非現実的な恋愛物語 外伝『月光伝説』

沙水 亭

第1話 生誕

俺は病院では生まれなかった。


いや、『産まれられなかった』といったほうが正しいな。


産声を上げたのはどこかのトイレだったかな……


俺の母は自分の身体を売るような人間だった、俺を産んだのもうっかり妊娠してしまったからで、歳は18才の頃だ。


もちろんそんなガキが赤ん坊を育てられる訳が無い、すぐに捨てられたさ。


母は俺をコインロッカーに捨て、発見されてすぐに養護施設送り。




しかし養護施設で健やかに育ちました。


……って訳でもなく、結果栄養失調で享年13才。


そんな俺を見かねてか死後神様が現れた。








「君は異世界に興味はあるかい?」


小さな女の子が宙に浮いていた。


「異世界……それって剣と魔法のファンタジー世界の事ですか?」


「そう、君は13才で死んじゃったからね、受けた生がそんな短いものじゃつまらない、だろ?」


「受けた生……僕、お母さんも知らないんですけど」


「そうだったのかい?じゃあ見せてあげるよ、『君が生まれた瞬間』を」





「……これが、生まれた瞬間?」


「そう、君はトイレで産み落とされた」


「……これが、お母さん……」


「気の毒だけど君は望んで産まれてこれなかったんだ」


「……」


「だから、君は次の人生を異世界で過ごす、って言うのはどうだい?」


「……」


「時間はたっぷりある、ゆっくり考えて」


「行きます」


「……考えたのかい?」


「必要ありません」


「天国でゆっくり過ごすことも出来るんだよ?」


「いいんです、異世界に興味がない訳じゃないし」


「へぇ、じゃあ特典としてこれをあげよう」


すると神様は頭に手を置いて何かした。


「これで異世界向こうの言語と文字がわかるよ」


「これが……特典」


「いいや、特典はこれだよ」


また神様は頭に触れると謎の光が身体を包んだ。


「君の身体は貧者だからね、強化しておいたよ」


「強化……どれくらい?」


「そうだね、痛みの耐性とか、まぁ全体的に」


「ざっくりしてる……」


「それは向こうに行ってからのお楽しみ、さて異世界に送るよ」


「はい!」


「よし、いってらっしゃ~い!」


眩い光が目の前を覆った。










目が覚めると森の中だった。


「ここが、異世界」


木々が生い茂り、心なしか空気も澄んでいる。


「とりあえず川を探すか、たしか川の下流には文明があるとかなんとか」


本で得たあやふやな知識を元に川を探しに歩き始めた。




「……川全然ないんですけど!」


どうなってるんだ、どれだけ歩いても川が見つからない。


「水が流れる音も微塵もない……」


これは完全に遭難だな……


「ん?誰か居るのか?」


「!」


人の声だ!


「ここか?」


草むらから現われたのは大剣を背負った金髪の男性だった。


「って子供?」


「あ、あの」


「迷ったのか?」


「は、はい」


「ふむ……君、生まれは?」


「えっと……」


日本って言っても通じないよな……ダメ元で言ってみるか。


「日本です」


「ニホン?……聞いたこと無いな」


「でしょうね……」


「名前は」


「名前……」


そういえば名前じゃなくて番号で呼ばれたっけ……


「無い、です」


「はぁ!?無い!?」


「えっ、はい」


「……名無しか、隠してるって感じでも無いな」


うーん、と男性が考えていた、何を考えてるんだろう。


「よし!お前の名前はオーグだ!」


「オーグ?」


「いい名前だろ?」


「ありがとうございます!」


「あ、それと俺はミリアルド、よろしくな」


「はい!」


「とりあえず、近くに駐屯地がある、ついて来い」







駐屯地



「ただいま戻りましたよーっと」


「遅いぞどこで油売ってやがった!」


「はいはいすんませんすんません」


まったく反省の意図を感じられない……


「貴様っ……」


「団長殿こそまた捕虜と遊んでたでしょ、困るんですよ『毎晩』うるさくてたまったもんじゃない」


「はっ!捕虜の『尋問』も出来ぬお前が口出しするでないわ!」


「へいへいすんまそ」


すると団長?って人は奥へと去っていった。


「あれが帝国騎士団の団長だ、性欲と金銭欲にまみれた『獣』だよ」


「性欲?金銭欲?」


「……お前何歳だ」


「えーっと……13歳?」


「あー……まぁうん、トーリス」


「はーい」


お姉さんがテントから出てきた。


「あら、可愛らしい子ね、どうしたの?ミリアルドの隠し子?」


「ちげぇよ、こいつはオーグ、森で迷子になってたのを拾ってきたんだ」


「迷子ね、家族は?」


「いません」


「……もしかして戦争孤児かしら」


「戦争孤児?」


「戦争で親子兄弟を失った子供のことだな」


「僕は生まれてすぐに捨てられましたよ?」


「「何だって!?」」


「え……」


急にトーリスさんが抱きしめてきた。


「辛かったわね……」


「え」


「……そういえばニホン?って国の出身

らしいが、トーリス知ってるか?」


「ニホン?……たしか勇者たちと同じ国のはずよ」


「勇者か……ま、とりあえず帝国まで帰るか」


「え、帰るの?任務は?」


「もう全部終わらせてる、それよりもこんなところに居たらオーグに悪影響だ」


「そうね、私あの団長気に入らない」


「誰もが同じ考えだよ」


「あの腐っ玉を蹴り潰してやりたいわ」


「……そ、そうか」


「?ミリアルドさん内股だよ?」


「ん?気にするな、身の危険を感じただけだ」


「?」


「先に帰ってるぜ、オーグついてこい」


「はい!」

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