第4話 昇華

 《防衛省》

 とある一室

「隊員達の死亡者数が増えています…

 これは、超生類ちょうせいるいの勢力が拡大しつつあるのと…

 このままでは自衛隊、特に、陸上自衛隊という組織は維持出来ません…」

 自衛隊の制服姿の男性が報告する

 その報告を聞く4人の男達

 内三人は自衛隊の制服姿で、それぞれ一人掛けのソファーに、テーブルの四つ角に点々と座っていた

 残り一人はデスクの方で、一人掛けのチェアーに、スーツ姿で座る

「火力兵力をもっと前線に投入しますか…?」

 ソファーに座る男性の一人が、チェアーに座る男性に対して問う

《名前:西郷正彦まさひこ

 肩書き:陸上自衛隊 陸上幕僚長》

 しかし、ソファーに座る別の男性が言うのだった

「地を這う虫けら共等、鉄の雨で消し去れば良い…!」

《名前:東雲しののめあきら

 肩書き:航空自衛隊 航空幕僚長》

「…」

 ソファーに座る残りの一人の男性は、少し呆れた表情でその話を聞いていた

《名前:南田良治

 肩書き:海上自衛隊 海上幕僚長》

 すると、チェアーに座る男性が

「日本全土を焼け野原にしたいのか…?

 それに、それらの兵力で手に負えない相手が現れたらどうする気だ…?」

 少し険しい表情で、言うのだった

《名前:石原誠志郎せいしろう

 肩書き:防衛大臣》


《同時刻》

 兵庫、六甲山周辺の住宅地

「ハアハア…」

 住宅と住宅の間の狭い路地を駆け抜ける一人の自衛隊員

 そして、次の瞬間だった

『ボオンッ!!』

 住宅の壁が崩壊し、何かが路地へと突っ込んでくる

「…!」

 前へ受け身を取りながら、それを躱し、路地を抜ける自衛隊員

 路地の方を見ると、そこに居たのは、大人の人間達より少し身長が小さい位の猪の超生類ちょうせいるいであった

 首を振って、頭に被った瓦礫を振り落とす猪の超生類ちょうせいるい

「フゥ…!」

 猪の超生類ちょうせいるいは鼻息を吹き出して、こちらを見てきた


『グッ…!』

 猪の超生類ちょうせいるいが突進してくる

「…!」

 自衛隊員は慌てて、片膝を地面についたまま自動小銃を構え、放つ

『バババッ!!』

 しかし、銃弾は猪の超生類ちょうせいるいに命中しているにも関わらず、猪の超生類ちょうせいるいの突進は止まる気配がない

「…ッ!」

 死を覚悟する自衛隊員

 だが、次の瞬間

「伏せろ!!」

 どこからか、そんな叫び声が聞こえるのだった


『ボオンッ!!』

 突然、猪の超生類ちょうせいるいが爆発に包まれた

「ッ!?」

 身を伏せる自衛隊員に、強烈な爆風が吹き付ける

 辺りが白煙に包まれる中

「大丈夫か…!?」

 身を伏せていた自衛隊員が声のする方を見ると、そこには、個人携帯の対戦車用の無反動砲を肩に担いだ別の自衛隊員が居た

「ここは一旦退くぞ…!」

 その自衛隊員は言う

 しかし

『ボタボタ…』

 何か液体が垂れる音がする

「!?」

 二人の自衛隊員は包まれた白煙の方を見るのだった


 白煙の中から姿を現したのは、左腕を失い、そこから大量の血液を垂らす猪の超生類ちょうせいるいであった

「対戦車用だぞ…!?」

「たった左腕だけ…!?」

 驚く二人の自衛隊員

 すると

「図に乗るなよ、人間…」

 と猪の超生類ちょうせいるいは呟き

 次の瞬間

「ヴォォォ…!!」

 天に向かって、遠吠えするかのように叫ぶのだった

「…?」

 周りを警戒して、見渡す二人の自衛隊員

『サササ…』

 風が吹き抜ける音が響く


 だが、次の瞬間だった

『ザッ!!!』

「!?」

 辺り一帯の住宅の屋根の上に、ライフル銃を構えた猪の超生類ちょうせいるい達が無数に姿を現す

「有り得ない…!

 まるで人間ではないか…」

 自衛隊員の一人が呟く

 猪の超生類ちょうせいるい達の手の4本指は、まるで人間達のように進化していて、器用にライフル銃の引き金を握っていた

 その光景に呆然としていた自衛隊員の二人

 そして、次の瞬間だった

 猪の超生類ちょうせいるい達の一斉射撃が始まる

『バババババ!!!』

 四方八方から降り注ぐ銃弾の雨


 銃撃が止み、静寂に包まれる住宅街

 自衛隊員の二人は、蜂の巣状になる程の銃弾を食らい、死亡していた

「我々の方が、ここの地形は知り尽くしているんだ…

 よし、このまま他の人間共も排除する…!」

 と左腕を失った猪の超生類ちょうせいるいは強く言うのだった

《タイプ:猪♂

 系統:ニホンイノシシ

 名前:ガイ(自称)》


《それはまるで、人類達が辿った進化のように…

 二足で歩行し、言葉を話し、道具を使う…


 超生類ちょうせいるいには、まだその先の進化はあるのか…?》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る