第一章番外編
依頼失敗
「はっ、はっ、はっ」
「お、おい!もう、十分じゃないか!」
もうすぐ夜が明けそうな時間。2人の男が森の中を走っていた。男達の名前はベルトとキクス。かつては王都で銀等級の冒険者として名を上げたが、己の限界を知り、いつからか盗み、暗殺などの裏家業に手を染めるようになった男達だ。彼らの元来の実力も相まって、これまでは全ての依頼を成功させてきていた。時には引退したとはいえ、金等級の冒険者すら暗殺を成功させたことがある5人組だったのだが、現在は2人までその人数は減り、逃走の最中であった。
「くそがぁ!!なんなんだってんだよぉ!!あのガキはぁ!!」
「べ、ベルト、他の2人は殺されたのか。あんな子供相手に……がっ!?」
息を切らすベルトに声をかけたキクスだったが、勢いよく胸倉を掴まれ悶える。歯を軋ませるベルトは今にも殺しそうな形相で憎悪を巻き散らかす。
「あんな子供だとぉ!?ざけんじゃねぇ!!てめぇも見てただろうが!!あのガキは普通じゃねーんだよぉ!!!てめぇらこそ、しくじりやがってぇ!!てめぇらがさっさと援護に来ればこうはならなかったんじゃねーかぁ!?」
「ふ、ふざけたこと言うなよ!あの女だって本当の化け物だったんだよ!ありゃ金等級以上の怪物で、俺ら2人じゃー、」
「黙れ、黙れ、黙れぇ!!!!」
激しく叫びあう2人。静かな誰もいない明け方の森に男達の声が響き渡る。本来は森で叫ぶなどあってはならないのだが、激しく動揺する2人はそれすらも気に留めない。
「――待て、誰か来るぞ」
叫んでいた男達だが、彼らもその道のプロである。近づいてくる何者かの気配を察知し、心の奥に動揺をしまい込む。そのまま茂みの中に身を潜め、武器を構える。
暫くして現れたのはローブを被った人物だ。黒いフードで顔を隠した男。本来であれば最大限の警戒をするべき見た目をしているのだが、彼らからすればその男は見知った人物であった。
「おい、依頼主さんよぉ!!!簡単な依頼じゃなかったのかよ!!!俺らはぁ、3人も死んじまって商売あがったりだ。どうしてくれんだよぉ!!」
ベルトたちがこの男達から受けた依頼内容、それはサクラ地方にある小さな村。そこで刀を使用する腕の立つ子供を始末する、と言うものだった。彼らは道場の息子へと目星をつけ、襲撃を行ったのだが。度重なる想定外によって依頼は未達成に終わったのだった。
「……」
「おいおい、なんか言ったらどうだぁ!?そのガキがここまで強いとは言ってなかったよなぁ!?嘘の詳細で依頼をしやがってぇ!!!」
「そうだ!!!対象の母親が化け物だってことも言ってなかっただろ!!!ふざけるな!!!」
黙り込む黒ローブの男にベルトは掴みかかるが、男は黙り込み何も言わない。痺れを切らしたベルトは魔力を集中し、キクスは剣を抜く。それでも何も言わない男に耐えられなくなった2人は男に襲い掛かろうと、
「――帰還だ」
「あぁ!?」
ついに言葉を発した男に2人は動きを止める。そのまま2人を無視し、男は1人で喋り続ける。
「我らが神。その復活の時は未だにわからず。我らの主の僕。復活の時来たれり」
「てめぇ!何をぶつぶつ言ってやがる!」
「ならば我ら、闇の信徒。その身を捧げ供物とならんとする」
男の魔力が徐々に大きくなり、フードの奥に紅い2つの光が放たれる。
「ベ、ベルト!こいつの様子が!」
「もういい!こいつを殺せぇ、キクス!!」
ベルトが叫び、キクスがローブの男に剣を突き刺す。男は抵抗をすることもなく剣に貫かれ、その衝撃で男のフードが外れ、顔が明らかになる。
「な、なんなんだ、こいつ!!!」
「てめえも化け物かぁ!!!」
男の顔を見て思わず剣を引き抜くキクス。男のやつれきった顔つきだが、その他は平凡なものだった。だが一点だけ異常な所がある。それは眼だ。男の両目が紅く輝き光を放っている。
「我が……魔力、我が肉、我が心を……喰らい……その御身を現したまえぇぇ!!!」
剣が突き刺さったまま男は叫び、男の身体が黒い何かに覆われていき、鋭い光を放っていた紅い瞳さえも覆われる。そして黒い光を放ち、その黒い何かが吸収されていくと、先程とは違う何かその場に立っていた。
「て、てめぇは誰だ!!!一体何なんだよぉ!?」
「――なるほどね」
ベルトが叫ぶが、その何かはその場でゆっくりと眼を開け、辺りを見る。それはシルエットだけを見れば人なのかもしれない。しかし放つ魔力と異様な見た目がソレが人間ではないことを明らかにしていた。不純物の全く混ざっていない雪のように透き通った白い髪に光り輝く紅紫の瞳。
「――あぁ、オレ?まあオレが誰だってお前には関係なくないか?」
「あぁ?てめぇは何を言っ―」
ソレがベルトの方に歩み出した瞬間、ベルトの意識は途切れる。ベルトがソレの魔力にあてられ怯えていた隙を一瞬で刈り取られる。
「う、うわぁぁぁぁ!!!」
仲間の顔が半分に抉られ、到底敵わないと判断したキクスは叫びながらその場から逃げ出す。逃げる男を見たソレは少し悩んだ後、片手から走り続けている背中に黒く燃える炎を放つ。
「ってこれだけでもう時間切れなのかよ?やっぱ依り代が弱いと全然耐えてくれないね~」
崩れていく両手を見ながらソレは、もっと遊びたい子供かのように文句を言いながら徐々に消えていく。
「オレ達の存在が知られるのはもう少し先だし?おもちゃを使ったけど、やっぱりダメか~」
遠くから何か爆発音と男の悲鳴が響き渡る、ソレには興味対象外であり、何も聞こえていない。
「やっぱ勇者達は、オレ達が直接倒さないと駄目なのかね~。まあそれはそれで、楽しみなんだけどな」
崩壊した身体は風に吹かれた砂のように笑い声と共にどこかへと消えていく。静寂を取り戻した森の中で、翌日2つの死体が発見された。1つは顔が半分無くなった死体。もう1つは炎によって黒焦げとなった焼死体だった。
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