第13話 名探偵修平

 そして五日後、修平に二人で出かけようという話になった。

 朱里ではなく奏だ。

 別に嫌なわけではない。出かける。


 修平から伝えられた場所は、修平の家だった。


「おう、いらっしゃい奏」

「ああ」


 そして建物の中に入る。


 修平の家は前にも来たことがあるので知ってるが、相変わらずの汚部屋おべやだ。

 修平も一人暮らしとは言えこれで困らないのだろうか。

 どんな汚さかというと、修平の読みかけの漫画や、食べかけのお菓子、ゲームカセットが地面に転がっている。

 流石にここに俺を読んだ勇気は認める。


「それで、ゲームでもしたいのか?」

「ああ、そうだ。だけどその前に少しいいか?」

「ん?」


 そして修平はスマホをいじる。

 何をしてるんだ、修平。



 その時俺のスマホがぶるぶる震える。

 まさか、こいつ朱里に電話をかけてんのか?

 マナーモードにしといてよかった。


 そうじゃなかったらここでばれてしまっている。

 ここはどうしたんだ? と訊きたいところだ。だが、それは出来ない。

 やっすい刑事ドラマの犯人がやりがちなことだ。知らないはずの情報を吐いてしまうという事は。


「さて、奏、一つ聞きたいことがある。本当に朱里さんとは関係が無いんだな」


 そう、凄みのある顔で修平が言う。


「無いよ」


 あるという訳がない。そんなことを言ったらもう破滅だ。最悪姉ちゃんを朱里にすることもできるかもしれないが、素の見た目が全然違うという、困難な点もある。


 さて、何でこんなに怪しまれているんだ?


「そうか、ならいいけど。……お前が朱里さんだったら容赦しないからな」


 遊園地でそんな怪しい行動したか?

 そもそも最後に好きだよ朱里さんみたいなこと言ってただろ。

 どういう事だよアレハ、おい。


「俺が武村さん? 冗談はやめろよ」


 マジで、証拠がない。


「俺、色々考えたんだよ。朱里さんには変なところが色々と会ったんだよ。髪の毛の濡れ具合とか、海に行きたがらない理由とか、それに……奏そっくりだったんだ。朱里さんが喜んでいる姿が」

「そうか、でも武村さんは俺とは本当に関係が無い。赤の他人だ」


 くそ、調子に乗りすぎたか?

 もうばれないよなって。

 だが、これで諦めてくれ。


「それに証拠はある。これだ」


 だが、俺の希望を砕くように、修平が見せてくれたのは、俺が朱莉の状態の時に家に入る写真だ。


「朱莉さんはいつも俺と逆方向の電車に乗る。変だと思ったんだ。家は近いはずなのに。だから、俺は朱莉さんを尾行した。そしたら次の駅で俺と同じ電車に乗ったんだ。そして着いていくと、俺と同じ駅に着くし、山崎という看板がついた家に入るし、本当おかしかった。これはお前と朱里さんが無関係座ない人間だということだ」

「いや、それは……」

「頼む、真実を伝えてくれ」

「……俺は」


 どうしよう何も言えねえ。一昨日、その時まで隠し通すって決めたばかりなのに。

 かくなるうえは、


「俺は女装してる」


 正直に話すしかない。正直とりたくない手段だ。もっといい言い訳が思いつければ良かったのだが。

 それも無理らしい。


「そうか……俺はやっぱりお前に恋してしまっていたんだな。……はあ、ガッカリだよ」

「それはすまん」

「いや、勝手に一目惚れしたのはこっちだから。まあ、もっと早く言って欲しかったというのはあるけど」

「……」

「で、なんで始めたんだ?」

「ああ……」


 俺はその訳を始めた。

 正直言いたくないことばかりだ。何しろ,特殊な趣味なのだから。


 俺はずっと普通ではなかった。何もかもが他の人とは違った。子どものころから、かっこいいよりもかわいいが好きだった。だが、それを親には言えなかった。

 男子はかっこいいものが好きだとされているからだ。俺は別に女子になりたかったわけではなかった。男であるという自覚はある。

 だが、女子の服、女子の髪の毛、それらに憧れを抱いていた。

 勿論そんなこと、親に言えるはずがなかった。認められても、認められないのも嫌だったからだ。

 俺は早く自由になりたかった。


 だから姉に見られた時、困ったと同時にある希望を持った。姉が俺の特殊なこの気持ちを分かってもらえる間のしれないからだ。

 姉は俺と同じでおしゃれ好きだ。


 だから、姉が笑いながらも認めてくれたのは嬉しかった。

 ああ、認めてくれる人もいるんだ、と。

 だから、その時から俺はお姉ちゃんに色々と相談し始めた。

 お姉ちゃんはそれから何を言っても笑う事はあれど、馬鹿にしてくることはなかったのだ。


 そして、高校の時に一人暮らしを懇願した。一人暮らしなら家をどんな形にしても大丈夫だから、可愛いもので埋め尽くそうと思った。

 お母さんやお父さんにはそんなことは言っていない。

 絶対に認められないと思うから。実際、悪い意味で昭和のお父さんだ。

 男らしくいなさい、だとか、男なら泣くなとか何回言われたことか。

 もしかしたら女らしさを求めたのはその反発かもしれない。


 そして、理恵子との出会いの事も。

 理恵子と友達になったのは、別に女子に近付きたかった訳でもないし、理恵子に対して恋愛感情も抱いていないと。

 それに、あの時は理恵子から先に話しかけられたのだし。


 そして姉ちゃんのこと。あの日に秀平と一緒にいたのは姉ちゃんで、あの日は頼んで成り代わってもらってたこと。

 修平が違和感を感じたのは当然のことであること。


 



「分かった、そういう事なんだな」

「ああ、決して邪なことを考えていた訳ではない」

「わかった。そういうことにしとくよ」


 はいはい、という感じでいう修平。


「で、悪いんだが理恵子には……」

「言わねえよ。俺が墓場まで持っていく」


 まさかそう言われるとは思っていなかったな。


「俺は……言ったら馬鹿にされるのかと思ってたよ」

「馬鹿にはしねえよ。だって友達だろ」


 本当もっと早く言ってたら良かったよ。親友を信じてなかった。


「じゃあさ」

「ん?」

「お前のためにたまにたまに女装してやろうか?」

「ん、いや、正体知っちゃってるからなあ。だが、それも面白いかもな」

「ああ、じゃあ今度やるわ」


 そして俺たちは互いに笑った。




 SIDE修平


 今日は言おうかどうか迷ってたことを言った。

 俺は本当は好きな人の正体が親友だなんて知りたくなかった。

 やっぱり思ってしまうんだ。

 昨日尾行なんてしなければ良かったかなって。

 そしたら男に、親友に延々と恋するなんてことはあっても、あかりさんの正体に気づくなんて事はなかった。



 俺の初恋は思えば変な形で終わりを迎えたな。

 朱莉さんの正体が女性ではなく、親友だと判明することで。

 だが、今なら思える。

 これは経験だって。

 おそらく世界中に、初恋相手が女装した親友相手だった人なんてほとんどいないだろう。


 だが、恋は別のところで探すしかないのかなと思うと,少しだけ複雑ではあるけど。


 SIDE奏


 俺はずっと、修平に申し訳なさを抱いていた。親友をだましている罪悪感を。

 だから今日ばれて気分がすっきりしている。

 理恵子に関してもだ。理恵子は俺のことを女だと思っているのだろう。

 俺は理恵子にもこのことを伝えた方が楽になるのだろうか。

 だが、そんなことは許されない。理恵子に秘密を明かしたら理恵子との関係はなくなってしまうのだろう。


 最近ずっと感じてしまうんだ。理恵子をだましているという罪悪感を。


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