第2章―会社創業編 第17話 不動産会社の買取 【1999年8月】
数日が立ち、銀行員である伯父の次郎さんから電話が入った。
「予想以上に良い不動産会社を見つけてきたぞ。この会社なら買い取ることができそうだぞ。」
次郎さんは、いい不動産と思われる会社を見つけてきたことがとてもうれしそうに話してくれた。
「ほんとーですか。さすが次郎さん、仕事早いですね。どんな内容ですか。」
「今回の案件は、お前の言う通り資金運用に限界迎え、黒字倒産しそうな会社だぞ。そのため買い取り価格も想定より高くなってしまったがな。」
いつもと若干口調を変えて真剣な声で私に教えてくれた。普段親戚付き合いの人がそんな真剣な声で話さないから新鮮な気持ちになる。
黒字倒産とは、黒字で経営はしているが運営資金が不足して支払いが滞っている中、緊急な支払い金に対応できなくなり、支払期日を迎え支払い金が払えなくなり倒産してしまう会社を指している。
わかりやすく言うと“手元に自由なお金が不足しているときに支払いが重なりお手上げ状態になってしまった会社だ。”
バブル経済が崩壊する前であれば、銀行も会社の運用のために必要な運営資金を貸し出して黒字倒産は免れていたが、バブルが崩壊してからは銀行も担保がない限り運営資金を貸さない事から、黒字倒産という言葉が生まれ、倒産している内、何割かで黒字倒産が発生しているのが最近の状況である。それが今回話を頂いている不動産会社らしい。
「で買い取り資金はいくらですか?」
次の言葉で今後の展開が大きく変わるため、ごくりと思わず喉を鳴らせ回答を急かした。
「会社の価格が2憶円だ。後直近で支払いが発生する資金は3億円必要だ。合わせて5億円でたぶん会社の危機は脱出する。」
買い取り資金5億円となると、順調に資金を増やしているが現時点での口座残高の2分の1だ。かなりリスクが高い買い物となる。だが時間が経てば運用資金も増やせる予定なので、時間の経過によりリスクも減るはずだ。
「次郎さん、銀行はうちに貸してくれないの?」
「3月に設立したばかりのお前の会社に銀行がお金を貸すわけないだろう。どの口が言ってるんだ?」
苦笑いしながら、次郎さんもわかりきっていることを応えてくれた。
「すみません。冗談です。先方の不動産会社の経営陣はどうするって言っていますか?」
「今回の支払いショートの件で、不動産会社の経営に嫌気がさした感じらしい。同族経営の会社で、従業員が50人ぐらい。同族の人は会社内に5人。今回の件で売却ができたら家業から同族の5人は揃って手を引くらしい。同族外で一番上の人は営業と管理の各部長が残ってくれるって話だから、会社の運営自体は大きな問題にならないと思うよ。話がまとまれば経営一族5人が退職かな。他の社員は引き続き勤続してくれると思う。」
次郎さんは書いていたメモ帳を見ながら答えてくれた。
「それはとってもいい話ですね。一族の退職金含めた買取額が2億円で。会社の運営分の補填に3億円で合わせて5億円。週末の経営会議で決定しますが、自分は前に進めるべきと考えています。」
「わかった。そのつもりで進めておく。」
伯父の次郎さんは返事をしながら電話を切った。
でも直近に3憶円の決済資金が必要ってどんなどんぶり経営だよ。後から聞いた話だが、3億円の大半は倒産した取引会社の手形と建設したマンションの支払いが重なり、資金操りに限界を迎えたらしい。
この業界ではよくある手口だな。倒産した会社の手形なんてトランプでいうババを掴まらされたんだろう。運が悪いな。それに付き合わされる従業員は大変だが。
不動産会社との打ち合わせの日となった。自分と一郎さんと次郎さんの3人で行った。
ちなみに一郎さんは、ラクビー選手みたいな体だ。その体で大手不動産勤務時は、新入社員の教育を若いころは任されていたという。俺から言えば、その迫力で教育なら体育会系の部活と大して違わないと思う。
だから一郎さんを前面に出しておけば、問題ない。さらに迫力に負けて価格を安くしてくれないかな。と馬鹿馬鹿しい事を考えていた。
打ち合わせは順調に進み、問題なく買い取ることで話がまとまった。資金ショートが発覚してうわさが広がりつつある中で経営陣一族は、早めに手仕舞いをしたかったらしい為、ごねる事もなく割とすんなりと合意となった。
会社の存続は当面そのままだが、買い取りを機に会社名を変えて旧名はブランドとして残すことにした。
毎週土曜日の朝に経営会議を駅前の投資会社のオフィスで行う事だけは決めた。後は一郎さんに不動産会社の運営を任せることにした。
後日、弁護士立会いのもと、書類にサインを行い買取は完了した。そのまま先方の不動産会社にとどまり、不動産の社員の方を会議室に集める事にした。会議の場で不動産会社を任せる予定の一郎さんが話をし始めた。買収される側の不動産の社員は、不安な顔をされていたので、雇用の保証は問題ない旨を伝えた。
また現状の給料と別に利益がでそうな土地の売買を担当した方には、ランク別で給料と別に金一封を支給する旨を発表した。内容としては、S.A.B.Cランクを付けて通常の取引はCランクとして、Bランク以上となった取引には毎回金一封としたところ、営業社員は、みんな給料が上がると認識でき意欲をみなぎらせている状態となった。
会社の買い取りを決めた頃には、株式の残高口座の資金も順調に増え、当初この話を次郎さんから頂いた日は、今回の全体の資金の内2分の1だったが、買取が決まった今では全体の資金も40億に増加し、5億は全運用資産の12%程となり、負担リスクもかなり低くなった。
一気に50人を超える会社となった。二つの会社を部門で分けているのでグループとして50人規模という感じである。
そして不動産会社を買収する事によって、不動産会社の業務自体は現状使用している場所を引き続き使うことにしたが、社内の管理部門は、アウトソーシングして私が投資会社と統一して行う事によって経費の節約をする事にした。
管理部門を2社分の広さが必要のため将来的には現状のオフィスはすぐに手狭になってくると感じ、一郎さんには、本社の移転先を探してもらうよう頼んだ。
ただすぐに移転はできないと考え、オフィスの入っている管理会社にもう1フロア追加して作業できるスペースを広げるよう依頼をし、来月から2フロアにて作業ができるようオフィスを拡張した。
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1999.3 投資会社立ち上げ
1999.3 高校卒業
1999.4 投資会社 名古屋駅前に本社移転
1999.5-7 親族や佐藤さんなど入社
1999.8 不動産会社買収
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