2:ルナテミスの主人(2)
ファルサーが黙って相手を見つめていると、眉根を眉間に寄せて不機嫌な顔になった。
「物を頼みに来たのなら、相応の態度を取ったらどうだね?」
冷たい声音と突き放すような態度に引っかかりを感じたが、こちらのほうが "お願い" をしている立場である。
ファルサーは渋々と、相手が示した椅子に座った。
「湖の島に、渡してもらいたい」
「報酬は?」
「そちらの希望を聞こう」
相手はファルサーの問いにすぐには答えず、テーブルの上に置いてある直径が五センチぐらいの透き通ったまん丸い水晶を手に取った。
数秒、それを見つめた後に、視線をファルサーの顔に戻してくる。
「支払いをするのは、君か? 王か?」
「それがなにか、関係が?」
「大いに有るな。そもそも、君に何が支払える?」
「金貨を持っている」
「それは君の旅費だろう? 大事にしておきたまえ。それに私は、
わざわざ水晶球などを手に取った上に、ファルサーと水晶球を交互に見やるような態度から、てっきり相手がその水晶球で、何か占いじみた事でも始めるのかと思った。
だがヒトをくったような態度でファルサーに応対する様子からは、占いなどするつもりはさらさらなさそうだ。
「だが、まぁ、いいだろう」
最後に大きく手首を回し、相手は一つに戻った水晶球をテーブルの上の、元々置かれていた場所に戻した。
「君に要求する対価は、二件の労働奉仕だ」
「労働奉仕…?」
「文字は読めるかね?」
「えっ、ああ、一応読める」
「よろしい。では、あちらの扉の向こうに廊下がある…」
相手は部屋の北側にある扉を、指で示した。
「一番奥まで行くと "
「それだけ?」
「君は頑健なようだが、それでもリストの物を完全に揃えるには、数日掛かるだろう。用事がある時は、声を掛けてくれたまえ」
「ビショップ、ちょっと、待ってくれ」
立ち上がった相手を、ファルサーは呼び止めた。
「それは、私の事かね?」
「他に人はいないだろう」
「私を呼び止めたのかと訊ねているのでは無い。それを私の名称だと思っているのかと訊ねた」
「ええっ?」
ファルサーはやや狼狽気味に、自分のこめかみ辺りの髪を撫でた。
「…あ、いや…。麓の町で "隠者のビショップ" と聞いていたから…」
「アークだ」
「そうか、失礼した。僕はファルサーだ」
「了解、ファルサー」
それだけ言うとそれ以上はファルサーの話を聞かずに、アークは
聞きたい事がまだあったが、アークの態度の取り付く島のなさに、ファルサーは相手との会話を諦めた。
まずは相手の要求してきた仕事をこなし、微塵でも話をする気にさせたほうがいいと考えたからだ。
ファルサーは立ち上がると、アークが言っていた北側の倉庫を見に行った。
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