目覚めた力
「……何が?」
先程まで混濁していた意識がはっきりとしてきたリクはゆっくりと身体を起こす。何が起きたのかは分からないが、先程まで死の淵におり、自身も死ぬことを覚悟していたリクだが、現在、自らの身体から痛みが消えていくのを感じていた。
「新しい、力?」
状況が呑み込めていないリクだが新たな力の芽生えを感じ、自らの身体が青いオーラに包まれている事に気付く。今まで聞いた事もないはずなのに、何故か理解できる。まるで心の中で閉ざされていた門が何かの拍子に開いたようだ。
「しかも……魔力とは、違う」
身体の中に感じる力は魔力とは別物だ。魔力は身体内を常に循環している。一種の血液のようなもの。だがこれは身体内であって身体内ではないような、全く別の所に力の源泉を感じる。リクは新しい力の把握を進めながら、立ち上がる。痛みは既にほとんど感じない。
「おいガキ!!!てめぇは死んだはずじゃ!?」
叫び声を無視して、自分の全身を触って確かめ、軽くその場でジャンプをし、調子を確かめる。そのまま少しの間目を瞑り、考える。現状把握できている力は2種類。1種類は既に発動した。あと1種類はこれからの戦闘で確かめる。
「なるほどね、大体わかった」
「おい、てめぇら!今度こそあの死にぞこないのガキを殺すぞ!」
「また遊ばしてくれるのか!そいつは助かるな!」
「ひっひっひ、ま、まだ苦しみたい、か」
戦闘態勢を取った3人は再びリクに向かって駆け出す。先程と同様に氷の鎧、槍、毒ナイフがリクに迫る。一度は手数に圧倒され、瀕死となったコンビネーション。それでもリクは動揺することなく3人を見る。
「はっ!回避に専念する気かぁ?」
一番最初に接近した氷の鎧を纏った男が、両手に生やした氷の爪でリクを襲うが、リクは刀を構えず、待ち構える。奴の後ろにも音が2人武器を持って構え、回避した瞬間を狙う寸法だ。
「おらぁ、死ねやぁ!!!」
そのまま両腕の爪が道場の壁を貫き、破壊するが、そこにリクの姿はいなかった。
「おい!あのガキはどこに行った!」
「知らねーよ!お前の爪で殺したんじゃないのか!?」
後方で構えていた男達に向かって叫ぶが、彼らもリクの事を見失い、攻撃を警戒するが。どこからも攻撃が来ないことに対して更に警戒が高まるが、
「父さん、これで大丈夫だから」
「は?あのガキ、いつの間にあんなところに」
リクは攻撃された瞬間に立っていた場所とは反対側、父親のレオの傍で屈んでいた。リクはレオの身体に手を当てると、レオの身体を光が包み込む。その光を見ながらリクは力の理解をさらに進める。
「回数制限があるのか?」
何故かはわからないが、本能でわかる。これはこれ以上、父さんには使えない。逆に自分に対してはまだ使えるが、無限ではない。かと言って、何かを消費した感覚はあるが、魔力は減少していない。まだ分からないことだらけだ。
「ひっひっひ、し、死ね!」
分析中だったリクに毒ナイフが5本、そして巨大な毒弾が同時に飛来する。分析に時間を割いていた為、敵に攻撃を与える時間を与えてしまっていた。リクだけなら回避できるかもしれないが、それでは傍にいるレオが間違いなく死んでしまう。
「お親子諸共死ね、ひっひっ」
「加速Ⅲ《アクセル・ドライ》」
その瞬間、誰もいない所にナイフが刺さり、毒弾が着弾する。呆気にとられる男達。再びリクは一瞬で毒の影響がない場所に移動したのだ。しかも今回はリクだけではなく、隣にいたレオも同時にだ。
「先に殺すのはアイツか」
レオを床に優しく置き、リクは
「はっ!どんな小細工を使用したかしらねーがなぁ!」
「おもちゃじゃ、俺達には勝てないんだよ!」
「ひっひっひ」
氷柱、毒ナイフ、毒弾、矢が無数に飛来する中、リクは静かに魔法を発動させる。
「
「は、はやっ―」
一気に加速したリクは敵の弾幕を全て回避。動揺する敵が冷静さを整える前に一気に距離を詰め、
「ひっ―」
「これで、1人目」
そのまま
「こ、このクソガキが!!!」
「
敵の攻撃を人ならざる速度で悠々と躱しながら、リクは新たなる力の整理を終える。リクが新たに手にした魔法。それは時魔法。様々な形で時間を操る魔法だ。
「くそがぁ!このガキ、さっきとは動きが別人だ!」
そしてもう1つが
しかしこの消耗もリクが先程感じた通り、身体強化などの魔法を使用した時のような魔力の減少はない。それでも使用できる残り時間、回数が本能的に理解できるため、何かしらの制限があるようだ。
「氷の鎧は厄介だな」
現在のリクの技術では氷の鎧を完璧に切り崩すには時間がかかる。そうなれば先に狙うのは―、
「試してみるか、最高速度」
「おい!てめぇと俺でこのガキを挟み込むぞ!」
両側から男達が氷の爪と槍がを携えながら迫る。リクは氷魔法を無視し、創造魔法の男の方へと向かい
「
「また、消えっ―!?」
男の前でリクが一瞬で消え去り、言葉を全て言い切る前に身体に衝撃が走る。前方に立ち尽くす仲間の男も目を見開き立ち尽くしているのが見えたが、視点が傾き床が男へと迫る。そしてそのまま男は意識を失った。
「て、てめぇ……」
「これで、2人目」
最後に残った男は首が無くなった仲間の向こうに立っている男をみて恐怖していた。先程までは死に掛けていたのにも関わらず、急に立ち上がったと思ったら目にも見えない早業で仲間を2人殺した男。
「くそがぁぁぁぁぁ!!!!」
「
残った男はなりふり構わずリクに氷柱を無数に放ち続けるが、リクはそれらを全て最小限の動きで躱しながら距離を詰めていく。全ての氷柱はリクの防具をギリギリ掠めるが、決して命中はしない。男の眼には氷柱が全てリクをすり抜けているかのように映っていた。
「っ!防御を!」
咄嗟に男は全身を氷の鎧で包み、その瞬間リクが
「ちっ、だったら……
現状では一撃で奴の鎧を崩すことはできない。加えて本来なら鎧の弱点となる関節部位の隙間もこいつは氷で埋めることで機動力を犠牲に防御力を固めている。ならば、手数で徐々に崩していくしかないが、時魔法の使用回数が徐々に限界まで近づいている。魔力残量が限界まで近づいた場合、通常であれば倦怠感や嘔吐感に襲われるのだが、今の所はこれと言って問題はない。このまま押し切る。
「うおおおおおお!!!」
「てめぇは!!!!なんなんだよぉ!!!!!」
徐々に一点に集中して斬撃を加え続けたことで、鎧に穴が開きつつある。敵は反撃もせずにこのまま防御に徹するようだ。時魔法はもうほとんど残っていない。だが鎧は最早薄氷だ。
「これで終わ「助けてくれ!!!!」
リクが鎧の穴を突こうとした瞬間、道場の入り口から男が1人走りこんできた。突然の出来事に思わずリクは攻撃を止め、男の方を向く。見たこともない男は恐怖に満ちた表情を浮かべ、歯を震えながら鳴らしている。
「誰だ?」
不審に思い
「お、俺は知らなかったんだよ!!!あ、あんな化け物がいるって知ってなければ、こ、こんな依頼受けなかったんだ!!!」
「は?何を言って――!まだ……攻撃する余力が残ってたのか」
「この……化け物がぁ」
背後から飛んできた氷柱を
「こんどは何だ!?」
時魔法を唱えようとしたが、道場の入り口が突如破壊され、無数の木片が宙を舞う。破壊された入り口には血に濡れた刀を持った人物が立っていた。傍から見れば、その身体から満ち溢れる殺気によって周囲の空気がねじ曲がっていると錯覚してしまう程だ。
「おいっ!てめぇらに何があった!」
「あいつは殺されたんだよ!あの化け物に!」
どうやら先程入ってきた男は奴らの仲間らしい。奴らは3人ではなく4人、いやさっきの口ぶりにからして更にいたらしい。
「まだ、仲間がいたのね」
「……母さん」
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