第18話 7月1日

 そして7月1日が来た。この日、俺は姫乃に告白をしない。この約3年間で特別な日となるはずだ。だが、特別な日はいつも通りに過ぎていった。


 放課後、俺はいつものように姫乃と一緒に帰っている。姫乃はいつものように、告白について何も言ってこない。このまま、告白せずにそのまま終わるはずだ。


 そして、洗馬橋を越え、2人がいつも別れている交差点まで来た。俺が「じゃあ」と言おうとした瞬間、姫乃は言った。


「圭、ちょっとお話ししない?」


 おそらく告白についてだろう。今日、俺は告白はしないが、少し話していくのは問題ないだろう。俺は了承した。


 姫乃と俺は交差点からちょっと入ったところにある狭い公園のベンチに座った。ここは俺と姫乃が小さい頃から遊んでいる公園だ。


「圭、ほんとに今日告白しないの?」


 姫乃が1日に告白について直接言ってくるのはこれが初めてだ。俺は少し動揺したが、言うことは決まっている。


「ああ、ほんとにしない」


「そっか……じゃ、さあ、他のことしようよ」


「他のこと?」


「うん。圭が私に何か1つだけ質問する。それに私は絶対に正直に答える。どう?」


 質問か。俺は姫乃が正直に答えるんであれば聞きたいことはもちろんある。と、思ったが具体的にはなんなのだろう。例えば「俺と付き合えないのか?」とか聞けば、それはもう告白と同じだ。姫乃はそれを狙っているのかもしれない。


 もし、「将来付き合えるか?」と聞いても「可能性はある」といつもの答えだろう。だったら、何を聞けばいい? 俺には1つしか思いつかなかった。


「姫乃」


「なに?」


「俺のこと好きか?」


 限りなく告白に近いかもしれない。だが、俺はこれを聞かずに居られなかった。


「うん、好きだよ」


 姫乃はあっさり答えた。え? これって、告白成功なのか? そんなことはないはずだ。そうか、幼馴染みとして好きってことなのか。


「それは異性として好きって事なのか?」


 俺は確認しようとこう尋ねた。


「……質問は1つだけって言ったはずよ」


「それはそうだけど、最初の質問の確認だろ」


「だーめ。質問は1つだけ。そして、私はそれに答えたわよね」


「そうだけど」


「だから、これでおしまい。じゃあね」


 姫乃は立ち上がった。


「お、おい!」


 姫乃は歩いて立ち去っていく。俺は姫乃が俺を好きだと言ったことに希望を抱かずに居られなかった。


「姫乃!」


 姫乃は振り返った。


「なに?」


「俺もお前が好きだ。付き合ってくれ」


 結局、俺は言ってしまった。姫乃が俺のことが好きなら、当然この答えは……




「……ごめんなさい」


「はあ? だって、俺のことが好きだって言ったろ」


「うん、好きよ」


「だったら――」


「でも、付き合うかどうかは別。じゃ、また明日ね」


 姫乃は小走りで公園を出て行った。


 はあ。俺はしばらくベンチに座り、呆然としていた。

 するとスマホが振動した。告白作戦会議からメッセージが来ている。


永井『作戦は遂行したか?』


 俺は返信した。


佐原『作戦失敗』


永井『失敗とは?』


 確かに失敗にもいろいろあるよな。


佐原『結局告白した』


永井『はあ? 何やってるんだ』

福原『マジ?』

内田『どういうこと?』


 確かにな。言われても仕方ない。


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