おのぼりさん

 ======= この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、祇園交番に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。

 茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。チエを「お嬢」と呼んだり、「小町」と呼んだりしている。


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 ※京都の市内では、碁盤の目のような、聖地された道路があり、英語のStreetとAvenueの関係では無く、東西に延びる道路も南北に延びる道路も「通り」と称しています。住所表示は、何丁目何番地よりも、交差点に当たる場所で表記されることが多いのが特徴で、その交差点から北に向かう事を「上ル(あがる)」、南に向かうことを「下ル(くだる)」、西に向かうことを「西入る(にしいる)」、東に向かうことを「東入る(ひがしいる)」と表記します。ややこしいけど、覚えていると、多少方向音痴でも道に迷いにくいかも?

 尚、昔の手まり唄で「あねさんとっかく・・・」という、通りの名前を暗記する唄も有名ですが、今は知らない方が多いのかも知れません。


 午後1時。河原町丸太町(河原町通りと丸太町通りの交差点)付近。

 修学旅行でやって来た中学生の集団と、地元の中学生の集団が乱闘をしているという報せを受けて、京都府警では『毒には毒を』作戦を実行した。

 というと大袈裟だが、小町が出動しただけである。

 ミニパトから降りた小町が、ざっと人数を数えると、双方20名くらい。

 同乗していた女性警察官から警棒を受け取ると、10分と経たない内に、2本の警棒で全ての中学生の左肩を叩き、全員、その場に頽れた。

 午後2時。河原町署。取り調べ室。

 修学旅行でやって来た中学生達から代表を出させて、小町は、取り調べに臨んだ。

 10分後。小町は、ゲラゲラ笑いながら、取り調べ室から出てきた。

 応援にやって来た茂原刑事を見付けると、「後は、バラさんに頼むわ。ウチ、休憩してるし。」と言って、自販機に向かった。

 茂原は、河原町署の刑事と顔を見合わせ、肩をすくめて取り調べ室に入った。

 5分も経たない内に、茂原は状況を把握した。だが、小町のように出て行くことはしなかった。

「君は、君たちは、新幹線の『くだり』でやって来たにも拘わらず、地元の中学生に『おのぼりさん』って言われて、違う違うって口論になって、手の早い者が喧嘩始めた訳やね。深呼吸して聞いてや。君たちが言うことは正しい。新幹線のくだりに乗って京都に来た。地元の中学生がからかったことは、地元の中学生が悪い。でも、君たちの乗った列車を間違えていると言った訳じゃ無い。この近くに京都御苑があるよね?」

「はい。昨日、バスで行きました。」「うん。地元中学生が言った『おのぼりさん』って言うのは、あそこを指しているんよ。本当は御苑というより京都を指した言葉なんやけどね。今、皇室は、東京にある『御所』が住まいやね。昔はね、京都やったこと知ってる?」

「ああ。江戸城開城して、引っ越したんですよね。」「そうそう。『おのぼりさん』言うのはね、地方から、『その時の都』である京都にやって来た人をからかって言った言葉。元はからかう為の言葉やなかったけどな。そして、列車の『のぼり』『くだり』。これは、旧国鉄が出来た頃、『その時の都』である東京に向かう方の列車を『のぼり』、反対側を『くだり』と言うようになった。後で出来た私鉄もこれに習った。『一部を除いて』緯度経度で計って、東京に向かう方角の列車は『のぼり』、反対側は『くだり』。大阪府の紀勢本線と阪和線は同じレールの上走るけど、ターミナルが違うから『のぼり』『くだり』は逆になってる。『おのぼりさん』言う言葉は、大阪弁と思っている人も多いけど、それは、京都人のプライドが産んだ、言葉。今は差別が五月蠅いから、廃れて良かった言葉や。まあ、言葉は使う人の心次第。アホでも、軽蔑の事もあれば、合いの手みたいに使うこともある。せやろ?とにかく、喧嘩両成敗、と言うわけにもいかんが、心情的には、君らには同情の価値はある。暴力はイカン。」

 茂原の話が終ると、「よく分かりました。ありがとうございました。」と、彼は涙を流した。

「今の話は、相手方にも話しておくよ。恐らく、君たちが『知っている』と勘違いして、惚けていると思いこんだに違い無いわ。」と、河原町署の刑事は言った。

 午後3時。

 自販機の前に来た茂原に、小町は自販機のコーヒーを買って差し出した。

「たまには、『よい刑事』の役もええやろ?バラさん。」「恩に着せるなよ。お嬢が怪我させた子もオルンヤで。」「修学旅行組も態度悪かったらしい。近くの土産物屋のおばちゃんからウラ(証言)取った。」「まあ、『子供の喧嘩』やわな。」

 2人は、パトカーに戻った。何故か、小雪がいて笑っていた。

「お疲れさーん!」

 ―完―





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