旅は道連れ
「姫様の名前はルナ・リースフェルト!剣聖ミカエラの末裔であり。現在のルクス王国の勇者です!」
「ん、よろしく」
剣聖ミカエラの末裔。それは厄介事に巻き込まれたくなった自分にとっては、王族と同じくらい関りを持たない方が良い相手だったのかもしれない。
「ミカエラって、あの世界を救ったって言われている勇者の?」
「そうです。かつて魔王を封印し、世界を救ったとされる5人の英雄。その1人の剣聖ミカエラ様です」
念のために確認したが、間違いではなさそうだ。剣聖ミカエラ。この世界の人間なら知らない者はいない5人の勇者。世間に疎い自覚がある自分でも当然知っている名前だ。幼い頃から本などで何度も読んだことがある。まさかその末裔とこんなところで出会うこととなるとは。
「よろしく、お願いします。えーっと、リースフェルト……様?」
「――ルナでいい。あと敬語いらない」
「……お、おう」
なんだか感情が見えない子だ。その眼からも何も考えているのかがわからない。それに余りにも淡々とした口調。恐らく年下なのだろうが、そうは感じられない雰囲気を放っている。
「そ、そうだ、ルナを捕まえてた賊ってのは……」
「ルナが全員倒した」
「姫様、申し訳ございません!私の事を庇ったばかりに!」
両手で引きずっていた賊を引っ張り上げ、こちらに見せてくるルナ。洞窟内に誰かが残っている気配は感じられない。本当に彼女1人で全ての賊を撃退したようだ。
「気にしないで」
「あ、ありがとうございます!」
結局の所、アメリアからの依頼は徒労に終わったわけだが、ルナは無事であり、アメリアもこうして安堵し泣いている。これ以上彼女達と関わる必要はないだろう。これで本来の目的地へと向かうことができる。
「それじゃあ、俺はこの辺で先に向かうことにするよ。2人とも気を付けて帰るんだぞ」
「待て、リク。まだ報酬を渡してないぞ」
「ルナを助けるのに俺は何もしてないからな。報酬はいらないよ。それじゃあ、俺は行くよ」
ルナとアメリアに別れを告げることはできた。早いうちに王国領を抜け、帝国領へ行かなければ。彼女達と関わるりすぎるのも得策とは言えないし、彼女達の帰る場所は自分の目的地とは逆のはずで、
「ん?どうかしたのか?」
彼女らに背を向けて歩き出そうとしたらローブの後ろを掴まれた。振り向いてみると下からルナがこちらを覗き込んでいた。先程から相変わらずの無表情な瞳をこちらに向けている。
「どこに行くの?」
「え?俺の目的地はあっちなんだけど」
「どこに行くの?」
「……」
まずい。同じ質問を連続でされては、会話が成立しているのかどうかすら分からない。まさか王国に戻るまでの護衛をしろと言っているのだろうか。いまから王国方面に戻るのは遠慮したいのだが。
「リク、姫様は君の目的地が何処なのかを聞いているんだ」
アメリアが後ろから助言をくれたことでルナの意図がようやく理解できた。なるほど、彼女はどこに向かうのかを聞いていたのか。
「俺はベンドルフ帝国に向かってるんだ」
「……そう」
目的地を告げたら一言だけ述べ、ルナは自分が今向かおうとしていた方向へと歩き出す。それを追うように歩き出し、自分の横で立ち止ったアメリアの方を見ると、彼女は何故かこちらの方を見ている。
「奇遇だなリク。私達と目的地が一緒だとはな」
「……まじかよ」
* * * *
リクは現在森をルナとアメリアの3人で歩いていた。森を抜ければ平原が広がっており、そこから帝国領なのだが、このペースだと帝国領への到着は明日になりそうだ。
「それで?なんで王国の勇者が帝国に向かってるんだ?」
勇者の末裔と言うのは現在の世界においては、国王や皇帝とは別の国の象徴としての役割もある。そんな勇者が他国を訪れるとなると政治的な影響は大きいはずだ。
「勅命」
「勅命?国王のか?」
ルナの言っていることが本当なら、国王が自ら勇者に帝国へ向かうことを命令したとなると、これはいよいよ事態が大事になってきている。一体どのような理由で帝国に行こうというのかを尋ねようとしたのと同時にアメリアが口を開く。
「同盟の為だ。ルクス王国は、迫りくる魔王への脅威に対応するために各大国との同盟を計画している。その第一歩が、ベンドルフ帝国との同盟、というわけだ」
ルクス王国が各国と同盟を結ぶ為に動いている。それは村にいた時も、商人からも聞いた事が無い情報だった。ルクス王国から最も近い国は帝国なので、そこに向かうことは分かるのだが、色々と腑に落ちない点がある。
「なんで帝国に向かうのがルナとアメリアだけなんだ?外交で行くなら、普通もっと大人数でいくものじゃないのか?それとなんで地竜を使わない。その方が速いじゃないか」
「それは……だな」
こちらの質問に何か言いづらそうにするアメリア。彼女はおどおどしながらルナの方を見る。ルナはいつも通りの無感情な瞳をしているように見えるのだが、アメリアはそこから何かの意図を読み取ったらしく、小さく頷く。
「実は……今回の姫様の訪問は秘密裏に行われている。だから、あまり目立つことはできない」
何故か申し訳なさそうに言うアメリア。なるほど、秘密裏に行われているなら大人数の騎士を率いて移動することはできない。竜車での移動もかなり目立つ。
「今回の事を知っているのは?」
「王国内なら王族と、その関係者のみ。帝国も同様に皇帝とその側近たちだけだ」
両国家間でも本当に限られた人しか知らされていない計画。自分の知らないところでそんな計画が、
「――ん?ちょっと待てよ……」
情報を整理していたのだが、ふと何かが頭に引っかかった。違和感と言うべきか、嫌な感じがする何かだ。今回のルナが帝国に行くことは両国間でもトップの者達しか知らない機密計画らしい。その為に彼女達は目立つ行動を控えて2人だけでこうして、森の中を地道に歩いている。逞しいと思う。国の為にここまで頑張れるだなんて感動的だ。違う、そうじゃない。何か重大な点を見逃しているような気がしてならないのだが、
「――あ」
今、気が付いた。いや、正確には気付きたくはなかったのだが、横にいるアメリカが非常に気まずそうな表情を浮かべながら眼を泳がしているの見てわかってしまった。ちなみにルナはいつも通り淡々と歩き続けている。
「なあ、アメリア」
「――なんだ、リク」
「この旅の間、ルナの身分は一体どうなってるんだ?」
「――一介の冒険者レナと、なっている」
「なあ……アメリア」
「――なんだ……リク」
「俺って……いまどういう立場なんだ?」
「…………」
「…………」
「――リクは、ルナの護衛」
「リク、すまないが……本当にすまない」
「なんで……どうしてこうなった……」
どうやら、完全に巻き込まれてしまったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます