推定冒険者ランク超級“海王の寝床“クラーケンのたこ焼き
「ふぅむ、広い場所を求めて進み続けた結果、最深部に来ちゃったねミドさん」
「えぇ! 店長、中々魚や貝も綺麗で水族館デートみたいでしたね?」
「水族館かぁ、えてして確かに最も当てはまるね。マーマンとか人魚とかが襲ってきたけど、そういうアトラクションだと思えばそんな感じかな。しかしここめっちゃいいね!」
「はい! 大変広くて、ここまでやってきた冒険者達も最高の絶景でお食事を楽しまれる事間違いないですわ!」
るんるん気分のミドさん、そして中々広い場所にお店を開きやすいなとテンションを上げる店長。しかし、この最深部にはこのダンジョンの主とも言えるボスモンスターが居座っている。
超級というランクのダンジョンに相応しい神獣クラスの怪物。一本、一本が大型の魔物よりも大きな触手を持ち、端から端までで60メートルに達そうという海底の覇者。
「クラーケンか、こりゃ、食べ応えのあるタコだなぁ……タコかぁ、カルパッチョ、酢の物。いや、パンチがないなぁ」
店長は既に目の前のクラーケンを捕獲して調理するシュミレーションを開始していた。本来十人以上の冒険者パーティーが二組、三組で討伐するような存在。手をポンと叩いて、店長は閃いた。
「ミドさん、タコの吸盤は雑菌だらけで、滑りも凄いからよく洗って食材にしたいんだけど、このサイズだから一個一個洗ってられないんだよね。うまい事できないかな?」
討伐は既にできる事を前提で店長はミドさんに本来であれば無理難題をお願いしているのだが、ミドさんは店長にお願いされて、ブルブルと震える。
「お任せください! こんな下等な水生生物、丸洗いして、細切れにして見せます」
腕を組むミドさん、クラーケンと睨み合う。確かに今までの魔物達とは一線を画する怪物である事はミドさんも認めている。とはいえ、自分を相手にするにはこの程度の生き物では少々足りない。
そんな事はクラーケンも分かっているだろうに、このダンジョンのボスモンスターであるプライドからか、ミドさんに襲いかかった。
「愚かな。正気でも失ったのですか? 弱い人間の冒険者ばかり楽に捕食していたんでしょう。汚い触手で私に触れるな」
ミドさんにむけて伸ばした触手は触れる一歩手前で氷漬けになる。このままだとミドさんの魔力だけで全体が氷漬けになってしまうのでミドさんは魔法の行使を止めると、別の魔法を発動。
「ウィンドウ・ツイスター」
海水を巻き上げながらクラーケンの巨体を渦の中でグルングルンと回転させる。巨大な渦の中で強制的に滑りと雑菌を除去されるクラーケン。
「ダイアモンドカッター!」
お次は氷の手裏剣、それを無数に放ってクラーケンの足を、胴体を頭を切り裂いていく。超級ダンジョンの神獣クラスのボスモンスタークラーケンですら、ミドさんの前では赤子の手を捻る程度の力で討伐されてしまう。
「よし! たこ焼き作ろう!」
細切れにされたクラーケンの身を見つめて店長はそう言った。丸い穴が等間隔に装飾されたオリハルコンの盾をマジックリュックから取り出す。何処かのダンジョンのボスモンスターを倒した時に入手した盾で換金するのを忘れていた。
「これを固定して鉄板代わりにしよう。ティラノサーモンで作った節で出汁を作って、小麦粉、微塵切りにした葉野菜、微塵切りにしたピクルス。油カスに茹でたクラーケンの身」
ミドさんは店長の鮮やかな手際にただただ感嘆、そしてハートが高鳴る。生地を熱した盾の窪みに入れて次々に材料、最後にクラーケンの身を入れ、アイスピックでコロコロと転がして見事に丸いたこ焼きを作ってのけた。
「ソースとマヨネーズ、そしてティラノサーモンの節をかけて完成。飲み物はどうしようかな? 柑橘類のサワーにしようか、ミドさん味見してくれる?」
「お任せください! 店長ぉ」
八個をお皿に入れてベコポンという柑橘類を絞ったベコポンサワーを並べる。ミドさんはフォークでたこ焼きをおもむろに一口でパクり。
「ふぁ! あちち」
ふふっと店長が笑う。それに恥ずかしいが、口内が思った以上に熱い。外はカリカリ、中は柔らかく、ソースがよくマッチする。口の中が落ち着いてきた時、ゆっくりと味わってベコポンサワーを一口。
「…………店長、これしゅごい!」
「感想聞かなくてもいいくらい最高の表情だ。んじゃ俺も一口。あー、クラーケン美味いな。こんなタコ食べた事ないぞ」
ソース臭に誘われて、あるいは単純にダンジョンの最深部に到着した冒険者パーティー、総勢二十人はいる。
彼らが見た光景は細切れになったクラーケンと、中心部で何やら美味しそうな匂いを漂わせている二人組の姿。しかし超級や上級の冒険者達だ。
それが何かすぐに分かった。
「居酒屋“ダンジョン“開店です! 本日のオススメはクラーケンのたこ焼きです。飲み物はベコポンサワーがよく合いますよ。もちろん他メニューもありますので是非どうぞ」
冒険者達はボスモンスターの討伐こそ損ねたが、まさかのボーナスステージである居酒屋“ダンジョン“が開店している事に喜んで席につく。
「こっち銀ベロで」
「ワインとオークのトロ串」
「クラーケンのたこ焼き、とりあえず三人前」
次々オーダーが入る。店長は串にクラーケンを指して砂糖醤油を塗ってクラーケン焼きも作っていく。そんな中、甲高い声でオーダーが入る。
「ベコポンサワーとクラーケンのたこ焼き」
「はいお待たせ様です」
そこにはマントをした長く赤い髪の女の子、クラーケンのたこ焼きをパクパク、そしてぐいっとベコポンサワーを飲み干すと開眼。
「とんでもねぇ、美味さだな! ンだこれ!」
「恐縮です。お客様、グラス空きましたけど、おかわり入りますか? 銀ベロに変えておきますね?」
「うぬ、助かる! じゃねぇ! 我はミド・ガルズ・オルムに用があって」
「はい、お待たせしました。ベコポンサワーです」
「おぉ! 頂きます」
冒険者達とグラスを乾杯し、赤髪の女の子は大いにクラーケンのたこ焼きとお酒を堪能した。冒険者達も帰っていき、残ったクラーケンの身を冷凍保存してマジックリュックに入れていく。
片付けをする際、ミドさんが叫ぶ。
「はぁあああ? 持ち合わせが足りない? 無銭飲食ですか?」
「だ、黙れ黙れ! 我は貴様に用があってきたのだ。終焉龍、ニー・ズ・ヘッグにある! ドラゴンの矜持を忘れ、人間と行動し、見るに耐えん! 我が直々に滅ぼしてやろう」
「ニー、その前に料金を支払いなさい」
紅蓮の炎を纏い交戦態勢に入ろうとしたニー・ズ・ヘッグだったが、支払いの件をミドさんに詰められて小さくなる。
「足りぬ分はつ、ツケにしてもらえぬか?」
ゴトっと魔石を置いて終焉龍ニー・ズ・ヘッグは深々と頭を下げた。それに店長は腕を組んで少し考えると、
「そろそろバイト増やしたかったし、ニーさん、ウチのバイトとして足りない分、働きますか? 仕事の仕方はミドさんに教えてもらってさ」
「て、店長ぉ!」
「……人間の下で働くなど」
「3食、オヤツの賄い付きだからね」
「よろしく頼む! 店長」
店長を独り占めできなくなるミドさんは顔面蒼白、そして居酒屋“ダンジョン“に二人目のドラゴンバイトが入社した。
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