第2章『外から来た女』

第5話

オアシスから上がろうとして、気づく。


(なんだ……?あの女、何かが違う)


ルノルドは250年間様々な人間、いや、魔族も含めた知性体と関わってきたと自信を持って言える知性体ではない。辺境の村で機械と向き合うのが彼の仕事だったのだ。

しかし、それでも本能で異様さを感じ取ってしまった。

(目が離せない)

月明かりが眩しいのか、それとも彼女自身が光っているのか。シルエットだけが艶めかしくルノルドの瞳を魅了する。

(ち、近づいてくる!)

ピクリとも動けない自分は女を見上げることしか出来ない。シルエットが近くなるにつれて、あることに気づいた。

(服を着ていないのか?全く布が見えない)

美しい女体。布の膨らみがない。

(あっそうか。ここはオアシスだ。俺と同じで脱いでいる)

しかし大胆な女だ。ルノルドは思わず口元を緩ませる。女は首を傾げて、

「……×*?〇△×」

と、ルノルドに話しかけた。

「え?」


「*!……忘れてた。私の声はこれを通さないと。君、大丈夫?夜に一人は危ないよ」


「なっ……!?」


ルノルドは目を見開き、息を呑む。

女はあまりにも無機質で、まるで機械のようだった。

顔以外を覆っているのは機械の、

(服!?機械を身にまとっている!?見たことないぜ……!)

口元に当てているのも機械だ。

ルノルドの体が光り、成人男性の姿になる。

「きゃあっ!?」

機械の女は驚いて後ずさる。動きは人間だ。逃がしたくなくて、全裸でオアシスから上がる。

「ま、待ってくれ!あんた、何なんだ!?」

「来ないで!!この大陸の人は変な力を使うって聞いてたけど、子どもの姿になって他人を騙すなんて酷い!」

「い、いや、騙すつもりは……ま、まあ半分くらいはあったが、今はそれよりあんたの格好だろう!なんだその服は!機械なのか!?」

「自分が裸なのに服のことを言ってるの!?もう!これあげるから早く着て!」

女がルノルドに小さな機械を投げ付ける。

「なんだこれ?」

「その赤いスイッチを押して!早く!」

「あ、あぁ」

ポチッ。あっという間に服を着ることができた。

「うおっ!?」

目の前の女と同じ……いや、男用なのだろう。形が違うが、材質などは同じようだ。ピッチリしたスーツのようだが、圧迫感がなく動きやすい。

「ど、どうなってる?全く分からない……」

「うう……最悪……。この大陸に来て初めて見た人が変態だなんて……」

「はあ!?あんたさっきから失礼だぜ!?事故だろう!」

「だって!いきなり意味わかんないんだもん!」

「意味が分からないのはこっちだ!あんた、何なんだ!?」

「あたしだってあんたたちのことわかんない!」

「ぐっ……。俺はルノルド・エル・レアンドロさァ!あっちにある村で修理工をしている!年齢は……大体30歳くらい!!あんたはどうなんだ!」

年齢以外は正直に言ったぞ!という顔をするルノルド。

「修理工……?何を修理するの?」

「そんなの機械に決まっているだろう!俺の修理の腕は評判なんだぜ?」

胸を張って言うルノルド。女の表情が変わる。

「そっか……機械の修理、か」

(なんだ?急にしおらしくなったな)

「……あたしは、リイコ。出身はこの大陸からずっと東に行ったところ。別の大陸から来た」


「……え?」


「本当だよ。信じられないかもしれないけど、その服だってそこの技術なんだから」


「べ、別の大陸の女!?!?!?」

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