第12話 今すぐアタシと決闘だ!

元々は中編部門応募作品でしたが、10万文字を超えましたので連載を開始します!

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「うっわ、本当にいるよ……」

「わざわざドールに乗って押しかけて決闘とは……ずいぶん貴方様にご熱心なのですね」


 街の城門の前。

 そこには赤い髪とそれに倣ったカラーリングの衣装を着たドールが仁王立ちで待ち構えていた。


 たしかにあれは主人公の騎体だ。


『グレンとかいう騎士はアンタね!? 今すぐアタシと決闘だ!』


 なんでぇ……?


 俺は頭を抱える。

 主人公はゲームではドールに認められた後、騎士学校へと入学するのだ。そして、魔獣退治したり、仲間と冒険をしたりして経験値を稼ぐはず。

 いきなり戦争に駆り出されたりはしないし、もっと言えばこんなところに来て決闘を申し込んだりはしない。


 もしかして、色々とストーリーが変わっちゃってる?


「ふふ、可愛い。少しは楽しめるのでしょうか」


 うわぁ、セレスはやる気満々だ。

 その紅い瞳が凶悪な光を放っている。


 できれば主人公とは関りを持ちたくなかったが、逃げるという選択肢はなかった。

 

 仕方がない。


 俺は黒い腕輪に向かって話しかける。


「来い。ペル」

『了解、マスター😑』


 十数秒後、工房の方からドカンと音がして、俺たちの目の前に漆黒のドレスを翻したドールが着地した。


『そっ、それがアンタのドール……! つ、強そうね……!』


 素直か!


 はやくもたじろいでいるルクレツィアに呆れていると、【ペルラネラ】が振り返って手を差し出してくる。

 俺はセレスの手を引いてその手のひらに乗ると、騎乗席へと乗り込んだ。


 すでに【ペルラネラ】は戦闘可能な状態にある。


 最後に俺が火器管制をオンにしていると、声がかかった。


『じゃあさっそく始めるぞ!』

「まぁ待てって。ここでやると街に迷惑がかかる。お前が今踏んでるそこも畑なんだぞ」

『うぇっ!?』


 赤い髪のドールから奇怪な声が上がって、片足を上げる。


 ……なんというか、悪いやつじゃなさそうだ。

 主人公だから当然なんだけど、色々と未熟な部分があるように思える。


「ふふっ、ついてきてくださいまして?」


 俺の代わりにセレスが呼びかけると、【ペルラネラ】が跳躍した。

 人の足では何十分もかかるであろう距離も、ドールにかかればひとっ飛びだ。

 

 街の外壁からさらに離れた場所。ここまでくればなにもない。

 

 さて、ルクレツィアはといえば……なにやらえっちらおっちらとおぼつかない足取りで後を追ってきていた。

 畑をなるべく踏まないよう気をつけているらしい。

 

 傲慢な貴族様ならそんなもの気にしないだろうが、ルクレツィアは平民出身だ。

 村の近くの鉱山で発掘されたドールに、呼び寄せられるようにして搭乗してしまい、そして選ばれる少女。


 俺はそんなルクレツィアに若干の同情の念を抱かざるをえない。


 選ばれた結果、騎士学校に入学し、平民出身となじられながらもひたむきに努力する。

 その結果、突然始まった戦争で武勲を上げ、仲間たちと成長しながらも世界の敵と戦い――……って遅ぇな!?


「日が暮れてしまいますわ。はわっ……」


 セレスがあくびをしながらレバーを前後に動かし始めた。

 それに合わせて【ペルラネラ】がブンブンとアンスウェラーを振り回す。


 一応ご令嬢なのだから蛮族じみた仕草はやめてほしい。


 それからしばらくして、やっとこさルクレツィアのドールは目の前に立った。


『ま、待たせたわね!』

「ほんとにな……」


 言いながら構えると、相手のドールも直剣を真っ直ぐに据える。


「合図は要らないな。行くぞ」

『いつでも、来い!』


 なら好きにさせてもらおう。

 

 俺たちは一気にレバーを押した。

 小手調べのアンスウェラーの大振り。それを叩きつけると、主人公のドールは数歩下がりつつもそれに耐えた。


『ぐうぅ!?』


 だがその威力に驚いたのか、相手は背中のブースターを起動して後ろに飛ぶ。

 

「あら、意外と」

「ドールだってことには違いないか」


 ここまでの挙動からして、まだ主人公はそこまでの技量を身につけていないと【情報解析】が告げていた。

 てっきり最初の一撃で吹っ飛ぶものかと思ったが、ドールの性能に助けられたらしい。


『こ、ここからだ! ついてこれるか!?』


 相手はブースターを吹かして横にダッシュする。

 そして、後ろ腰から抜いたライフルをこちらに連射してきた。


 確かに速い。


 だが、あれでは逃げているだけだ。追う必要はない。移動しながらの射撃もあって精度も低い。

 直撃弾だけをアンスウェラーの剣身で防ぎつつも冷静に判断する。


 ライフルだけで【ペルラネラ】は仕留めきれない。

 それは相手もわかっているだろう。


 必ずあの速度を乗せた近接攻撃が来る。


 と、思っていると案の定、相手は進行方向をこちらに変えた。

 だが速度に振り回されているのか、若干体勢を崩している。


 それを見逃す俺たちじゃない。


『やあああぁぁっ!』

 

 剣を振りかぶって突撃してくる相手。

 それに対し、【ペルラネラ】は――。


『あっ』


 ――身をかがめて足をかけた。


 響く迂闊な声。主人公のドールの表情のない顔がゆっくりと傾いでいく。


『うわあああぁぁ!?』


 

 相手のドールは実に見事に、これ以上ないほど派手に転んだ。


 

「はぁ~……。退屈ですわ」


 セレスは拡声器をオンにした状態でクソデカため息をつく。

 そして地面に叩きつけられたまま、起き上がれずにいる相手の背中を踏んだ。


「わざわざ国境を越えてまで決闘をしにくるのですから……」


 バキャッ、と音がさせて相手の背中の羽のようなブースターを捻り折る。


「少しは愉しませてくれると思ったのですけれど……!」


 ついでに対になっているもう一本のブースターももぎ取った。


「これでは戦場で使い物にならないとわからなくて!?」


 最後にもう一度体重をかけて踏み潰すと、地面に打ちつけられたドールから土煙が上がる。


「せ、セレス。ストップストップ」


 そのままアンスウェラーで串刺しにしようとしたセレスを俺は止めた。


 ルクレツィアに同情していたのもあるが、なによりこいつは主人公なのだ。

 ここで死なれると後々、世界が大変なことになる可能性がある。

 

 そもそも決闘というが、俺たちはなにを賭けて決闘していたのか。

 

 

 ――そう、なにも賭けていない。

 

 

 ルクレツィアの勢いにつられて始めてしまったものの、なんの話もしないまま戦ってしまったのだ。

 決闘の重要な部分が抜け落ちた、こんなアホな戦闘で命を落としてもらっては困る。


「おーい、生きてるか~?」

『う、う~ん……』


 どうやら中で気を失っているらしい。

 

「本っ当に退屈ですわ!」


 ガン! とアンスウェラーを地面に突き刺しながら、セレスは鬱憤を吐き出した。


 さて、こいつはどうすればいいんだろうか。

 

 俺は頭をガシガシと掻きつつ、足元で伸びているドールを見下ろすのだった。


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