第3話 月明かりの下で
ケンジがヤエン釣りの基本を一通り学び終えた頃、ハルオさんは彼に新たな挑戦を提案した。「ケンジ、次は夜釣りだ。夜の海はまた違った顔を見せるからな。」
夜釣りの準備を整える中で、ケンジはワクワクと不安が入り混じった感情を抱いていた。夜の海は未知の世界であり、そこには昼間には感じられない静けさと緊張感があった。
満月の夜、二人は再び船を出した。月の光が水面を照らし、周囲は幽玄な光景に包まれていた。ハルオさんはケンジに耳を傾けることの大切さを再び教えた。「夜は特に、音に敏感になるんだ。水面を打つ小さな波の音、魚の動き、風のささやき…これら全てが、お前に情報を与えてくれる。」
ケンジは緊張しながらも、ハルオさんの指示に従い、餌を丁寧にセットした。夜の静寂の中で、彼は自分の呼吸と心拍の音さえも聞こえるような気がした。そして、待ちに待った瞬間が訪れる。魚の動きが一変し、それを追うイカの存在を感じ取ったのだ。
「今だ、ケンジ!」ハルオさんの声が夜空に響き渡る。ケンジは慎重に糸を引き、魚を探るイカに向かってゆっくりと針を近づけた。そして、確実にイカを捉えることに成功する。船上に持ち上げたイカは月光に輝き、その美しさにケンジは息を呑んだ。
「夜の釣りは、昼間とは全く違う集中力を要求される。お前は上手くやった。」ハルオさんの褒め言葉に、ケンジはほっと胸を撫で下ろした。
その夜、ケンジは何匹ものイカを釣り上げ、ヤエン釣りの醍醐味を改めて実感した。夜の終わりには、彼は自分がどれだけ成長したかを感じていた。ハルオさんと共に過ごした夜の海は、彼にとって忘れられない貴重な経験となり、釣り師としての自信を一層深めることになった。
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