エピローグ

数年が流れ、ケンジは村で尊敬される釣り師となった。彼の下には多くの若者たちが集まり、ヤエン釣りの技術を学びたいと願っていた。彼自身がかつてハルオさんから学んだように、ケンジもまた知識と経験を惜しみなく共有していた。


夏の終わりのある日、ケンジは海を眺めながら、自分の歩んできた道を振り返っていた。海は彼に多くを教え、彼を成長させてくれた。今では、その恩恵を次世代にも伝える役割が彼にはあった。


海の波が穏やかに打ち寄せる中、ケンジは若い弟子たちを連れて再び船に乗った。彼らの中には、緊張と期待で目を輝かせる少年もいた。ケンジはその少年に微笑みかけ、「大丈夫だよ。最初は誰もが同じ。海との対話を楽しんでみるんだ」と励ました。


船が沖へと進むにつれ、ケンジはハルオさんがかつて彼に語った言葉を思い出していた。それらは今、彼自身が若者たちに伝える言葉となっていた。


日が沈む頃、彼らは数匹の立派なイカを釣り上げることに成功した。少年たちはその成果に歓声を上げ、ケンジは彼らの笑顔を見て内心で感謝していた。彼にとって、釣りは単なる魚を捕る行為ではなく、人生の哲学であり、自然との調和を学ぶ過程だった。


夜の帳が下り、彼らは星明りの下、静かに帰港した。ケンジは海の音を聞きながら、ハルオさんの存在を偲び、彼が遺した技と精神が、自分を通じてまだ生き続けていることに安堵した。


これからも、ケンジは新たな弟子たちと共に、無数の夜明けと夕暮れを海で迎えるだろう。それぞれの波が新たな教訓をもたらし、彼の人生の物語は続いていく。海と共に生き、海と共に学び続ける――それが彼の選んだ道であり、彼の生きがいであった。

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イカ釣りのケンジ みっちゃん @bosanezaki92

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