【落選原稿】第14回 小さな助け合いの物語賞

 何をやってもダメだった。勉強についていけない上、スポーツもできない。引っ込み思案で笑顔がない。

 小学三年から始まった不登校だが、たまに学校に行けば、一生懸命にノートに描いた絵がバツで消され、悪口が書きなぐられる有様だった。


 中学二年生で、別の中学に転校した。

 私は筆算どころか、鉛筆の握り方も忘れている。ふと周りの同級生を見ると、みんなきちんと椅子に座り、前を向いていて、何かメモをとっている。

 どこを見て過ごしたらいいのかも分からず、私だけが違う世界にいるように感じた。転校して、今度こそ「普通」になりたかったが、気力も体力もついていかなかった。


 それから毎日、同級生から、電話がかかってくるようになった。「体調悪いの?明日は学校来る?」と、明るい調子である。

 「私は何をやってもダメなのだから、ほうっておいてくれ」という言葉が、何度も喉元まで出かけた。「学校には行かない」とはっきり答えたこともあった。「明日、学校でね」と約束しておいて、はじめから行くつもりがなかったこともある。

 それでも、電話は毎日かかってきた。


「先生は、なんてことを生徒に命令するのだろう。もしかしたら、私が学校に行かないせいで、この子が叱られているんじゃないか」

 心配になり、担任の先生に抗議すると、そんなことはさせていないと言う。数か月続いていた電話は、ずっと、自主的なものだった。

 いつもの電話で、「ごめん」と口にすると、涙が出た。


 「別にいいよ。明日は学校来る?」あっけらかんと、その子は言った。私は「ほんの少しの時間でいいなら」と約束し、学校の門をくぐった。


 学校に着くと、校長先生が「囲碁を打とう」と誘ってくれた。しばらく囲碁に興じていると、授業が終わった同級生たちが大勢で校長室までやってきて、「一緒に給食を食べよう」と言う。

 一緒に給食を食べていて、勉強のできる子、スポーツのできる子、歌の上手な子、面白い子、みんなそれぞれに違っていたが、同じ空間の中で受け入れられていることに気付いた。

 それからというもの、登校した日は、学校で放課後まで過ごして帰るようになった。


 みんなと過ごした時間、それが本当に楽しかった。義務教育である中学までで学校生活は終わりだと思っていたが、「青春の続きがしたい」と、高校受験を決意した。

 勉強は、小学一年生のドリルからやり直した。なんとか全日制高校に入学すると、囲碁で県外派遣を経験し、大学にも合格した。大学卒業後は英語圏へ留学することもかなった。


 私自身でさえ投げ捨てていた人生を、たくさんの人が拾い上げ、忍耐をもって見守ってくれた。今、私は、生きていることが楽しい。私は児童指導員の職に就き、今度は、子どもたちの成長を見守る役目を果たしている。

 

「あなたがいてくれて、本当に嬉しい」


 子どもたちが自分自身を強く信じられるよう、何度でも伝え続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る