俺が好きになった人は誘拐された人
有原優
第1話 連絡先
俺は今中学生二年生の高津昭。ただの平凡な中学生だ。
今日も今日とて学校へと向かう。
うちの通学路には小学校が近くにあり、小学生の楽しそうな声が聞こえる。
それを見るとなんとなくだが、楽しくなる。
学校は隙でも嫌いでもない。授業は面白いし。楽しい。
学校に着くと、友達の木村康生が「お! 昭おはよう」と言ってきた。それに対し俺も「おはよう」と返す。
「今日もここには来ないのな、佐々木さん」
「そうだな」
佐々木さんというのは俺の斜め前の席の佐々木美優さん。
最初に二か月来た後、誘拐事件に巻き込まれてそのまま学校に来れなくなったのだ。夏休み明けから誘拐から解放されたはずだが、彼女は精神を病んでしまったようで、保健室でオンライン授業を特別に受けているらしい。
とはいえ、俺の斜め前の席なだけで、ほとんど接点がなかった俺には関係が無い。
そして、授業が始まる。そして適当に授業を受けて、昼休みになった。
昼休み、康生とくだらない話を一緒にする。授業の話やアニメの話などだ。
そして午後の授業は体育の授業だった。
「行くぞ!」
俺はそう言ってボールをける。サッカーは正直言ってそこそこ得意だ。ボールを蹴り進み、ゴールを決めていき、周りの人たちとハイタッチをする。俺はどちらかと言えば陰キャ寄りの性格だが、なぜかスポーツは得意だった。
だが、そんなスポーツ中、俺は足をすりむいてしまった。そして俺は康生に肩を支えられながら保健室へと向かう。
「大丈夫か?」
そう、保健室に向かう途中で、康生が言った。結論から言えば大丈夫ではない。何しろ足をすりむいてしまっているのだ。
これで平気なわけがない。康生の助けが無かったら歩けないくらいだ。だが、そんなことを言ったら恥ずかしいので、痛いという気持ちをおくびにも出さずに、「全然へーき」と笑って言う。
そして保健室に行く。すると、遠くから授業の音が聞こえた。うちの保健室は大きく、佐々木さんの部屋には個室が与えられているらしい。そして俺は入り口付近のベッドに寝かされた。
「少しうるさくなってごめんね」
「いやいやそんな」
たぶんうるさくなるとは、佐々木さんの話だろう。とはいえ、佐々木さんも佐々木さんで苦労してるのだ。文句など言えるはずがない。
そしてそれを遠目に聞きながらベッドに寝ころぶ。もう今更戻っても体育の授業は終わってるからだ。
そして授業が終わり、着替えようとベットから立ち上がろうとしたとき、
「あ」
トイレにでも行こうとしているのか、佐々木美優さんが俺の目の前を歩いた。その顔は明らかに生気を失っており、観ているだけで痛々しい感じだった。
「あの!」
その顔を見ているとふと声をかけてしまった。佐々木さんは誘拐のせいで人恐怖症になってしまっているのに。
「……何」
その声は冷たいそれだった。俺に対して何の感情を持ってない感じの声だ。これは人恐怖症とは少し違うんじゃないかとも思う。
この世のすべてに興味を持っていないのじゃないかという風に思ってしまう。ただ、俺はその姿を黙ってみていることが出来ない。これは恋なのかもしれないし、ただの憐みの気持ちかもしれない。ただ、俺は彼女と友達になりたいと思ってしまった。
「友達になってくれませんか」
そんな意味の分からないことを提案したのはもう運命だったのかもしれない。
「なんで……あなたと友達にならなくちゃならないの?」
そう言って彼女は部屋を飛び出していった。客観的にこの状況を見ると、どう考えても俺が振られた感じだ。その状況を見てた先生が、
「あの子、誘拐の後から人とかかわろうとしないのよ。ごめんね」
と謝った。別に先生が悪いわけではないのに。俺がどう返したらいいのかわからないまま戸惑っていると、「でも、あの子の心の蓋を開けてくれると助かるわ」と言ってくれた。
どうやら、先生は佐々木さんの感情の蓋を開けてほしいと思っているらしい。
現状維持はだめだと思っているのだろうか。
そして俺は「うん」と一言こたえた。俺の目的は決まった。
そして戻ってきた佐々木さんに、「連絡先交換しない?」と言った。それに対して佐々木さんは? でも言いたげな顔をしていた。
まあ、はたから見たらストーカーに思えるだろう。誘拐された経験のある佐々木さんにとってはそんな人と連絡先を交換したいとは思わないけど、ここは根気よく行くしかない。
「俺は君と仲良くなりたいんだ。だからお願い」
「……」
「お願い」
俺にはこういうしかない。
「分かった」
諦めてくれたらしい。俺はそう言った佐々木さんにQRコードを見せて、連絡先交換する。そして俺の友達欄に佐々木美優という名前が追加された。
これだけでも大きな一歩だ。そう思いうれしくなった。そしてもう教室に戻らなきゃならないなと思って、「じゃあ」と佐々木さんに手を振って、保健室を出た。佐々木さんも動揺しながら手を振り返してくれた。
そして教室に戻ると、康生が「もう大丈夫か?」と訊いてくれた。もう痛さは収まってきてたので、今度は本気の笑顔で「大丈夫!!」と返した。
そして、康生と二人で帰ることになるが
「ちょっと待って」
と、一言言ってスマホを取り出した。
「おい、どうしたんだ?」
「いや、ちょっと。連絡したい相手がいて」
「誰だ?」
「君も知っている人だよ。この教室にはいないけど」
「おいおい、まさか?」
そう言って康生は俺のスマホを見た。そこには佐々木さんとのトーク画面がある。康生が俺のスマホを見ていることは気にせずに、『一緒に帰りませんか?』と送った。
「おいおい、いきなりすぎだろ。そう言うのは段階を踏んでやるものだぜ」
「うるさい」
そう、言う構成を無視して返信を待った。もう既読は着いたからすぐに返信は来るはずだ。
すると、
『別にいいです』
そう冷たい言葉が返ってきた。
「おいおい振られたな、昭」
「うるさい」
どうやら今日はにやにやとした顔の康生と一緒に帰るしかないようだ。
そして二人で帰っている中、佐々木さんを探す。だが、周りの大勢の高校生の中にはその顔はなかった。
まあ、そんなに簡単に見つかるわけはないよな、とため息をついた。
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