姫様の姿
「それじゃあ、私達はあちらの川原にいってくる。ここの見張りは頼んだぞ」
「任してくれ、気配を察知するのには自信が有る」
食事を終えた自分達は一休みしていたのだが、アメリアとルナは用があるらしく、川原の方に行ってしまった。ちなみに結局ルナはアメリアが用意した食事には手を付けず、盗賊達から奪った食糧を淡々と食していた。アメリアが泣きながらお裾分けしてもらった食糧はかなり美味しかった。
「あんな美味しいのより、干し肉の方を好むとはね」
実際には姫ではないにしろ、ルナも勇者の末裔とあって、王都では豊かな暮らしをしていたに違いない。そのため普段では口にすることの無い干し肉を好んだのかもしれない。
「魔物の気配は……大丈夫そうだな」
川周辺は見晴らしがよいため、いつ魔物に奇襲されるか分からない。彼女達の実力なら問題は無いだろうが警戒をするに越したことは無いだろう。
「それもだけど、帝都に行ってからの事を考えないとな」
現状、アメリアとルナとの行動という予定外の事態が発生したことにより、本来の予定よりかは遅れている。それでも彼女達と一緒ならより安全に帝都に辿り着けるだろう。帝都に辿り着けば彼女達とは別行動となるので、そこからは自分の本来の目的に向け動くことができる。
「取り敢えずはギルドで冒険者登録。それから、情報収集だな」
暫くは帝都を活動の拠点とすることになるだろう。となれば現地での生活の為に金稼ぎをしなければいけない。冒険者登録をすればギルドでの依頼を受けることができる。これまでの様な傭兵まがいのことをしなくてもいいだろう。加えて冒険者登録をすればギルド内にある資料室への入室が可能となる。そこで時魔法についての情報がなにか見つかればいいのだが。
「この力の事を、もっと知らないといけないな」
魔力を使用せずに行使できる、魔法を遥かに凌駕する力。どうして自分に使えるのかわからない、そもそも、なぜ初めての時から使い方が分かったのかも不明だ。そして使用回数も常に把握できる。今日は1度使用したが、ルナとアメリアと出会ったことで、いずれ増加するだろう。
いずれにせよ、不明な点が余りにも多すぎるのだ。そもそも魔法関連に疎い自分ですら、魔力を消費しない魔法というのがあり得ない話だという事が理解できる。
「まだ……ただ魔力を消費するなら、どんなに良かっただろうな」
思わず乾いた笑いが口からこぼれるが、既に起きてしまったことだ。これからどうしたら考える方が断然有意義だ。
「はぁ、これからどうす――なんだ!?」
一瞬だが、叫び声が聞こえた。恐らく叫び声が聞こえたのはルナ達が行った川の方面。まさか魔物か。いや、魔物の気配はあちらの方面に感じない。だとすれば、
「また盗賊か!?」
脇に置いておいた
「ひめさまぁ!!!大丈夫ですか!!!」
「聞こえた、あそこか」
今度ははっきりとアメリアの声が聞こえた。状況は分からないが、何かが起きているらしい。2人とも無事でいてくれればいいのだが。
木が減り、見晴らしのいい川と人影が1つ見えた。あれはアメリアか。妙だ、彼女はルナと共に行動しているはずだ。それにも関わらずアメリアが1人しかいない。まさかまた捕まったのか。
「おい、大丈夫か!何があった!」
森を抜けそのまま勢いよくアメリアの横につく。
「あぁぁぁ、ひめさまぁぁ……」
「アメリア、ルナはどこ――!?」
アメリアにルナの所在を尋ねようとした瞬間、川の中から音がする。まさか盗賊が川の中に潜んでいたのか。暗い夜ならば水の中に隠れられた場合、敵の発見は大きく遅れる。先手を打たれてはマズい。未だに動かないアメリアは放っておいて、川の中から現れた敵に攻撃を仕掛ける。
「そこか」
川の中に立つ影を見つけ、戦闘体勢に入る。身体強化で地面を大きく蹴り、人影に接近する。川の深さは膝程度までが浸かる。飛び込んでも問題ない。このまま
「え……ま、待て、リク!」
アメリアが何か叫んでいるが、こちらは既に跳んでいる。今更方向を変えることなどできない。そんなことより、漸く川のから現れた人影が見えてきた。長い金髪に青い瞳。相変わらずこちらに無表情な表情を―、
「――って、ルナ!?」
「ん」
どうしてルナが川からでてくる。これは余りに想定外だ。それよりかもマズいのは自分が大きく跳んでしまっている事だ。取り敢えず
「うおっ!!!」
「……」
「ひめさまぁ!リク!」
ルナと衝突し、川に飛び込む瞬間に後ろからアメリアの叫び声が聞こえたが、既に何もかもが手遅れだ。自分の勘違いを謝罪するのは後にして、今はルナを助ける事が最優先だ。川の中で置きあがり、ルナに手を伸ばす。
「げほっ、げほっ、ル、ルナ、悪い。大丈夫か」
ルナに手を伸ばしたが、彼女はいつも通りの無表情な顔をこちらに向け―、
「……」
いや、いつもと彼女は違っていた。表情はいつも通りだが、その青い瞳が大きく揺れており、そこから彼女の動揺が見て取れる。
「――ル、ルナ……その……」
「……止めて、見ないで」
何も纏っていないルナの身体。これまでは顔を隠す為のフード付きローブ、そしてその下には布地が大きい服を着ることで首から下、そして手以外の全ての肌を隠していたルナの肌が月明かりの下で露わになっていた。
「あ、ああ、ごめん」
「……」
ルナに言われたことで目を逸らす。
「姫様!」
ようやく動き出したアメリアが大きなローブでルナの身体を覆い、彼女の肌は再びローブの下に隠される。
「リク、頼む。今見たことは……」
「わかってる、悪かったよ、ルナ」
「……」
「俺は、先に戻ってるから」
そのまま川から出たルナのことはアメリアに任せて野営場に戻る。
「……」
「駄目だ駄目だ、これ以上の厄介事は」
だが今自分の中にある感情は、それとはまったく異なるものだ。ただでさえ、静かに己の力の事を調べたかっただけなのに、これではますます厄介事に巻き込まれそうな予感がする。違う、正確にはルナの事を知りたいと思ってしまっている自分がいる。夜の森を歩きながら、忘れようとするが、
「はぁ……勘弁してくれよ」
未だに頭の中では先程見た、首から上と手以外の肌におびただしい数の歪な魔法陣が刻み込まれているルナの姿が離れずにいた。
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