第5章『変化のストワード』

第18話

「よし!見えてきたな!あそこからストワード地区だぜ!」

「ギャハハ!俺が一番乗りですよ!」

「私だ」

一目散に走り出すマウノネオを飛んで追いかけるラトレル

「あんたたち、子どもじゃないんだから張り合わなくてもいいだろう」

「ラトレルはズルじゃないのかな?」

「……リイコ、あんたも張り合いたいの?」

「べ、別に!っていうか、あたしたちも早く行こう!別に張り合ってるとかじゃないけど!」

リイコも走り出す。ルノルドもそれを追いかける。走らずに、だが。

(随分久し振りだな、ストワード)

(昔はこうではなかったらしいが、今はシャフマ内で生活が完結するからね)

(……いや、曾祖父さんの時代はむしろ)


「ルノルド!早く!」

「置いて行っちゃうっスよ!」

「胸、高鳴る。あなたが居る」


あんなに不便だったシャフマで生まれた自分が、時代が違えばそこでの暮らししか知らなかったシャフマ人である自分が、出身も種族も違う人たちと旅をするなど。


「……ああ。行こうか」


(今は当たり前なんだぜ、アレスト爺サン)



そして、ストワードで普通に魔族が歩くなんて、爺さんの時代は有り得なかっただろう。なんて思う。



「こ、困っちまったねえ。おじちゃんそんなにお金持ってねぇよ」

街を歩いていると、店の前で困っている男の声が聞こえてきた。

「お願いっ!負けくれぃ!な?お腹空いちゃって……へへ」

「ダメだ。金が払えないなら売れないよ」

「そこをなんとか〜!」

なんだか妙に気になる。ルノルドが店に近づく。

「あんた……」

「うおおっ!?でっかい兄ちゃんだ!おじちゃんを助けに来てくれたのかい?」

「……」

ルノルドは男の顔を見る。無精髭を生やした紺色の髪、ふにゃりと情けない眉、大きな口。どこにでもいる中年の男っぽいが。

「腹が減っているなら、マウマウ……俺の仲間が持っているクッキーをやる」

「えっ!?本当!?」

「なっ、か、勝手に決めないでくださいよ!」

「いいじゃないか。あんたはいつでも食えるだろう」

「それはそうっスけどお」

「ありがとう!甘いもの、嬉しいねえ……」

「良かった、おじさん困ってたもん。ルノルドってこういう人助けもするんだ」

「な、なんだよリイコ。別にいいだろうたまには!」

店主がため息をつく。

「はあ……元冒険家だかなんだか知らないけど、昔に手に入れたお宝を全部売っぱらっちまって、今は金が尽きてフラフラしてるなんて情けないよなあ……」


「元冒険家?あんたが?」

「……ま、まあ。今は違ぇが。おじちゃんはもう冒険には出ないから。それより!ここで会ったのも何かの縁だと思わねぇかい?おじちゃんの話聞いて行ってくれ、な?」



というわけで、おじちゃんの家に強引に連れ込まれた一同。

「他人に話を聞いてもらうためにあんなに頭を下げるなんて、この大陸ではこれが普通?」

「……金が絡むときは普通かもね」

「ギャハハ!俺はまだ知らなくていいってヤツっスか?」

「ん?んん?お前さんたちすごく仲が良いねい。いやあおじちゃんからすると、若さが羨ましいっていうか……あっ、歳を取るとつい愚痴っぽくなって嫌だねい」

(俺は250歳なんだが、黙っておくか)

ラトレルは20歳、リイコもマウノネオも正確な年齢は知らないが十代だろう。

(この人は30代後半から40代前半かね。なんだか胡散臭いから年齢を偽っている可能性もあるが)

「えーと、ルノルドくん?お前さんが一番年長者だと思うんだが、さあ……」

おじちゃん、の目が細められる。

「腰痛に効く湿布とか知らねぇかい?」

「……あんた、話す気があるの?さっきから話を逸らしてばかりな気がするが」

「あっ、わあーっ!また忘れちまった!ほんっと、おじちゃんになっちゃうといけねぇ」


「じゃあ、おじちゃんの昔の冒険譚でも聞いて行ってくれ。眠っちゃってもいいから、な?」

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