第26話 9月1日

 そして、9月1日がやってきた。

 作戦は予定通り決行だ。


 始業式が終わり、ホームルームが終わると下校となった。みんなが帰ろうとする中、永井が俺を見て頷く。ゴーサインだな。姫乃は取り巻き達と何か話していた。いよいよだ、やるか。


「姫乃、ちょっといいか」


 俺の声は思わず大きくなってしまう。帰ろうとした生徒達も何人かが俺を見る。姫乃の取り巻き達も動きを止めた。


「何? どうしたの?」


「姫乃に言いたいことがある」


 少し興奮して声が大きくなってしまう。姫乃の取り巻き達は既に察して「きゃー」と小さい声で盛り上がっている。姫乃の表情はいつもと変わらない。無関係の生徒たちも立ち止まって俺を見ている。廊下にいる他クラスのやつも見ていた。


 これだけの人数に見られながら告白したことは無い。確かにこれは今までに無い告白だ。行けるかもしれない。俺は恥ずかしさを感じながらも、これまでに無い手応えを感じ、さらに声が大きくなった。


「姫乃、好きだ! 俺と付き合ってくれ!」


「「「キャー!!!」」」


 取り巻き達の歓声が響く。周りの生徒達も驚いたように俺を見ていた。姫乃は少し笑みを浮かべている。これだけの期待の中で、断ることが出来るのか。姫乃、勝負だ。


 周りが固唾をのんで見守る中、姫乃は言った。


「圭、ありがとう。答えは後で伝えるね。じゃ!」


 そう言って一人で姫乃は出て行った。

 周りはあっけにとられている。


「おい、姫乃!」


 俺は呼びかけたが姫乃はそのまま去ってしまった。


「はぁ」


 俺の席に永井と福原が来た。


「よくやった。一等兵に昇進だ」


「そうかい、嬉しいよ」


「でも、さすがは二宮さんだな。みんなの前で答えを言うことを回避した」


「ああ来るとは思わなかったよ。しかし、このままでは返事は……」


「うむ、いつもと同じである可能性は高いな」


「だよなあ。やっぱり敗北か」


◇◇◇


 俺は一人で学校から帰る。姫乃が居ない帰り道はつまらなかった。いつも姫乃と別れている交差点にさしかかる。すると、俺を呼ぶ声がした。


「圭!」


 道路に経つ姫乃の呼びかけに気がつき、近づく。姫乃はそのまま、近くの公園に入っていった。俺も公園に入り、ベンチに座った。


「もう、びっくりしたわよ。みんなが見てるところで告白するなんて。告白しないんじゃなかったの?」


 どこか姫乃は嬉しそうだ。


「あー、それはもうやめた。告白しないことはやめたんだ。だから告白した」


「……なんかややこしいわね」


「いいだろ。で、答えは今言うのか?」


「うん……ごめんなさい」


 姫乃は頭を下げた。


「だよなあ」


「ほんと、ごめんね」


「分かってたからいいよ」


「分かってたの?」


「そりゃそうだろ。ずっとダメなんだから」


「それもそうか」


「はぁ……」


 俺はため息をついた。


「でも、嬉しかった。久しぶりに、はっきりと圭から告白されて」


「そうか?」


「だって、最近は私がおねだりしてから言ってたでしょ。今日は私が何も言わなくても圭から言ってきたから」


「まあな」


 6月、7月、8月と告白しない作戦だったから、確かに久しぶりだ。


「思わずオーケーしそうになっちゃった」


「いや、そこはしておけよ」


「だーめ。ぐっとこらえたよ。私には計画があるんだから」


「計画?」


 初めて聞いた。何のことだろう?


「あ、なんでもないよ。気にしないで。じゃあね!」


 姫乃は小走りで公園から出て行った。

 計画とはなんだろう。そのために俺の告白を断り続けているのか?

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