水色のコラール

大路まりさ

プロローグ コラールの昔話




***




むかしむかしあるところに、一人の美しい娘がおりました。


その娘はとても美しい声を持っていました。

凛とした、そして芯のある美しい声でした。

娘が歌えば皆その声に耳を澄まし、喧嘩をしていた民衆も喧嘩をやめてその声を聞いていたくらいです。


娘には不思議な魔法の力がありました。


空や風、大地を操り、ありとあらゆる自然の力が、彼女の優しい気持ちに応えてゆくのです。


そして娘が歌を歌えばどんなに貧しくても、苦しくても人々は思いやりの気持ちを忘れずに幸せにくらせました。


また、彼女はとても心の優しい娘でした。


病気の人がいれば自分の歌で癒し、気力を失ってしまった兵士には勇気を与え、疲れはてた農民には気力を分け与え、学校に行くことのできない子供には歌を歌って言葉を教えました。


そんな娘の噂を、王様が耳にいれました。


王様はその娘の魔法の力を羨ましがりました。

王様は、なんでも自分のものにしないと気がすまないのです。

娘の力を手に入れたくて仕方がありませんでした。


王様は国の支配だけでは飽き足らず、この世界のもの全てを支配したいと考えたのです。


王様は、娘を自分の城へと招待しました。

娘は喜んで城へ赴き、王様を歌で癒しました。

すると、王様はこんなことを娘に命令しました。


「このまま余のそばで歌を歌うのだ。そして国民を動かし、隣国を手にいれるのだ。」


娘は慌てて断りました。


「それはなりません、国王様。歌をそのようなことには使ってはいけないのです」


しかし、王様は聞く耳を持たず、逃げようとした娘を城のはずれにある高い塔に閉じ込めてしまいました。


娘は自分の故郷を想いながら祈り、歌い続けました。

そして、欲しがりやの王様の将来の無事を案じながら祈り続けました。


しかし、ついに王様は隣国を手に入れるために兵をあげました。

たちまち王国は火の海となってしまったのです。


塔から出ることのできない娘は、無事を祈ることしか出来ません。

どんなに力を持っていても、お城の塔から魔法の力は届くことができなかったのです。


「国王様、お願いです!私を城から出してほしいのです。」

「ならぬ。」

「何故!?」

「もうすぐ、もうすぐなのだ!!私が全てを手にいれるのは!!」


娘は泣きながら城で祈り続けました。

それから祈りを込めて賛美歌コラールを作り、自分の力を楽譜のなかにすべて封じ込めたのです。


娘が作ったコラールは十二曲となり、それぞれに魔法の力を込めました。


娘はそのコラールをお城にいた自分の護衛や女中、戦士や錬金術師、それからお城に来ていた聖職者などの十二名にそれぞれ託しました。


「この歌をけして忘れないで。この楽譜に、私の魔法の力を封じ込めました。国王様に知られないうちに早く遠くへ持って行くださいね。」


娘から楽譜を託された十二人は、急いでお城から飛び出しました。


「娘を牢へ入れろ!!城から出た十二人を探すのだ!!」


王様に知られてしまうのも時間の問題でした。

それにより、戦争は酷くなるばかりか内戦も広がりました。


コラールをまもる使命をもった十二名は、ひたすらに逃げ続けました。


いつかすべてのコラールが揃う日が来ると信じ、娘の代わりにコラールの魔法の力使い、多くの民衆を救いました。

そのうちに、コラールの力を持った者を「十二使徒」と呼ばれるようになりました。


長い時が過ぎ、コラールはどこへ行ったのかは解らず、使徒は逃げ続けたままですが、人々を救い続けました。





***




これが、僕が幼い頃から曾祖母に聞いていた、昔話だった。

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