると――。
「少し狭いですが生活する分には困りませんわね」
――これで狭いんかい、と俺は心の中でセレスにツッコんだ。
俺は改めて貴族との身分差に呆れる。
まぁ、確かにセレスは厄介者扱いされていたとはいえ、屋敷ではもっと広い部屋を与えられていた。
もしここが俺の部屋だったら一人でベッドに転がって大はしゃぎしていただろう。
と、そこで俺は違和感に気づいた。なぜか俺の荷物がここに置かれている。
「はえ~。広いですね。さすがは姐さん。ここに比べたらアタシの部屋なんて物置ですよ。グレンさんの部屋はどんなもんなんですか?」
「ん、そうだな……。マリン」
「なに? お兄」
「俺の部屋はどこなんだ?」
その質問にマリンとセレスが顔を見合わせた。
「ここだけど」
「ここですわ」
ん? なんだって……?
「いや、ここはセレスの部屋だろ」
「だから、お嬢様とお兄の部屋だって」
一瞬だけ静寂が部屋を支配した。
……ってまさかの相部屋ァ! 学園で同棲生活ってそれ許されるの!?
「今更なにを戸惑っていますの? 貴方様。お屋敷ではよく私の部屋に泊まっていたではありませんか」
「いや、そりゃそうだけど!」
「は!? どういうことですかグレンさん!?」
「そういうことですわ。ルーシー」
俺の服に掴みかかったルーシーに、ニコっとセレスが微笑んでみせる。
すると、そのままルーシーがフリーズした。
「はぇ……」
たらーっとルーシーの鼻から赤い液体が垂れる。
お年頃の少女には刺激が強すぎたらしい。
だが、まぁ……そういう関係だ。いずれ露見することを隠していても仕方がない。
「ちょ、ちょっとお手洗いにいってきまふ……」
「お、おう」
ハンカチで鼻を押さえたルーシーがよろよろと退室していった。
「ふふっ、可愛いらしいですわね」
その後ろ姿を見て微笑むセレスだった。
◇ ◇ ◇
編入初日。
授業の開始までの間、雑談をしている生徒たちが廊下にひしめく中、人混みがさっと割れる。
その人物が通り過ぎる瞬間だけ生徒たちの声は静まり返っていた。
セレスである。
「あれが帝国から来た【凶兆の紅い瞳】か?」
「恐ろしいですわ……」
後ろからひそひそと話す声が聞こえて、俺は振り返りそうになった。
だが――。
「貴方様。気にしないでくださいまし」
「お前がそういうなら……」
――当のセレスはそれを全く気にかけず、凛とした姿で歩く。
とはいえ、気になるものは気になる。
セレスは今まで顔を隠して、屋敷という小さな世界で生きてきた。
それがやっと顔を晒し、しかも学校という場で同年代の若者と触れ合えるというのはきっと嬉しいはずだ。
だというのに、ここでも迫害の対象になるというのが俺は我慢ならない。
セレスだって友達を作りたいはずだ。他愛ない話をして笑い合いたいはずだ。
そう思うのは俺の傲慢なのか。
そう唇を噛んでいると、前の方から元気そうな声がかかった。
「姐さん! おはようございます!」
ルーシーだった。
こいつは良い意味でも悪い意味でも空気を読まないな!?
「おはよう、ルーシー。今日も元気ですわね」
「もっちろん! あ、グレンさんもおはようございます!」
「ついでみたいに挨拶するな!?」
「姐さんの陰で見えなかったんですよ~」
嘘つけ! セレスより俺の方が背が上なんだぞ。
そんな俺を置いておいて、ルーシーはセレスの前を歩く。
「姐さんたちとアタシは同じクラスですから案内します!」
「あらあら。ではお願いしますわ」
そうして前へと歩こうとしたルーシーは、何かを見止めて足を止めた。
その視線の先には廊下のド真ん中で腕を組んで立つ美女の姿がある。
品のある金髪を後ろでまとめた、青い瞳の女子生徒。同時に有無を言わせぬような圧を感じさせる出で立ちだった。
周囲にも取り巻きがついていて、相当な実力者だとわかる。
そして、その顔にはゲームで見覚えがあった。確か名前は――。
「ジェスティーヌ……!」
そうだ。ジェスティーヌだ。彼女もまたドールに選ばれた者で、しかも公爵令嬢というお偉い様だ。
「何か用か!?」
「用があるのは貴様ではない。私はそちらの留学生に会いに来た」
言うとジェスティーヌは歩を進め、こちらに向かってくる。
そしてルーシーを無視してセレスの前に立つと、一礼した。
「ジェスティーヌ・ヴィル・ロンデクスだ」
「セレスティア・ヴァン・アルトレイドと申します。お会いできて光栄ですわ」
「噂は聞いている。初陣で魔獣二体を仕留め、その後もゴーレムの中隊を相手に単騎で快勝したとな」
「あらあら。物騒なお話ばかりでお恥ずかしい限りですわ」
「貴女ならば栄誉なことであろう。それともその実力は貴公のおかげか?」
ジェスティーヌの視線が俺を貫く。
「いや、セレスだろうな。俺は元平民だし」
「なっ!? 貴様、元平民の癖に……! ジェスティーヌ様に向かってなんという口のきき方を!?」
あっ、つい急に水を向けられて普通に喋ってしまった。
けれど、ジェスティーヌに関しては
彼女は手で制して、俺の左腕に目をやった。
「よい。ドールに見初められた貴公には私と対等に話す権利がある。そうであろう?」
ジェスティーヌは左腕を掲げる。
見れば、そこには赤い腕輪が巻かれていた。
ペルのものとは宝玉がない辺り、形状が違うが、それは間違いなくドールの腕輪だった。
「そういうものなのか? ならそうさせてもらう」
「フフッ、肝が据わっている。しかも従者に【凶兆の紅い瞳】を選んでいるときた。貴公は恐れを知らんようだな」
褒められてるのか……?
お偉いさんのところのお嬢様の考えることはよくわからないが、これがジェスティーヌだ。
序盤でも仲間にできるキャラの中でもダントツに戦闘力の高いキャラである。
だがその反面、仲間にするにはこんな問答で彼女を満足させつつ、相当な運も必要とされる。
ジェスティーヌの前では堂々としていた方がいい。
それがゲームで得ていた知識の一つだった。
あとは彼女の気まぐれ次第で仲間になるのだが――。
「放課後、茶会を開こう。どうかな、セレスティア嬢」
「まぁ! よろしいですの?」
「アタシも行っていい?」
「阿呆か貴様。私はセレスティア嬢と話したいのだ。三下は泥水でも啜っておけ」
――こんな感じで相手にされないこともある。
ルーシーはジェスティーヌを仲間にするのに失敗したようだ。
というか無茶苦茶、棘のある言い方をされてる。なにやったんだコイツ。
しかし、序盤の強キャラと隠しボスの邂逅。果たしてどう転ぶのか……。
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