依頼開始
「リクの防具って、変わってるよね」
「かもしれないな、よく言われるよ」
飛竜の群れを討伐する為、依頼先の山に竜車で向かっているリク達。その中でシルアがローブの下にある防具を覗き見しながらリクに話しかける。
「帝国内でも聖国でもそういうのは見たことが無いんだよね」
「これは、特別に作ってもらったんだ」
「そりゃオーダーメイドってことか?」
リクの発言にガーボンが強く喰いつく。購入した防具を自分好みに合わせて調整するのは当然だが、その防具を一から作るとなると、費用も込みでかなりの値段となる。その為、オーダーメイドの装備は冒険者にとっての憧れである。実はこのリクの防具は、彼が子供の頃に読んだ絵本が基になっている。
「もしかしてリクって良家育ち?」
「……そんなことは、無いと思うけどな」
道場をやっていたという事は良家と言っても差し支えは無いだろう。ただミズキとレオは派手な生活をするような人ではなく、寧ろ必要最低限の物があれば生きていけると考えている側の人種だった。リクもそんな両親の影響で、金遣いは荒くなく、逆に貧乏性と言ってもいい考えを持っている。
「それよりもだ。エリック、目的の場所まではまだなのか?」
「もうすぐで着くよ。準備は大丈夫?」
家の話になったので、リクは話題を変える。エリックに言われ、ガーボンが脇に抱えた袋の中身を確認する。
「そうだな、治療用と魔力回復用のポーションは十分に買っておいた。後は緊急用のスクロールに、食料と水。皆の装備を点検する用の道具もあるぞ」
「うわ、流石の周到さね。逆にちょっと気持ち悪いんだけど」
「ミゲリアよぉ、お前がいつも生傷を負う戦い方をするから、俺はこうして沢山買ってだな、それをお前は――」
「あぁ、はいはい、おっさんの説教は勘弁よ」
「――エリック、リーダーとして、こいつに言ってやってくれ」
眉をひくひくと動かしながらエリックに助けを求めるガーボン。それを見ながらシルアは苦笑いをしている。
「ガーボンはいつも準備を怠らないどころか、想定外に備えてくれてる。それでミゲリアも助かったことはあるだろ?」
「ま、まあ、それはそうだけど……」
「そう言うこった、感謝してくれよ、ミゲリアちゃん」
「あんた、帰ったら一発ぶん殴るからね」
ミゲリアが睨むが、それを受け流しながらガーボンは大きな声で笑う。それを見てミゲリアは窓の方を向いてしまうが、エリックは全く問題がなさそうに微笑んでいる。
「あれが目的地の山か?」
「いいわねぇ、危険な匂いがして楽しそうよ」
「はぁ、ミゲちゃんは物騒だね」
「よし、降りてからは気を引き締めていこう」
* * * *
今回の依頼内容、飛竜の群れの討伐。場所は現在では採掘が行われていない鉱山。そこで先日、飛竜の群れが目撃されたというのが事の発端だった。飛竜は繁殖速度は速くないものの、その縄張り意識の強さから、その辺り一帯の動物が逃げ出し、周囲の街や帝都に向かう恐れがあるため放置しておくのが危険な存在である。
そんな危険な生物を討伐する為、竜車を下りたリク達は森の中を進み、飛竜達がいると思われる採掘場へと向かっていた。
「この山、妙じゃないか?」
森の中を進みながらリクが違和感を口にする。
「リクの言う通りだ。動物だけじゃなく、魔物の気配すら殆どしない」
エリックも周囲を警戒しながら違和感を露わにする。飛竜の影響で動物がその地域を離れることはあるが、攻撃的である魔物はそうはいかない。
「いつ目標を発見するかはわからない。シルアとガーボンは弓と魔法の準備をよろしく」
「わかったわ」
「任せておけ」
遠距離への攻撃を持つ2人が中央で弓と杖を構え、その周りをリク、エリック、ミゲリアの3人で守りながら森の中を進む。
「あれは、採掘場の入り口か」
飛竜の姿が見当たらないまま暫く進むと木が無くなり、鉱山の麓に辿り着いた。麓には小さな土と砂の山があり、今でも採掘場の面影を強く残している。更にその先には大きな洞窟が残っていて、洞窟の周りには今は使われていないであろう、運搬用の古びたトロッコとレールもそのままになっている。
「あの洞窟の中だ。妙な気配がする」
「本当か、リク」
「私もリクに同意ね。あの中から嫌な匂いが漂ってるのよ」
リクとミゲリアは洞窟の向こうからそれぞれ異様なものを感じ取り、5人は更に警戒を強め、採掘場を進む。未だに飛竜は見当たらないが、静かすぎる雰囲気が彼らの気持ちを焦らせる。
「それじゃあ、陣形は洞窟の中でもシルアとガーボンを中心に――」
「全員警戒を強めろ!!洞窟からも距離を取れ!!」
静寂が支配していた採掘場に突如声が響き渡り、4人が歩みを止め、開けた採掘場の中央に留まる。驚いた4人がその場で後ろを振り返ると、後方を守っていたリクが刀を抜き森の方を警戒していた。
「おいリク、一体何が――」
「ガーボン、話は後よ。あんたは魔法とポーションの用意」
優れた気配察知能力を持つ獣人のミゲリアがリクの意図をいち早く察知し、ガーボンに戦闘の準備を促す。一瞬呆気にとられたガーボン、エリック、シルアだったが、彼らも即座に異変に気付く。
「何なのこの音!?一体どこから」
「シルア、落ち着くんだ。君は冷静に敵を射抜いていけば大丈夫だ」
弓を構えながら辺り一帯を見渡すシルアに剣を抜いたエリックが声をかける。
「リク、この状況を君はどう見る?」
「状況は良いとは言えないが、そもそも俺は飛竜に詳しくは無い。そっちはどう考える」
振り向きもせずに淡々と答えるリクに尋ねられ、エリックは周囲の気配を探りながら考える。飛竜は一定の知能を持つ生物で知られており、時には集団で狩りをすることもある。これまで何度か、群れから離れ、人里で暴れる飛竜を討伐したことのあるエリックは彼らが如何に賢いかは理解していたつもりだった。そんな彼にとっても、今の状況は信じ難いと言わざるをえなかった。
「信じられないよ……飛竜の群れが、冒険者達に待ち伏せをするなんて」
「エリック、どうする!スクロールはいつでも使えるぞ!」
「それは最後の手段だ、ガーボン。やれることは僕達でやるんだ。こいつらを放っておくことはできないよ」
森と鉱山の裏、そして洞窟から次々と出てくる飛竜達。奴らは瞬く間に5人の冒険者達を囲い込み、その包囲網を小さくしていく。
「同感だよ、リーダー。陣形は?」
「君とリクは前に出て敵の殲滅。シルアとガーボンは空中にいる奴らを。僕は2人を守りながら君達が討ち漏らした敵を叩く」
「了解、任せなよ!」
「状況が危険だと判断したら直に撤退だ!リクも頼んだよ!」
「ああ、分かった」
空中と地上から押し寄せる飛竜。リクとミゲリアはそれぞれの武器を構える。5人の冒険者達と飛竜達の戦闘が、こうして始まった。
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