第15話 鈴奈の家

 緊張しながらピンポンを押す。俺は彼女の家に入るのが初めてだ。つまり鈴奈の親がどんな人なのかも知らない。

 ああ、緊張するな。

 ああ、緊張する。


「はい」


女性が出てきた。40台後半くらいだろう。


「鈴奈さんのお見舞いに来ました」

「はい、どうぞ」


 そして俺は彼女の部屋へと通された。


「それで、もしかして鈴奈の彼氏だったりする?」

「……違いますよ。ただの友達です」

「そう、まあでも来てくれてよかったわ。あの子も大分暇そうにしてたしね」

「そうですか」


 それを聞いて少しだけ嬉しく思う。


「あ、浩二君。ヤッホー!!」

「ああ、ヤッホー」

「来てくれたんだ」

「まあ、俺も寂しかったしな」

「それ、ツンデレ?」

「いや、ツンの部分がないツンデレだ」

「うれしいこと言っちゃって」


 そう言って鈴奈は楽しそうな顔をした。


「それで、今はどんな感じだ?」

「んー結構大丈夫かな? まあ、精神は大丈夫じゃないけど」

「……」

「だから私、ストレス解消してもいいかな? 浩二君を殴って」

「そんな冗談を言えるんだったら大丈夫という事か」


 いつもの鈴奈だ。


「全然大丈夫じゃないよ!」


 そう言って鈴奈は俺の背中をパンパンと、強く叩いた。理不尽だ。

 そしてしばらく話した後、「私、ゲームがしたいなあ」と、鈴奈が言い出した。


「ゲームって意外だな」

「まあね。こういう状態だから取れる選択肢よ」

「じゃあ、ゲーム用意してくれ」

「えー、病人にやらすの?」

「じゃあ、お前の部屋を荒らしてもいいか?」

「いいよ。宝探しゲームみたいで楽しいから。それで私はその光景をベッドの上から眺めるの。王様みたいにね」

「嫌な王様だな」

「えへへ、探してみよ!」


 そんな彼女の悪乗りを無視して、部屋の中を探る。とはいえ、女子の部屋で探してもいいものなのだろうか。なんとなく怒られそうな気もする。

 そして俺は、近くにあった棚を探る。


「いいセンスだね。そこを探すっていうのは」と、言われた。


 偉そうな声で。


「てことはそこにあるのか?」

「どうかなあ、ある可能性もあるし、ない可能性もある。その真実は私だけが知ってるんだよ」

「ほう、俺もそれを知りたいところだがな」

「えー、教えたら面白くないよね。自分の力で探すからこそ価値のあるものなんだよ」

「……」


 やばいな面倒くさい。そろそろイライラしてきた。これ一上続いたら鈴奈の家に行ったことを後悔しそうだ。


 そして案の定、棚の中にはない。

 続いて、ベッドの下を探す。鈴奈から「えー私がそんなところに隠してると思ってるの?」と、煽り口調で言われたが、俺は無視して探す。ベッドの下、机の上のプリントの中、あらゆるところを探したが、一切見つからない。


「お前、もしかして」


 ある可能性を考えた。鈴奈ならやりそうな手だ。


「何?」

「セクハラとかで訴えてくれんなよ?」


 そして俺は彼女の布団の中を探す。彼女の抵抗を無視して。


「え? ちょっと? 変態!?」


 何と言われようが、先に仕掛けたのはあっちだ。


「あったじゃねえか。お前」


 そう、俺はゲーム機を鈴奈のパジャマのズボンのポケットから見つけた。やっぱり隠し持っていやがったか。


「そりゃあ見つからないわけだわ。こんなところにあっちゃな。それでどうしてくれるんだ? お前は俺をもてあそんだことになるが」

「えー。すみませんでした!!!」


 そう、彼女はベッドの上で俺に向かって土下座した。


「本当に悪意しかなかったんです。見つからない浩二君を煽りたかっただけで」

「本当に悪意しかないな。驚くほどに」


そんな謝罪初めて見た。


「ごめんなさあああいい。という訳でゲームしましょう」

「切り替え速いんだよ。全く」


 そして俺たちはカートレースゲームをすることにした。


「私はこのゲーム好きだから覚悟しといてね」

「ああ」


 そしてゲームが開始された。俺は安定をとって、加速の速いキャラにした。それに対して彼女はスピードの高いキャラだ。


「そのキャラを選ぶなんて、初心者向けだよ?」

「良いんだよ。扱いの難しいキャラを上手くないのに使って自滅するよりは」

「私は自滅しないよ」

「それは……どうかな?」


 そしてレースが始まった。俺のキャラは上手くインコース攻めして、速度を早めていく。それに対して彼女は……うん。カーブを曲がりきれずにぶつかって減速を繰り返している。


「その車やめた方が良いんじゃねえか?」

「いやいや、まだこれからだよ!」


 と、彼女はアイテムを使い急加速してみせた。


「でも、それで俺に勝てるか?」

「大丈夫だよ。私の真価はここからだよ」


 そう言って、鈴奈はなんとか連続カーブを回り切った。


「さっきは久々だから調子が出なかっただけ」

「ふーん。でも油断するとまたああなるぞ」

「大丈夫もう油断しないから」


 と、猛スピードで猛追してくる。正直言って速いな、そろそろ抜かされそうだ。


「お」


 そんな時に、上から雷が降ってきた。全員に当たる雷だ、くらったらアイテムを使った人以外の全員雷を喰らってしまう。


「お前はその車だから復帰が遅いけど、俺は早いんだよ」


 そう言ってまたスピードを上げていく。そして、いつのまにか俺の独走状態になる。


「これだから俺は加速重視なんだ」


 そしてそのままゴールした。


「あー、悔しい! もう一回!」

「お前病人じゃなかったのか?」

「もう病気はほとんど治ってるから」

「あー、そうか。じゃあそれは言い訳にはできんな」


 そして十レースほどやった。俺の六勝四敗だ。


「あー、負け越し悔しいな。またリベンジしたいな。てかして良い?」

「それは良いに決まっているだろ」

「あー、私もこんな感じで浩二くんと一生カードレースゲームだけできたらなあ。本当死神さん。あなたのせいだからね」


「死神さん曰く、それ以上私のせいにしたら寿命短くするだって。口が上手いね」

「……そういえば補習テストっていつからなんだ?」


「えっと、来週の月曜と火曜にやるんだって。二日で十二個という鬼畜さ。マジで病人の気持ち考えてないよね」

「ってことは鈴菜にとっての夏休みは来週の水曜からか」

「まーねでも、水曜日にもテスト取りに行かなきゃならないからその後かな」

「……勉強ちゃんとしとけよ」

「分かってるって!」


その後もう数試合して、家に帰った。

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