第37話 容疑者召喚
しばしカラオケルームで談笑しながら山盛りポテトなどをつまんでいると。
「遅れたぜ、ゴリチョ参上……あれ、なんで田中たちもいるんだ?」
俺が送った緊急ミーティングのメッセージに飛んできた、ゴリチョ。
そのゴリチョはみんなの顔を見渡して、その視線は鬼のような顔をする神崎先輩で止まる。
「……ゴリ。何か言うことは?」
「え、えーと。待たせてソーリー……?」
「ゴリ、正座」
「はいぃいい」
ゴリチョは自らすすんで神崎先輩の足元、床に正座を決める。
正座し慣れているゴリチョと、正座させ慣れている神崎先輩。
なんだかお似合いだな、などとは言えない。
「ゴリ、貴方はクビです」
「えっ」
「貴方は、バンドのことだけではなく、大葉さんのことまで、ペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラ──はぁ、はぁ……」
捲し立てて息切れする神崎先輩の背中を、大葉さんがさする。
「だ、だって。文化祭のライブは成功させたいだろ。なら、ファンの応援は大事……ごめんなさい」
言い訳を始めたゴリチョは、神崎先輩の鋭い視線で正座から土下座形態へと移行した。
んー、ちょっとだけゴリチョが可哀想になってきた。
「神崎先輩、ゴリチョの処遇は大葉さんの判断に任せませんか」
「そうですわね。一番の被害者は、大葉さんですものね」
急に話を振られた大葉さんは、まだ少し腫れるまぶたをぱちぱちさせて驚いている。
「大葉さんの思うように、言ってみて」
フォローするように話しかけると、少し考えた大葉さんは、小さく頷いた。
「ゴリチョくん、あなたを、サポートメンバーから、除外します」
「……そんな」
顔を上げたまま大葉さんを見ていたゴリチョは、がっくりと項垂れた。
だが、まだ落ち込むのは早いぞ、ゴリチョ。
今おまえの目の前にいるのは、一度おまえを許した天使だ。
俺が期待を込めて目を向けると、大葉さんは小さく頷いてくれた。
「だから、これからは、正式メンバーとして、頑張り、ましょうね」
「え」
土下座のまま首だけ上げたゴリチョは、キョトンとしている。
ゴリチョだけじゃない。
様子を見ていた茶町、田中、白崎も事態が飲み込めないらしい。
「許されてよかったな、ゴリチョ。これで正式メンバーだ」
大葉さんは、人を怒らない。
いじめに近い弄られ方をしたクラスの女子たちにも怒っていなかった。
「我らが歌姫が
笑顔で言葉をかける神崎先輩だが、やっぱりちょっと怒ってるな。
「一緒にバンド、楽しみましょう、ね」
大葉さんは天使の様な笑みを浮かべて、ゴリチョに握手を求める。
「でも、本当によろしいのですか、大葉さん」
「だって、ゴリくんのおかげで、茶町さんや田中さんが、私たちの音楽を、好きって、わかったから」
本物だ。
本物の天使がいた。
ゴリチョを見ると、涙どころか鼻水も垂らしていた。
そして
「大葉ざぁあああああん!」
「おいゴリチョ、てめえ大葉さんに抱きつこうとすんな!」
「だって、だってぇぇぇえええええ」
感涙のあまり大葉さんに抱きつこうとしたゴリチョは、もちろん俺がブロック。
そしたら標的は神崎先輩に。
「だからと言って
「お嬢、お嬢ぉおおおおおおおお」
この光景に、茶町、田中ペアはいちばん驚いていた。
しかし。
これで懲りてくれたらいいけど、きっとまたゴリチョはやらかすだろうな。
その時は、どうしてくれようか。
「……お恥ずかしいところを」
ゴリチョを引っぺがした神崎先輩は姿勢を正して、茶町たち三人に頭を下げる。
そして、そのまま視線をスライドさせて、
「ハロウィン・ナイト。出演しましょう」
俺と大葉さんに告げた。
……え、出るの?
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