第16話 告白練習

「朱里ちゃん。今日はね、手伝ってほしいことがあるの」


 朝ご飯を食べている最中にそう言われた。

 一体何なのだろうか。


「今日はね、告白の練習に付き合ってほしいの」


 告白の練習。

 という事は誰かに告白するという事だ。

 相手は? 俺しかいない。


 つまり俺に対する告白の練習を俺相手に理恵子はすることになる。

 いやいや、面白い状況じゃねえか。


「だから、食後は私の部屋に来て」

「私じゃダメなの?」


 そう、武美ちゃんが言う。


「うーん。武美じゃあ練習相手にならないと思うよ」

「同じ女なのに!?」

「うん」


 武美ちゃんはしょんぼりとする。

 まあ自分の妹相手に告白練習なんてできる人はまあいないだろうしな。


 そして、食後、理恵子の部屋に行った。


「じゃあ、練習開始するね」

「……ええ」


 緊張するな。


「奏君」毒ドキっとする。まあ、それも俺の本名が奏だからだが。


「私、あなたのことが好きなの、付き合ってくれない?」


 そう、理恵子は静かに言った。

 だが、本番じゃないからか、緊張はしていない様子だ。

 目の前にいるのが、まさに奏なんだがな。

 だが、そんなこと理恵子が気付くはずもない。



「それで……私はどうしたらいいの?」

「男性口調で、告白を受諾するか決めて?」


 そういわれても、男性口調の俺なんて奏になってしまうんだが。

 というか、ムズ!


「私、山崎君とはそこまで接点があるわけじゃないのだけど」

「まあ、似てなくていいからさ」


 困ったぞ。

 俺の奏に対する解析度なんて世界三つの指に入る。

 だが、朱里(理恵子視点)は普通に奏の解析度が低いはずだ。

 その差をどう演技で埋めればいいのだろうか。



「悪いけど、俺はその告白を受けられない」


 適当にイメージを作る。そして声もあくまでも朱里にそって、

 普通にくそむずいぞこれ。


「断るの?」

「だって断るパターンもあるかもしれないのだから」

「なるほど。そこを私が何とか承諾まで持っていくっていう事ね」

「ええ」

「よし!」


 理恵子は自身の頬をたたく。



「なんでダメなの!?」


 演技モードに戻ったようだ。


「それは、俺が」


 なんかハズい。


「他に好きな人がいるからです」

「誰?」

「武村さんです」


 自分を出す。まあ、俺がかかわるような女子ってほとんどいないからな。


「そっか、じゃあ、私朱里ちゃん負けないから……! 私毎日奏君にアタックするから」

「でも、俺の好きな人はもう決まって……」

「そんなの関係ないもの。だから分かった?」

「う、うん」


「こんな感じでいいのかな?」


 そう、理恵子が呟く。


「ええ、勢いあったと思うわよ」

「そう……てか、奏君の好きな人って朱里ちゃんなの?」

「違うと思うけど」

「でも……あり得るかも」

「え?」

「そんな素振りあったもん」


 まあ確かに、姉ちゃんが朱里訳してた時に、少し姉ちゃんを見すぎてたかもしれないというのはあるかもしれない。


「朱里ちゃん。奏君を取らないでね」

「心配しなくても、そんなことしないわ」


 だって、どっちも俺なんだし。


「てかさ、仮想奏君の好きな人を自分にするって……」


 あ、確かに自画自賛になるか。


「それは、山崎君の女子の交友関係を知らないからよ。もし、ほかの人が好きというパターンだったら私しかいないかなって」


 実際そうだし。


「あ、次はさ、私の魅力が足りないパターンで練習しようよ」

「なんか……楽しんでない?」


 明らかに楽しんでいる感じがする。


「練習だよ。もちろん」


 そう理恵子はあっけからんに言うが、本当にそうとは思えない。


「じゃあ……奏君のことが好きです。付き合ってください!」


 練習第二弾で、理恵子がそう言いだした。

 えっと、断ればいいのか。



「ごめんなさい。どうしても異性とは思えなくて」

「なんでよ。私ほど魅力的な人はいないと思うよ」


 ん?

 漫画とかに影響されてないか?


「もし、私のことを好きになれないんだったら好きになれるように努力するから」

「ちょっと待って。理恵子。それしか語彙ないのかしら?」


 アタックするとしか言ってねえ。


「いいじゃん。これで好きにならせたらいいだけなんだから」


 少なくとも、奏はその言葉はあまり好きじゃない。


「とりあえず、もっといい口説き文句を探そうよ」

「え、てかそもそも朱里ちゃんって男性経験あるの?」

「…………ないわ…………」

「じゃあ、偉そうに言わないでよ」


 そういわれたって、俺男だもん。


 俺が思うに、男というのは大衆的に強い、自分で自分を守れる女よりも、守ってあげたくなる弱い女の方が

 好かれる。

 俺がそうであるわけではないが、理恵子のそれは、個人的にメンヘラみたいな感じで好きではない。

 いい好きではなく、悪い好きである感じだ。

 重い愛が好かれるなどと創作上のことだ。

 少なくとも俺はよくない。


「もっとね、好きな部分を言いながら告白した方がいい気がするわ。それにそもそも告白の言葉が単調すぎるから、もう少し長い方がいいと思う。なんで好きになったのかとか、どんなところが好きなのかとか、色々ね」


 まあ、ここで俺の最も喜ぶ告白ワードを教えてもいいのだが、そもそも俺は告白自体を受けるかどうかまだ未定だ。

 


「なるほど……」


 理恵子は考え込む。そして、


「分かった。じゃあ、それで行くわ」


 そう言った理恵子は頬をパンっと叩き、息を吸う。


「ちょっ待っててね」


 そしてそう言った理恵子は部屋の外に行った。


 そして、数秒の沈黙の後、理恵子が扉を開けた。


「奏君」恥ずかしそうな顔で言う。本気モードだろう。「今日はね、ここに呼んだのは、私の決意を奏君に伝えたかったからなの」


 たどたどしくも理恵子が言う。


「実はね、この前のことなんだけど。あ、奏君が私の家に来た日ね。私の悩みに気付いてくれたよね」


 あの事か、


「ああ、そうだな」


 まあ、朱里がこんなことを知ってるわけはないけどな。


「……それがすごくうれしくて。私が朱里ちゃんと笹原君がしゃべってて寂しく思っていることに気付いてくれたことに」


 おい、それ朱里の前で言っていいのかよ。


「だからね、昨日の奏君は朱里の代わりになったの。というか、本当に楽しかった。それで奏君の魅力に気付いたの。だからね、単刀直入に言うわ。奏君、好きです。付き合ってください」


 そう言って理恵子は頭を下げる。

 それを見て一つ思う。

 ただの練習なのに気合入ってるなと。


 ただ、理恵子は不器用だ。普通にそこは魅力ポイントだと思う。


 おっと、俺までつられてしまった。


「いいよ」

「やった!」


「理恵子、まだ練習よ」


 理恵子が万歳してたので、さすがにそう言った。


「そうだった……」


 そう言ってため息をつく理恵子。


「でもね、大丈夫だよ。その奏君もきっとわかってくれるよ」

「うん」


 そして告白は三日後に行うことになった。

 さて、三日後までに答えを出さなければな。そう深く思った。

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