rache
@rokurokusan_16
第1話
オフィスにエンターキーの叩く音が響く。
「ようやく終わったぁ...」
でかい独り言であるが、ねぎらってくれる人はおろかオフィスには誰一人として残ってはいなかった。
今日は金曜であり、業務が終わった反動で内心は小躍りしたい気分ではあるがそんな元気ではないし、今いくら自分が残業で一人だとしても清掃員がいるかもしれない。
pcの傍に置いてある時計は23時半を指していた。ディスクの上のものを雑にバックに詰めてオフィスを去る。
廊下にある自販機はエナジードリンクのみ売れ切れており、所属している企業の業務形態が酷いことが可視化できた。
季節は夏、昼間ほどではないが空調が効いたオフィスから出た私はむせかえるような気温と湿度のなか愛車に乗り込んだ。
会社は某県の麓が畑に覆われた山の奥にあるので終電の概念はなく、それが残業に拍車をかけているのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えながら車を走らせる。
山の麓にある車道はほぼカーブはなく、ここが家に帰るまでの時間を短縮できる数少ないスポットである。
アクセルを踏み込む。
時速80kmに達した刹那、ひどい耳鳴りが襲ってきた。
反射的に手で耳を塞ごうとするがハンドルから両手は離せないので左手のみで左耳を塞いだ。
それでも耳鳴りは治らずに鳴り続ける。
あまりのひどさに一瞬うずくまるように視線を下げてしまった。
しばらくの間蛇行運転になってしまう。
このままではいけないと思い再び視線を上げた。
そしてそこには5m先には四つん這いになった少女が転がっていた。
時速80kmで進む車は5mを約0.22秒で進む。
当然避ける事は出来ずに悲鳴を上げながら私はそのまま少女を轢いた。
車のバンパーに少女の体が強く当たる。
それによって生じた衝撃は私の全身を揺らした。しかし車はすぐに止まることは出来ず、若干右前方に数メートル吹き飛んだ少女の体に車が乗りあげる。
まずは右前輪、そして右後輪が少女の体をすり潰しながら通り過ぎた。
腐ったトマトを全体重をかけて潰した感覚。
否、最初は潰れまいと抵抗するがすぐに形を保てなくなりブチッと裂けた外皮の間から中身が飛び散る感覚だろうか。
タイヤを通って私の握っているハンドルに伝わる。
そんな吐き気をおぼえるような感覚を覚えた頃ようやく車を止める事ができた。
呼吸がままならない。全身が震えた。またうずくまってしまう。
まとまらない思考で必死にこの状況の脱し方を考える。
なぜこんな夜中に、なぜ灯り一つない場所に、なぜ車道で四つん這いになっていた。
あんな場所に少女が転がっていなきゃ今頃家に着いていた。
私が少女を轢いていなくてもあの状況ならば他の車に轢かれていただろう。
「私は! 私は悪くない... あのクソガキが悪いんだ」
そうだ、あのクソガキが車道で転がってる方が悪いのだ。
ここは車通りが滅多にない。
今なら誰も見ていない。
明日明後日は休みだが、明々後日には仕事があるのだ。まだローンも借金の返済も残っているのだ。
まだ車は来ていない。
隠すなら他の車が来る前にだ。
震える手でドアを開いた。
夏の暑さが冷えた車内に入り込んできて不快ではあるがそれどころじゃない。
街灯は一切なく明かりはヘッドライト以外手元のスマートフォンしかなかった。
ヘッドライトは返り血でまばらな光になってる。バンパーには血の他にも激しい凹みがついていた。
スマートフォンの弱々しいライトでは轢いた少女は見えないが3mほど道を進むとドス黒い赤に包まれた死体が転がっているのが見えてきた。
死体はうつ伏せになっており車道に対して横向きつまり歩道側にそれぞれ頭、足がきている。
四肢は折れて不自然な方向に曲がっており、腹部が不自然に潰れていたことから腹部に車体が乗り上げたのだろう。
時刻は12時であり車が絶対来ないとも言えない時刻である。
警察に通報がいくとすればこの死体が見つかる時である。しかしこの死体を車に積み込んむとしてもこの血だまりが見つかればアウトだろう。それに死体を包む大きい布やシートもないので車が汚れてしまい、足がついてしまう。
そんな事を思考しながら死体から一旦視線を外し、辺りを見渡すと畑に用いられてるであろう水路が視界の端に映った。
水路は車道から小さな坂を下った先にあり、車道を車で通ったとしても水路のなかまでは見えない。
そこで一旦この水路に死体を隠して急いで家から血だまりを掃除できるものと死体を包むものを持ってくることにした。
そう考えた私はスマートフォンを死体の近くに立てるように置いた。
少女であったものが弱々しく照らされた。
少女を引きずって水路の中に入れることが出来れば楽なのだが、血が水路のまで繋がってしまっては少女の死体がすぐ見つかる。
まず私はどうにかして少女を担ぐことにした。
まずは少女の傍に片膝をつけてしゃがんだ。そのまま腰に手を当てて体を持ち上げる。
血を多く含んだ少女の服は私の服を容赦なく汚していった。
持ち上げた体は力無くえび反りのようになり手から落としそうになるが、その前に肩に担ぐことが出来た。
幸いそれは少女の華奢な体故、体重はそれほど重くはない。
そして少女の確かな質量を感じながら私は水路まで到着し、溝にそれをはめた。
そしてダメ押しではあるが近くに生えていた背の高い雑草を少女の上にふりかけ、死体が発見しづらいようにした。
そのあと私は一旦帰宅し、自宅からブルーシートと血だまりを掃除することの出来る道具を現場まで持ってかえってきた。
一通り掃除を終えて私は少女をブルーシートで包もうとした。
少女の体は既に死後硬直が始まっていた。
体はひどく白く、冷たい。
触れた皮膚は油ねんどのようにねっとりとしていて、生きた人間のような弾力はない。
手で触れた死体との体温差が生と死の境目に感じた。
体は水路にはまっていたので真っ直ぐで包むのには簡単だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
朝日が登ってきた頃、なんとか死体を自宅まで持ってくることは出来た。
ブルーシートから血が滴り落ちてしまってはかなわないので風呂場に死体を投げ入れた。
その日は疲れて泥のように一日中眠った。
そして次の日、つまり日曜日は突然の上司からの呼び出しにより潰れてしまった。
そして今が夜中11時である。
明日は月曜日だが、来週の休日まで自宅に来客がないとも言いきれないので、死体をしっかり隠そうと考えた。
死体が腐らないよう風呂場で水に浸けておこうかとも思ったが、水死体は水を吸って膨張し、触れただけで肉体がほろほろと崩れるようになるので辞めた。
試行錯誤の挙句、来週の休日までクローゼットに死体を置くことにした。
現在自宅の据え置きのクローゼットは使っておらず、奥行き・横幅40cm高さ1.5mという死体を詰め込むにはもってこいなスペースを確保できる。
それに加えてクローゼット内部に冷却機能は付いていないが、死体が腐って臭いを放っていてもテープでクローゼットの隙間を埋めれば臭いが漏れることもないので死体をクローゼットに詰め込むことにした。
しかし、いざ死体をクローゼット内部に詰め込むと扉が閉まらないことに気がついた。
死体は当然立たせる事が出来ず、扉にもたれかかってしまうため扉がどうしても開いてしまった。死体を座らせて詰め込もうにもクローゼットは奥行きがあまりなく、どうしても死体が飛び出てしまった。
休日出勤の上、疲れも溜まり早く眠りたい。そんな私はついに痺れを切らせて再度死体を風呂場に運びこんだ。
死体をを風呂場に床に置き、ブルーシートを乱暴に剥いだ。
そして邪魔になったブルーシートを退けるため、死体が乗っているのを無視してブルーシートを手元側に強く引っ張った。
死体は2回転ほどして床にドチャっと鈍い音と共にうつ伏せに転がった。
それからハサミを用いて服を脱がせる。
準備が整ったのでリビングから包丁、ノコギリを持ってきた。
覚悟は決まった。
まずは右手首を持ち上げて右肩を思い切り踏みつけた。
バキという音が鳴ると同時に肩と腕が外れた感じがした。
おそらく肩と腕の境であろう場所に包丁を入れるとノコギリをあまり使わず切り離すことができた。
その要領で左も肩と腕を切り離すことが出来たが、両足が骨盤と腿あたりの骨を切り離すことが出来ずノコギリを多用するしかなく、ひどく苦戦した。
というのもノコギリを使った際には肉片や脂が多く刃と刃の間に挟まったので、使ってないブラシでそれをいちいちこそぎ取ってから作業するを繰り返さなければいけなかった。
死体を四肢と胴体の合計5つに分けることができたのは午前3時のことであった。
そこから手をつけることを諦め、浴槽に5つの肉塊放り込んでシャワーを浴びて眠った。
月曜日、会社から帰る事が出来たのが24時半のことだった。
死体の処理の続きをと思い風呂場のドアを開けた。
浴槽から発生している血生臭さに加え、腐敗が進んでいるのかほのかな磯のような匂いが私の鼻に届いた。
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