逆恨み

 ========== この物語はあくまでもフィクションです =====

 ============== 主な登場人物 ================

 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。

 神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。

 船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。

 茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。チエを「お嬢」と呼んだり、「小町」と呼んだりしている。

 楠田幸子巡査・・・チエの相棒の巡査。

 小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。

 嵐山幸恵・・・小雪の母。

 小郡源太・・・元入院患者の息子。


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 午後4時。京都市左京区。上白川上野病院。

「チエちゃん、ごめんなさい。お茶も出さんと。」小雪の母、幸恵は車椅子のまま言った。

「気イ使わんといて、おばちゃん。すぐ帰るさかい。小雪ちゃん、遅いなあ。」

 チエが、そう言った時、廊下の向こうが騒がしくなった。

 看護師達が走っている。

 チエは、向こうからやって来た、小雪に出くわした。

「チエちゃん。ごめんなさい。挨拶回り、遅うなってしもうて。何や、引きこもりみたい。」

「引きこもり?立てこもりやろ。ナースステーションで騒いでいるのは。」

「チエちゃん。今はスタッフステーションって言うんえ。男性の看護師さんもヘルパーさんも出入りしはるやろ?」

「スタッフステーションか。詰め所には間違いないな。何喚いてるんや。」

 チエの問いに、「何か順番がどうとかで。前にな。ここに入院してた患者さんの身内らしい。院長がナイフで切りつけられたらしい。タオルで押えてるけど、出血してる。看護師さんらは、手出されへん。ガードマンも頼りにならんし、拉致あか・・・。」と小雪は説明したが。

 言い終わらない内に、チエはスタッフステーションのカウンターに飛び乗り、いきなり、その男に飛びついて、袈裟固めをして、落した。

「そこのガードマン。会社はええから、110番して。」

「あんたは・・・。」「暴れん坊小町こと、神代警視や。控えおろう!」と小雪が言うと、皆、床に平伏した。

 午後5時。東山署。取り調べ室外。

「今日は、早ウ帰れるな。」と言いながら、船越副署長が出てきた。

「なんでやねん!」と、腰に手を宛て、チエが言った。

「もう調書取ったさかいに、お嬢の好きなようにしてエエで。あ。レイプはアカンで。」

「はあ?」と言いながら、チエは取り調べ室に入った。

「先月、オヤジが亡くなったんです。」と、小郡源太は言った。

「それは、ご愁傷様です。」

「病院から朝方、亡くなりました、って電話が来ました。危篤の時に『緊急連絡電話1』の方に電話したけど、出られない。容態がますます悪くなり、亡くなった直後にもお電話したけど、出られない。それで、『緊急連絡電話2』のあなたに連絡しました。遺体の引き取りをお願いします、って。急いで駆けつけ、葬儀社に連絡してから看護師に尋ねたんです。」

「それで、『緊急連絡電話』の書き換えがあったことが分かった、と。」チエも憤慨して言った。

「義兄が見栄っ張りで、姉を唆して書き換えさせた。その結果、親の死に目に会わなかった。姉は、もしかしたら、と言っていたが、義兄は『明日にせえ』言って寝たらしいんです。」

「何とまあ。」「葬儀終った後で、喧嘩しました。父が亡くなる前から、父の通帳や、今入院している母の通帳、私の通帳も管理してやるから、などと抜かしていました。じっと我慢していたけど、身内にも病院にも腹が立った。何で、危篤で連絡がつかなかった時に、報せてくれへんかった、って院長に談判したんです。傷つける積もりは無かった。」

 チエが取り調べ室を出ると、署長であり、チエの父の神代警視正が待っていた。

「どこ行く積もりや。チエ。院長の股間蹴っても問題解決にはならんぞ。」

「そやかて。」「院長は、俺の同級生や。転んで出血したけど、病院やから、すぐ手当出来た。こういったケースの場合は、他の親族の確認を取って、無闇に連絡先を書き換えへんように通達した、と言ってた。ナイフは『行方不明』やしな。副署長は書類紛失したらしいしな。」

 チエは、神代の頬にキスをして、自販機まで走った。

「あんまり走ったら、廊下の底、抜けるで。」と、すれ違った茂原が言い、皆が笑った。

 神代は、今夜も「ちゃん、風呂はいろ!」とチエが甘えるのを想像し、「甘やかし過ぎかな?」と思った。

 ―完―

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