第27話:お披露目(暗) ※センシティブな内容を含みます




「お前の嫁ぎ先が決まった」

 養父であり伯父であるカイユテ男爵がシルヴィへそう告げたのは、あの不法侵入と不当占拠事件を起こしてから、しばらく経ってからだった。

 屋敷内に監禁され、モルガンとの結婚も無くなり、穀潰しの役立たずだとなじられた。今、屋敷内に置いてやっているのは、養子解消の申請がまだ受理されないからだ、と男爵には言われていた。


 平民になったら、外へ出て思う存分罪を償え。そう言われて、食事もまともに出されず、風呂にはあれから一度も入っていない。

 大きなたらいにお湯が張られ、体を拭いて頭を洗うのがせいぜいだった。



 シルヴィは久しぶりに、他人の手により丁寧に洗われ、ゆっくりと湯に浸かった。

 当たり前だった生活が戻って来た。

 結婚相手は誰だろう?

 体や髪を磨かれたという事は、それなりの地位の相手だろう。


 そう心を踊らせながら、メイドに施される施術に身を任せる。

 その後、着せられた服は、完全な夜着だった。

 体の線がハッキリと判る意匠な上に、薄らと肌の色が透けて見える。

 完全なレースでは無いところに、相手の趣味が透けて見えた。


「ねぇ、さすがにまだこの衣装は早いんじゃないの?」

 シルヴィが鏡の前で文句を言う。

 それはそうだろう。

 通常どんなに早くても、まずは相手と顔合わせをして、結婚式をし、それから初夜になる。

 ここはまだカイユテ男爵家の屋敷の中だ。


「私共は、旦那様に言われた通りにしているだけですので」

 支度が終わると、メイドは軽く会釈をして部屋を出て行ってしまった。




 ノックの音と共に扉が開かれる。

 返事も待たずに開けた相手は、カイユテ男爵その人である。後ろには、見た事の無い衣装を身に着けた男性が三人。


「あぁ、我があるじが気に入りそうですね」

「おや? 情報では済との事でしたが、まだでしたか。ぎょうこう、僥倖」

「このままで大丈夫なので、行きましょうか」

 上から下まで値踏みするようにシルヴィを見てから、男三人は満足そうに頷く。


 何が何だか解らないシルヴィは、防衛本能で胸元を腕で隠し、相手に背中を向ける。

 その背中に、カイユテ男爵が声を掛ける。

「この婚姻は王命である。くらい国の、そして私の役に立て」

「え?」

 シルヴィが顔だけを振り返させると、さげすむ視線と目が合った……気がした。



 目の前が真っ白になったと思ったら、見知らぬ場所に居た。

 周りには煌びやかな、しかし見覚えの無い服を着た男性達。

 そして視線より高い位置にある椅子に座る威厳のある男と、おそらくその妻。


「我が主、ただいま戻りました」

「僥倖ですぞ! なんと処女です」

「ご命令通り、着の身着のまま連れてまいりました」


 シルヴィを連れて来た男達が跪いてしまった為に、一人棒立ちのシルヴィは全身を人目に晒す事になる。

 厳粛な雰囲気の場に、一人だけ場違いな薄布で破廉恥な姿のシルヴィ。間違い無く浮いている。

 しかも全員がシルヴィを見ているのに、誰も彼もが無関心な顔をしていた。




 シルヴィの生活は一変した。良い方へ。

 嫁いだのは大国の王で、側室といえども何不自由無い暮らしが出来た。

 本当に純潔であった事を王がことほか喜び、正室を放置して毎晩毎夜、シルヴィの元へと通ったからだ。

 今までの側室は、三ヶ月で飽きられて捨てられた、と噂で聞いていたシルヴィは、自分は違うと、特別な存在なのだと、そう思っていた。


 もしかしたら、正室に取って代われるのでは、とシルヴィは野望を燃やしていた。

 それは態度にもけんちょに出ていた。


「ねぇ、王様に新しいドレスが欲しいって言っておいてくれた?」

 ある日、シルヴィがメイドに問うと、素っ気なく「伝えました」と言われただけだった。

 今までと違う態度に少し違和感は感じたものの、すぐにシルヴィは忘れてしまった。




 その贅沢な生活も、半年で終わりを告げる。

 突然、本当に突然、王の渡りがパタリとんだのだ。

 その理由はすぐに判明した。


「御子の誕生だ!」

「おめでとうございます!」

「これでこの国も安泰だ」


 正室が男児を産んだのだ。

 そう。シルヴィは妊娠中の正室の身代わりにされただけだった。

 この国の男性は魔力が高い代償に、性欲も強い。

 妊娠中の妻には耐えられない程に。

 今までの側室と違うところは、正室が妊娠中だから仕方なく期間が延びただけだった。




「こちらは、我が主からの下賜の品である! 有難く使うように!」

 あの日、シルヴィを連れて来た中の一人が、シルヴィをまた別の場所へと連れて行った。

 前回と違い、完全に透けている夜着を着せられており、周りの視線がシルヴィに絡みつく。


「無駄に贅沢をしていたのだから、ここで役立ちなさい」

 男はシルヴィを突き飛ばした。

「妊娠には気を付けなさい。実験に使われますよ」

 ニヤリと笑った男の顔に、シルヴィの背筋が寒くなった。


 愛する正室以外の子供は要らない、しかし正室だけでは性欲が発散しきれない。

 その為に他国から、処刑される身元の確かな女性を買っていた。

 今までは使い捨てなので、王も避妊しなかったのだろう。

 妊娠したら、ここへ下賜されるのだ。

 シルヴィの場合は、ただ単に飽きられただけだった。


 自国の魔法の発展の為ならば、何でもやる者達の集団。

 妊娠したら、おそらく腑分けされる。

 しかし、妊娠するまで男達はシルヴィで欲望を発散する。


 どちらにしても地獄だった。

 シルヴィは、また間違えたのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る