第7話 登校
そして月曜日、(今日学校行く)というメールが来た。最近佐々木さんは保健室にすら行っていない。
俺とのこの前のお出かけでまた学校に行く選択ができたのはいいことだ……
まあ、学校行かなくなったのも俺達のせいではあるけども。
そして、月曜日学校に向かうと、教室に異質な人がいた。そう、佐々木さんだ。
まさか学校に行くというのは保健室に行くではなく、教室に行くということとは思っていなかった。
成長したな。
「おはよう、昭くん」
そう、木村さん話しかけられる。
「どうしたのそんな顔して」
「いいからこれ見ろ」
そう小声で耳打ちすると気づいたみたいで、嬉しそうな顔をした。
「美優ちゃん!」
木村さんはそう言って佐々木さんに抱き着こうとする。しかし、佐々木さんはそれに対して逃げる。
「当たり前だろ」
「……」
木村さんはショックそうな顔をしている。拒否されたのがそんなに嫌だったのか。
さて、俺が話しかけに行こうか。
「佐々木さん……こんにちは」
話しかけに行く。
「うん、こんにちは」
そう返されると、佐々木さんはすぐに、「こっち来て」と言って俺を教室の外に連れて行った。
「どうしたんだ?」
「やっぱり怖いの」
「……木村さんは?」
「どう接したらいいのか分からない」
そうか。おそらく二人の感じからして、木村さんと佐々木さんは事件以来会っていないのだろう。
「私、正直事件の前のことあまり覚えていないの。記憶はあるんだけど、他人の物、過去の物という感じが強くて、だからあの人には、上手く……」
「分かった。俺が伝えとくよ。気に病む必要はない。だって、君が一番大変なんだから」
「ありがとう」
とりあえず木村さんは悲しむだろうな、とふと思った。
だが、木村さんにその事を伝えると、意外に悲しそうではなかった。それどころか「良かった、嫌われてたわけじゃないのね」と、ほっとしていた。
「佐々木さんはお前に申し訳なさそうにしていたぞ」
「……そう。ならまた友達になれるように、少しずつ距離を縮めていくわ」
「ああ。急にはやめろよ」
さっきのハグを思い出しながら言う。
「分かってるよ」
そして俺たちは教室に戻る。他の生徒にじろじろと見られている。まあそりゃあ周りから見たらミステリアスな女子に教室の外に連れていかれたわけだからそうなるよな。
そしてそのまま授業が始まった。
佐々木さんがいること以外はいつもと変わらない教室だ。先生も敢えて佐々木さんに触れはしないし、佐々木さんに当てたりしない。
確かに佐々木さんに良く戻ってきたなみたいなことを先生が言ったら佐々木さん的に気まずいだろう。だけど、当てないというのはどういったことだろうかと思った。
だが、確かに答えられない可能性もあるからその考えも分かる。
とりあえず、腫れ物に触るような扱いにならないといいなと、隣の佐々木さんを見て思った。
そして授業が終わった後、すぐに佐々木さんに話しかける。
「どうだった? 復帰後初の授業は」
佐々木さんの反応が正直怖い。佐々木さんはいじめを受けたとか、そう言う問題ではない。だが、教室という空気感は、佐々木さんにもきついものがあるだろう。
何しろ、皆大騒ぎしているのだ。周りを見渡しても、「この俳優マジイケメンじゃね」だとか、「おお! 田中またホームラン打ってる。マジすげえな」だとか、そんな話がちらほら聴こえる。
「……正直、私はここにいていいのかわからない。でも、思ったよりは平気でびっくりした」
そう、佐々木さんが言った。それは良かったと、言おうとしたら佐々木さんがまた口を開いた。
「でも、毎日はしんどいかも」
そりゃあ当たり前だ。一日やそこらで周囲に溶け込めるわけがない。
「まあ、まずは週一とかで様子を見たらいいんじゃないか? 出来るならだけど」
「うん……そうだね」
そして俺たちの会話は止まった。
「昭!!」
そしてその瞬間に康生が来た。あいつなりに待っててくれていたのだろう。そして、康生と話をする。
そして一日の授業が終わった。最後の方は佐々木さんの希望で、佐々木さんにも充てられることになった。その際に彼女はきれいな声で「3x二乗+4x+2です」と数学の答えを言った。微分だ。
正解だった。ちなみに俺は答えが分からなかった。
教室中から軽く拍手をされ気まずそうだった。
そして授業が終わった後、佐々木さんに声をかけようと思ったらすぐに帰っていた。
そりゃあそうかと、諦めた。
康生に妥協でお前と帰るわ、と言ったら、「お前、俺は二番手かよ」そう言われた。
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