帝都2日目
「エリックは……まだいないのか」
次の日の早朝、エリックに言われた通りギルドにやってきたのだが、彼は見当たらない。どうやら早く来すぎたようだ。エリックと彼の仲間が来るまでは、ギルド内で待つとしよう。
「あ、リクさん、ちょっといいですか?」
ギルドに入ると、早々に声をかけられた。声をかけてきたのは、昨日登録を行ってくれた受付員の女性だ。彼女に呼ばれたので、そのまま受付カウンターまで移動すると、彼女は棚からカードを渡してきた。
「私はセレンと申します。改めまして、銀等級おめでとうございます。こちらがリクさんの冒険者カードになります」
セレンと名乗った受付員に渡されたカードは、丈夫な造りとなっており、そこには自分の名前などの個人情報、等級、帝都ギルドのサインが書かれていた。
「耐久性向上の魔法が付与されてますけど、壊れてしまった時は、ギルドにお伝えください」
仮に冒険者カードが壊れてしまった場合、新しく作るのに銅貨10枚がかかるらしいので壊さないように注意しなければ。因みにこのカードが帝都以外でも使え、一種の身分証明書になるらしい。検問でこのカードを見せれば、たいていの都市や街にすんなりと入れるらしい。
「一応確認したいんだけど、もしもこのカードの偽物を使った場合ってどうなるんだ?」
「カードの偽造や不正な利用は犯罪行為とされているので、もし発覚した場合、その者は直ちに拘束されて、冒険者ではなくなります」
冒険者カードの偽造。偽造は殆ど無いが、殺した冒険者カードを利用して街に侵入しようとする盗賊が時折いるらしく、その点の警戒は厳重に行われているらしい。当然自分はそのようなことをするつもりは無いのだが。
「……一応言っておきますけど、例えリクさんのお仲間であっても、カードの貸し借りはダメですからね」
「規則の確認をしたかっただけだ。変なことをしようだなんて、考えてないさ」
変な質問をしたせいで、変な目で見られてしまった。この知識を知ったことが取り越し苦労に終わるのが最も良いのだが、帝都でも何が起こるのかは分からないので気は抜けない。
「それよりも、このギルドの資料室を使いたいんだけど」
「はい、リクさんは既に登録を終えてるので、御自由に閲覧を――」
「リク!もう来てたのか、早いんだね」
呼ばれた方に振り向くと、エリックがいた。時間があるうちに資料室で調べておきたかった事があったが、どうやら時間切れのようだ。調べるのはまた今度にしよう。
「エリックさん、おはようございます」
「おはようございます。リク、ちょっといいかな」
手短にセレンに挨拶をしたエリックに連れられ、ギルド内にある机に案内される。机までの移動中、周りの冒険者が自分を見ながら仲間と何か囁いているような気がした。不思議に思い辺りを見ていると、エリックが何故か笑っている。
「リク、君は既にこの帝都の冒険者の中で知れ渡っているんだよ」
「昨日の今日で早くないか?」
「モルドとの模擬戦が衝撃的だったからね。そもそもモルドは、この帝都でかなり長い間冒険者をやっていたんだ」
帝都での冒険者歴の長さ、それに加えて一定の実力と素行の悪さ。それらによってモルドは帝都の中でも顔の知れた冒険者だったらしい。ただ人望が厚かったかと言われると、必ずしもそうでは無く、恨みも多く買っていたそうだ。
エリックに連れられやってきた机には冒険者が3人座っていた。
「リク、紹介するよ。この3人が僕の仲間のガーボン、シルア、ミゲリアだ」
男性1人に女性が2人。女性の内1人は獣人のようだ。装備から見るに、ガーボンは魔術師、シルアは弓を扱う射手、ミゲリアは機動力を活かした戦士だろうか。それぞれの役割分担がはっきりとしているパーティだ。
「リクだ、これからよろし……く」
エリックの仲間の内、ガーボンとシルアは自分と同じだ。だがミゲリアは頭から大きな耳を2つ生やしており、眼光も鋭い。
「なに見てんのよ、私の顔はそんなに変?」
「いや、そうじゃなくて、だな」
帝都でも何度か見かけた自分とは異なる種族である獣人。村でも見たことが無かったので、獣人と会話をするのは初めてだ。
「ほら、ミゲちゃん、そんな怖い顔しちゃ駄目だよ。可愛い顔が台無し!」
「う、うるさい、シルア!可愛いとか言うな。あと耳を撫でるんじゃないよ!」
「ははは、ごめんね、リク。皆、朝から元気なんだ」
鋭い歯を見せながら睨んできたミゲリアにシルアが笑顔で抱き着いている。それを見て苦笑いをするエリックから見て、これはいつもの光景なのだろうか。すると戸惑っている自分に手が差し出された。
「ガーボンだ、エリックから話は聞いてるよ。よろしくな」
「リクだ、これからよろしくな」
ガーボンと握手を交わし、軽く挨拶をする。ガーボンはこのパーティの中で最年長のようで、雰囲気が落ち着いている。
「いや~、ミゲちゃんは今日も綺麗な毛並みだね~」
「よし、それじゃあ今日の予定を決めようか」
「撫でるな!嗅ぐな!リーダー、無視してないで何とかしてよ!」
「このパーティは、いつもこんな感じなのか?」
「面白いだろ?お前もすぐに気に入るぞ」
冒険者パーティはもっと堅苦しいものだと想像していたのだが、エリックのパーティは違うようだ。こうして騒がしい中での話し合いが始まった。
* * * *
「これで僕達は5人パーティ、新しい依頼もできる。今日はこれをやろうと思ったんだけど、どうかな?」
エリックがいつの間にか掲示板から取ってきていた依頼書を机の上に置く。それを見て3人の表情が変わる。ガーボンは真剣に、シルアは不安に、ミゲリアは笑みを浮かべた。
「こりゃ、いつもは保守的なリーダーが強気に出たね」
「本当に大丈夫なの?」
「エリック、勝算があっての事なんだろうな?」
3人の反応からして、困難な任務なのだろうが、初めての依頼なのだからやる気は十全にある。自分も彼らが眺める依頼書の内容を確認する。
「――なるほど、確かにこれは」
「今朝新たに、ギルドに来た緊急の依頼。飛竜の群れの討伐」
エリックが読み上げたことで3人の表情がさらに深まる。それでもエリックは笑顔のままだ。
「――大丈夫だよ、僕達ならできる」
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