第10話 勉強会
そして日が経ちテスト前になり、理恵子の家で勉強会をすることになった。
よって、修平と
「奏君が来ないなんて残念だわ」
そう言う。まあ、ここにはいるが。
「用事なんだってさ」
「こればよかったのにね」
そう、理恵子に向かって言う。
「ねえ、朱里ちゃん」
「何?」
「もしかして山崎君のことが好きなの?」
そう理恵子が耳打ちしてくる。俺が俺のことを好きってこと。
「そんなわけないじゃない」
そう否定しておく。それは本当にかなわぬ恋過ぎる。
「てか、修平君がいる前でそんなこと言わないでくれるかしら」
もし修平に聞こえたらややこしいことになるだろうが。
「そう言えば朱里ちゃんって勉強できるの?」
「そうね……かなりできるわ」
さもなくば、一人暮らしなんて夢のまた夢だったし。
「へー、奏も勉強できるんだよな」
「なら私がその奏君の代わりをしてあげるわ」
「おう、それは助かるな」
代わりと言っても、同一人物だけどな。
そして、俺は丁寧に修平に勉強を教える。奏の時は話なんて聞かなかったくせに、げんきんなやつだ。
だが、こちらとして、それはありがたい。修平が補習受けるのは見たくないからだ。
「朱里ちゃん! こぅちもお願い」
理恵子がそう言って、俺は理恵子のもとにもいく。
「そっか、二人とも同じ学校だから同じ教科書なのね」
そう、理恵子に言う。まあ俺も同じ学校なんだが。
「朱里ちゃんは違うんだっけ」
「ええ、私はこの教科書だから」
そして前もって用意していた教科書を見せる。うちの姉の学校の教科書だ。偏差値が俺たちの学校よりも六程度高い。
「やっぱり朱里ちゃん賢そうね」
「賢そうじゃなくて賢いのよ……」
そして理恵子にも勉強を教える。理恵子の成績は知らない。正直うちの学校は成績を貼ったりなどはしないのだから。
だが、教えていくうちに、理恵子の成績が心配になった。これは修平よりも馬鹿かもしれない。
勉強ができないとは思っていなかった。
一から教えないとな。
「ここは、……」
そう教えること一時間半、二人共かなり理解してくれたようだ。
「本当、二人共勉強できないわよね」
「それは面目ない」
「朱里ちゃん!! 言わないで」
「ふふ、良いのよ。教え甲斐があるっていうものだから。……というか、そろそろお腹すかない?」
俺はかなりすいてきた。そろそろ腹ペコだ。時間は一二時半、お昼ご飯を食べる時間だ。
「そう言えばそうだな」
お、修平も同意してくれた。
「そうだ! ファミレス行かない?」
そう、理恵子が上機嫌で言ってきた。
「ファミレス?」
「うん。ついでに勉強できるしいいでしょ? 朱里ちゃん」
「まあ、私は別にいいけれど」
「じゃあ、決定ね。行こう!!」
「……もしかして、理恵子……嫌なんでもない」
ファミレスに行くのが夢だった? とか言おうとしたが、そう言えばこの前行ってたからそれはない。ならなぜこんなに上機嫌なのだろう。
そして俺たちは勉強道具を持って近くのファミレスに行く。理恵子はと言えばものすごくテンションが高い。なんかもう、わくわくが暴走しすぎて、本当に面白い感じになっている。
「ねえねえ、私夢だったの。友達とファミレス」
「理恵子……ファミレスならこの前言ったじゃない」
「違うのよ。勉強がよ。テスト前に一緒に勉強すること自体、楽しみなの!!」
この無邪気な笑顔。理恵子、良かったなと、少し思った。
「じゃあ、早く行きましょう。理恵子の夢をかなえるためにも」
そして俺は歩く速度を上げる。すると理恵子が「うん!」と言って俺の手をつかみ、並んで歩く。
ファミレス。そこは先週も行ったが、やはり特別な場所だ。確かに理恵子がいう事も分かる。
「じゃあ、理恵子は分かっていると思うけど、しっかりと勉強してね」
「うん!」
「おう」
そして、私達は数学の教科書を開く。本来ならテスト前の勉強だけでいいが、出来るならそれ以外のところもやりたいところだ。やはり苦手なところはなくしたいわけだし。
そして一通りやった後、
意を期して、「予習もやらない?」と言った。さて、二人の顔を見る。明らかに嫌な顔をしている。
「テスト前だから。これだけにしようよ。朱里ちゃん」
「でも……二人が心配だわ。だって、二人共勉強できてないじゃない」
「いや、でもそれでテストに失敗したらっ元も子もないと思うんだ」
「それもそうね。ならテスト後にしましょう」
それに対して、嫌な顔をする二人。
「大丈夫。勉強したら楽しいわよ」
それに急かば回れ。絶対いま勉強した方が、のちに楽になるしな。
数学が終わったら英語だ。こちらは基本的に単語が重要だが、文法も大事だ。丁寧に文法の意味を教える。
英語は数学よりも二人の呑み込みが早く、こちらとしても楽だ。
数学でも思ったのだが、この二人はかしこい、勉強していないだけだ。
そして、理科と国語を教え、社会は自分で勉強してもらう。
ほんの六時間程度の勉強ながら、だいぶ濃密な勉強時間になった。
「じゃあ、テストの点が高得点になることを祈ってるわ」
そう言って俺たちは分かれた。……そう言えば俺自身の勉強はほとんどしてなかった。まあ、教えることも勉強だし、良いか。
そして、翌日。
「修平、今日は武村さんに勉強を教わったって言ってたけど。テスト大丈夫なのかなあ?」
そう、おちょくる。
「大丈夫だって。朱里さん勉強教えるの上手かったから。お前も来ればよかったのに」
「俺は勉強できるから大丈夫なんだよ。お前みたいな馬鹿とは違って」
「そうか」
だが、自習の時間、
「勉強教えてくれ」と、修平が泣きついてきた。
「どうしたんだよ」
いつもはそんなことないのに。
「分かんねえ。教えてくれ」
「珍しいな」
「だって、朱里さんに良い所見せたいし」
なるほど、そう言う目的か。だが、どうであれ修平にやる気が出たのはいいことだ。
「分かった。だが武村さんみたいに教えられるかどうかは分からないけど、それでもいいか?」
教えられるが、教え方が似ていたら怪しまれるからな。
「分かった。奏師匠お願いします」
「私も……受けていい?」
あ、高橋さんも来た。
「もちろんいいぞ。一人も二人も変わらないから」
そして自習時間中に、必死で二人に教えた。朱里と教え方か似てないか、俺は本来昨日のことを知らないわけで、知らないはずのことを言ってしまわないかを、気を付けながら教えた。
その結果、二人共よくわかったみたいで、理解してくれた。これはしばらく奏としても朱里としても教えなければならないな。
そして、あっという間にテスト期間が過ぎていき、テスト返却の日となった。
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