第6話 デート

 内容は(今日二人でどこかに出かけませんか)というものだ。まるでこの前とは真反対の反応だ。もしかして、人に慣れる訓練とかをしたいからという事なのか?

 だが、理由は何にせよ、彼女が家を出る決意をしてくれたことはうれしいことだ。

 すぐに(OK、分かった)と、返信した。

 そして、即座に待ち合わせ場所に向かった。すると、おしゃれな格好をしている佐々木さんがいた。


「佐々木さんお待たせ」


 というと、すぐに佐々木さんは無言で俺を引っ張って行った。

 それから無言で佐々木さんについて行く。そう言えば今日向かう場所は知らないな。


「本当は……」佐々木さんが口を開いた。

「優香ちゃんと行きたかったけど。あまり親しくない人と行くのがいいって言われたから……」


 なるほど……優香ちゃんナイス!



 そして俺たちは遊園地に入った。まさかの場所だ。

 遊園地っすか?

 

 デートスポットが過ぎる。だが、ここには人が多い。佐々木さんのリハビリにもぴったりだろう。

 ただ、その肝心の佐々木さんは、かなりおびえてはいるが、

 流石にいきなりここはきつかったのかな。


「佐々木さん、もしきつかったら行ってくれ。助けるから」

「……」


 無反応だ。だけど、たぶん聞いてはくれてはいるだろう。


 さて、


「何に乗る?」

「ジェットコースターで」


 一瞬思っていなかった答えが返ってきてびっくりしたが、佐々木さんの意向を尊重しようと、ジェットコースターに向かう。

 ジェットコースターは得意だ。何しろ、叫ぶことが出来る。それに佐々木さんがどういう感じでジェットコースターに乗るのか楽しみだ。


 そして、ジェットコースターに乗る。順番自体は早くに来たのだ。


 ベル度でしっかりと体を固定し、ジェットコースターが走る。そのスピードはものすごく、俺は叫ぶ。ああ、スリリングだ。楽しい。……と、隣の佐々木さんはどんな感じだ?

 あ、めっちゃ無表情。どう考えているんだ?

 そして、ジェットコースターが終わった。


「私は……」


 佐々木さんが話した。


「やっぱり人が怖い。並んでいる時はそうでもなかったけど……いざ乗ると、周りの人の絶叫の声がやっぱり怖く感じる。どうしても人の声を聞くと、あの地獄の日々を思い出して」


 やはり思っていた通り、遊園地がきついか。


「なら、これはどう?」


 そう言って、観覧車に連れていく。


「ここなら周りの声は聞こえないだろ」

「うん」


 そして二人で無言で外の景色を見る。

 そのまま地面に着いた。


「私……」佐々木さんが口を開いた。「今日ここに来てよかったと思ってる」

「それは良かった」

「久しぶりに、学校以外で出かけたら思ったよりも楽しくて、不思議な感じがした。こうして景色を見るのも久しぶりだった気がする」

「だったら、もっと景色が楽しめるような場所に行かないか?」

「え?」


 そして俺は佐々木さんを連れて近くの山登り場に行った。ここでは自然を楽しみながら、舗装された道を歩く事が出来る。

 実際の山登りとは違うく、そうそう迷子になりづらいし、山登りの最中に様々な景色を楽しめるという事で人気な場所だ。


「ここなら人もいないし、思う存分楽しめるだろ」

「うん……そうね」


 そして二人で無言で山を登っていく。佐々木さんは何も話さないが、その足取りから楽しいのだろうという事は分かる。

 言葉などいらない。佐々木さんが楽しんでいるならそれでいい。


 そして佐々木さんは自然の豊かさをしっかりと享受しているように感じる。








「はあはあ」


 佐々木さんが急にその場に座り込んだ。


「どうしたんだ?」

「体力が……持たなくて」


 そうだった、佐々木さんは引きこもり、運動なんて生き返りしかしてないだろう。そりゃあ急に山登りなんてしたら、体力が切れるに決まっている。


「佐々木さん。とりあえずこれ」


 そう言ってカバンから未開封のペットボトルを渡す。中身は爽健美茶だ。


「ありがとう」


 そう言って佐々木さんはごくごくと飲む。


「とりあえず、体力回復するまでここで待ってるからさ」

「……うん」


 そして佐々木さんの隣に座る。だが、気まずい。気まずさに耐えかねてスマホをいじる。

 よく考えたら佐々木さんみたいな美女と二人並んで吸わtぅているという事態がおかしいのだ。

 考えたら意識してしまう。


 そしてすぐに回復すると思っていた佐々木さんの体力はようやく回復したらしく、俺たちは再び歩き始める。だが無理はしてはいけないという事で、少しずつ、ゆっくりと歩き出す。

 こうしていると、不思議な感覚にまた陥る。

 こんなにゆっくりと歩くのなんて初めてだ。

 本来山歩きなんてこんなスピードで歩くのが一番いいのかもしれない。


「っ」


 そんな声が後ろから聴こえてきた。その声に呼応して後ろを振り返る。すると、佐々木さんが足を抑えていた。

 その佐々木さんの足元には段差があった。

 これは、この段差で足をくじいた?


 理由はともかく、今は佐々木さんが苦しんでいる。佐々木さんを助けなければ、その一心で佐々木さんに駆け寄る。


「傷の具合は?」

「大丈夫じゃないみたい」


 これは、歩くのを避けた方がいい。祖思ったが、そこで困ったのはこの場所だ。何しろ、中間地点、全然出口には近く無いのだ。


「佐々木さん、やっぱり歩けなさそうか?」

「うん」


 困ったな。近くに人もいないし、時間が経てば佐々木さんが歩けるようになるという話でもなさそうだ。


 仕方がない。奥の手を取るか。あまりとりたくはなかったが。


「佐々木さん、俺の背中に乗って」


 そう、奥の手とは、おんぶだ。佐々木さんを背負うという事だ。


「嫌ならいいけど」


 嫌われるのがいやで、そう付け加える。


「今の状況だと仕方がないでしょ」


 流石佐々木さん、呑み込みが早い。


「じゃあ、おぶるね」

「うん」


 そして、佐々木さんが俺の背中に乗る。

 あれ?

 想像よりも軽くてびっくりした。

 女子を背負ったことはないのだが、年頃の女子だともう少し重くてもいいはずなのだが。

 ストレスのせいか。

 確かストレスのせいで拒食症になる人がいるという話を聞いたことがある。流石にそこまではひどくはないと思うが、食事が喉を通らない、食欲が回復していない可能性がある。佐々木さんも大変だなと思った。

 そして当然ながら、少し緊張する。

 これは早くこの山を抜けなければ。



 そして四〇分程度歩き続け、ようやく出口まで来た。


「そう言えば佐々木さんって親家にいる?」

「いるけど……たぶん今は仕事」

「そうか」


 てことは、家に送り返したらみっしょんクリアクリアなわけではないという事だな。

 そして、山から出たはいいものの、周りの視線がかなり気になる。確かに女子高生をおぶる男子高校生はレアだけれども。

 普通に気まずい。佐々木さんの表情はこちらからは見えないが、恐らく視線をうっとおしそうにしてるだろう。

 早く佐々木さんの家に行かなければ。


 そして家に着いた。


「佐々木さん鍵は?」


 鍵が無ければ家の中に入れない。


「あ、うん」


 佐々木さんが家の鍵を開けて、それに続いて俺も家に入る。そしてベッドまで来たところで佐々木さんを背中から卸、ベッドに乗せた。


 ここで困った。普通に帰ってもいいとは思うが、この状況の佐々木さんを一人置いていくわけにもいかない。だが、俺自身、どう包帯巻くとか分からないんだよな。


「大丈夫だから」

「え?」

「一人で大丈夫だから帰って」

「あ、ああ。でも少し待って」


 そして俺は佐々木さんのベッドの近くに色々と置いといた。イスと机、さらには置いてあった食料、そして、包帯など様々なものだ。これで大きな移動をしなくても済むだろう。


「ありがとう」

「当たり前のことだから」


 そして俺は帰った。

 こうして濃密すぎる一日は無事終わりを告げたのであった。

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