第4章―事件編 第40話 東海豪雨 【2000.9】
前世では、東海豪雨があった月だ。日本列島の南にはなれた場所で台風が発生し、台風により前線が影響し、前線の影響を受けた地域である名古屋市の南東部と北西部において、大雨が降ったことにより川の堤防が決壊して、堤防より低い地域も多く一帯が水浸しになった。その地域に住んでいた前世の私は被害にあい、自宅は浸水にあい床上40cmの床上浸水となった。自宅の外では、自分のベルト付近より上まで濁った水が溜まっていた。自宅は、川から数キロ離れているから、洪水の被害にあうとは当時は思っていなかった。
前世の私は、バイトに行った帰りに車では自宅に帰れずに車を高台に停めて、歩いて帰った記憶がある。歩いて自宅に戻る途中で、浮き輪ボートに乗って自分が歩いている傍らを笑いながらゆっくりと通り過ぎる若いカップルには、衝撃を受けたのを今にも鮮明に覚えている。
朝方になってもまだ水が引かず、自衛隊の皆さんがテレビで見るようなエンジンのついたボートで食料と水を配りに来たのは、初動の速さに驚くと同時に改めて大変な事態だったなと感じた。
少し時間をさかのぼることにした。
東海豪雨の原因である堤防の決壊を防ぐ方法もないので、とりあえず愛知県県内の住人には、水害保険に入ってもらうよう伝えておこう。伝えたとしても入ってくれる人は限られてくるが、何もやらないよりは必要な事だと思う。伝え方も難しい。近いうちに水害が発生する見込みがあるから水害保険に入ってと言っても理解されないので、周知をしていき、少しでも保険に入って頂ければと思う。
そこで会長であるおじいちゃんに頼んで、昔の県庁時代の伝手を頼って話せないかと相談をすることにした。
(でも水害が起こるとおじいちゃんにどうやって相談を持っていけばいいんだろう。)
悩みながら、会長室となるおじいちゃんの部屋に行き、とりあえず相談する事にした。
「会長、統計学上近いうちに東海地区に水害が発生する見込みがあるんだけど、愛知県では水害保険に入っている割合があまり高くないと聞いている。保険に入る事や内容を見直す方法ってない?」
「たしかに地震は昔から起こると思い、地震保険に入る人は多いが、水害なんて起こらないと思っている中で、保険に入る方法?それは無理だろう?」
首をかしげながら、納得してない感じでおじいちゃんが質問を疑問で返してきた。
「昨今、異常気象が始まりつつある中、どこで災害が起こってもおかしくないよ。問題定義は大事だよ。」
俺はわかった風な口調で言う。
「異常気象はわかるが、名古屋で水害なんてずっと起こってないのに、このタイミングで起こるか?」
「今まで起きなかったからこそ、そろそろ発生するのが災害であり、統計学です。」
「なんか、最近統計学って言葉でわしを毎回説得させてないか。まぁ、わかった。とりあえず今年は台風が多いのも含めて問題として水害がいつ起こってもおかしくないと告知できるように、知り合いに相談してみるよ。」
おじいちゃんは、あまり納得いってない状況だったが、孫の相談に乗ってくれることになった。
おじいちゃんは地元の町内会長をしているため、名古屋市内の自治会に水害保険の重要性の文書作成を行い、横展開させて回覧板に水害関連の特集を掲載した。また県庁時代の後輩に頼んで、県知事経由で定期的な記者会見で話題にした。だが記者会見のほうは、各誌記事にあまり取り上げてくれることもなく終わってしまった。
身近な活動をしただけだが、それで少しでも保険に入って頂ければ御の字だ。結果から言えば、加入者数はあまり変わらなかったかもしれない。そこは残念だが仕方ない。保険内容の見直しなんて、そう簡単にやらないからな。
水浸しになった地域一帯は、その年に限り大きく土地価格は減少すると見込まれる。水害後AtoB不動産の営業メンバーには可能な限り土地を購入できるように事前に、地域一帯の家に訪問しながら回るように伝えた。もちろん訪問時には、水害保険加入を進めておいた。町内の回覧板より、訪問営業を行った地域のほうが保険に加入した人が多かったのは、より身近な人が口頭でしっかりと説明したほうが効果的だった結果だ。
さて、災害も近づきつつある中、東海豪雨が起きる数日前の取締役会議の日、私から切り出した。
「台風14号の影響で前線となる東海地方で記録的な豪雨になる見込みです。近年にない積算降水量になる見込みです。緊急対応が取れるように幹部は前日、会社近くのホテルに泊まるようにお願いします。特に名古屋市内や名古屋市近辺の家の方は危険です。災害になった場合、父さんには、AtoBフードサービスの物流網を使って、パンや弁当を最優先で差し入れできるよう陣頭指揮を執ってほしい。会長には、県庁の後輩経由で愛知県知事にAtoBフードサービスが50万人分のパンと水。10万人分の弁当。AtoB投資会社が1億円寄付すると連絡をし、早急に発表してほしいと伝えてほしい。」
「ちょっと待て待て。確かに来週にかけて大雨が降る予定だが、そんな大きな災害になるのか。名古屋市が地震にあうならまだしも、水害にあうのか。台風での水害ならわかるが、台風の影響を受けた前線で豪雨での災害なんて想像がつかんぞ。台風でさえ、名古屋からかなり離れた太平洋にいるんだぞ。対策を取るのは大事だが、無駄な対策は無駄だぞ。」
一郎さんから、当たり前なツッコミが入った。
「誰もが安易に考えていると思いますが、愛知県・岐阜県に限っていえば、今回は未曽有の大被害がある災害です。事前準備が大事なんです。今回は最悪の事態を想定して事前に行動をしてほしく皆さんに協力をしてほしいのです。」
「私のAtoBフードサービスは、まだ先月動き始めたばかりでそこまでの生産能力もないぞ。」
父である俊和も一郎さんと意見を同じに反論した。
「商品に関しては、早急に名古屋にある2大製菓パン会社から購入してでも商品をそろえてほしいです。費用は投資会社の方で負担してもいいです。」
そこまで黙っていた会長が静かに話し出した。
「私もみんなに賛同して反対しているつもりだが、ここまで会社を大きくしたのは孫だ。孫バカと思うかもしれないが、今回は黙って孫に従おう。統計学っていうのはよくわからんが、対策することに越したことはない。後輩にいつでも連絡ができるようにしよう。ちょうどこの間の、水害保険入ろうで連絡を取ったばかりなので、スムーズに県知事まで伝えられると思う。そのために俊和と一緒に駅前のホテルに泊まるが、実家が心配だ。ばあさんと母さんだけ家に二人残しておくのは心配だぞ。」
次郎さんが会話に入ってくれた。
「では、私が会長の家に行こう。災害時に俺は特に対応するような仕事はないし、うちは高台にある。息子たちがいるから万一の場合は、何とかなるので、会長の家は私に任せて頂こう。」
「次郎さん、すまない。家のほうが心配と思うが申し訳ない。私の実家を頼む。」
すまなさそうな表情で次郎さんに頼んだ。
「次郎さん、僕からも申し訳ないけど、お願いします。」
次郎さんの申し出に感謝することにした。
「まぁ社長が未曽有の災害といっているので、社長の実家はしっかりと守るよ。」
会議では、水害に対して早急に手が打てる体制にすることにした。
ちなみに東海豪雨は、名古屋地区の被害がよく取り上げられているが、岐阜県南部では家屋の倒壊や流失といった深刻な被害が出ていたがマスコミにあまり取り上げられることはなかった。
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1999.3 投資会社立ち上げ
1999.4 投資会社 名古屋駅前に本社移転
1999.8 不動産会社買収
1999.9 システム部門立上 システム開発開始
1999.10 薬局/病院資本参入
1999.11 病院/専門学校買収
2000.4 本社移転と決算
2000.7 AtoB貴金属店立ち上げ
2000.8 AtoBフードサービス立ち上げ
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