第25話 サッカーデート

(デート回です)


 8月のある日曜、俺は姫乃を誘い出していた。プロサッカーリーグの地元チーム・ロックス熊本の試合を見るためだ。この間の告白で姫乃を泣かせたお詫びということでどこか行かないか、と俺が誘ったのだ。


 俺は複数のデート先を候補に出し、どれに行きたいか姫乃に選んでもらった。そのうちの1つがこのサッカーの試合だ。姫乃は他のデート先は行ったことはあったが、これは無いということでこれに決まった。知り合いに熱烈なサポーターが居てチケット1枚はもらえたので、もう1枚の購入で済んだ。


 夜の試合なのでバスセンターから夕方のバスでスタジアムに出発する。到着すると、スタジアムの外にはたくさんの屋台的な店やキッチンカー、いわゆるスタジアムグルメが広がっていた。


「うわー、いっぱいあるわね。どれ食べる?」


「俺が狙ってたのは並んでるな」


「どれどれ?」


 俺は高校生男子らしく、がっつりしたもの、ビーフステーキ丼を狙っていた。これは肉がたっぷり載っている。だが、ものすごく長蛇の列だ。


「私はタコライスにしようかな」


 こちらも結構並んでいるがまだなんとかなるだろう。


「じゃあ、一緒に並ぶか」


 俺たちは一緒に並んでタコライスを買った。

 そして芝生の広場に座って食べる。


「やっぱり、チームの赤いシャツ着ている人多いね」


 周りに居る人を見て姫乃が言った。実は俺も着ている。前回観に行ったときに無料でもらったやつだけど。姫乃は普通に白いシャツを着てきていた。


「じゃあ、姫乃も着るか?」


「え、あるの?」


「いや、今から買うんだよ」


 グッズ売り場をチラッと見て確認していた。チームTシャツもいろいろあるが安いやつは高校生でも買える値段だ。


「いいよ、高いし」


「俺がプレゼントするよ」


「え?」


「だって、この間は迷惑かけたから」


「あれは私が悪いって言ったでしょ。振ったのは私なんだからプレゼントされるのはおかしいって」


「確かにそうだけど、俺も悪かったから。好きなのに告白しないとか言っちゃいけなかった」


「……不意打ちで好きって言わないでよ。びっくりするから」


「なんでだよ、いつも言ってるだろ」


「そうだけど。じゃあ、言うけど、私も圭のこと好きだよ」


「!!」


「ほらね、びっくりしたでしょ」


「……と、とにかく、プレゼントする。行こう」


 俺と姫乃はグッズ売り場に行き、手頃な値段のやつから姫乃が選んだものを購入した。


「じゃ、着替えてくるね」


「おう!」


 姫乃はトイレに行き、チームTシャツに着替えてきた。戻ってきた姫乃を見て、見ほれてしまった。赤いシャツに下はショートパンツ。姫乃は足が長いからまさにモデルのようだ。


「どう? 似合う?」


「すごく、似合ってるよ。赤が映えるな」


「そうでしょ、私赤好きだし」


「写真、撮っていいか?」


「え? いいけど。でも、一緒に撮ろう」


「そ、そうか」


 俺たちは一緒に写真を撮った。

 何か周りから見られているような。これほどの美女だし、目立ってたかな。


 そして、スタジアムに入り席に着く。試合が始まると、応援団に合わせて手拍子を打つ。姫乃はノリノリだ。


「あー、行け! 行け! あー、惜しい!」


 姫乃のはしゃいでいる姿は結構貴重かもしれない。


 試合はお互いチャンスを作るもののなかなか決まらず、後半はロックス熊本のピンチが続く。


「うわー! 危ない!」


 キーパーが触れなかったボールをギリギリでディフェンダーがクリアし何とかしのいで0対0の展開が続く。すると、後半ロスタイムが近づいた時間帯に絶好のチャンスが来た。ロックス熊本のカウンター攻撃に相手チームがペナルティエリアでファウルをしてしまい、PKを獲得したのだ。キッカーがボールをセットする。


「お願い……」


 姫乃は手を組んで祈っている。


 キッカーは綺麗に決め、ロックス熊本がついに先制した。


「やったー!」


 会場中が盛り上がる。俺と姫乃もつい抱き合った。


 残り時間、数分なのにやたら長く感じたがなんとかしのいで、ロックス熊本が勝利した。


「あー、よかった。勝って」


「そうだな。最近なかなか勝ってなかったから大きい勝利だよ」


「……それに、圭と初めて見た試合だもん。いい思い出にしたかったから」


「うん。いい思い出になったな」


「圭、誘ってくれてありがとう」


 少しは泣かせたお詫びになったかな。

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