歴代魔王を蘇生したら最強美少女ばかりだった件。
ナガワ ヒイロ
第1話 大魔王、過去を思い出す
魔王城。
それは魔王が誕生する度に異次元の狭間から地上に出現する巨城。
その最上階には勇者一行の姿があった。
彼らは世界に暗雲をもたらす邪悪な魔王を打ち倒す英雄たちだ。
その実力は人類の中でもトップクラスであり、特にリーダーである勇者は人外の領域に到達した超越者。
いくら魔王とて正面から戦っては無事では済まないような存在である。
しかし、その勇者が俺の前で膝を折っている。
「ふん。最強の勇者と聞いて少しは骨のある奴が来るかと思ったが、この程度か」
そう言ったのは俺ではない。
俺の座る玉座の左側に控えている、黄金のロングヘアーを靡かせた美女だ。
「まったくです。過去の勇者と比べれば赤子も同然。この程度で大魔王たるアーデウス様のお命を狙うとは、不遜にも程がありますね」
金髪ロングの美女の反対側、王座の右側に控えている銀髪ショートカットの美少女がくすくすと笑いながら言う。
勇者とその仲間たちはとうに虫の息。
ただ恨み言を叫び、二人の間で静観している俺を睨むことしかできない様子。
「くっ、ふざけんな!! 魔王アーデウス!! 僕たちと正々堂々戦え!!」
いや、君たち四人組じゃん。
多対一で俺を殺そうとしてきたくせに正々堂々とかどの口で言ってんの? ねぇ、馬鹿なの? 死ぬの?
と、全力で煽り散らかしてやりたいところだが、それだと俺のイメージが崩れてしまう。
配下たちは俺のことを何故か圧倒的な強者として認識しており、実はそう強くないことがバレたら反乱が起こるかも知れない。
つまり、イメージの崩壊は俺にとっての死。
だからここは下手に煽らずに、魔王らしい煽り方をしようと思う。
「フッ。羽虫の言葉は分からんな」
「っ、この!! 絶対に殺――」
勇者が「殺してやる!!」と言い切る前に、その頭がぐちゃっと潰されてしまった。
潰したのは俺の右隣にいたはずの銀髪ショートカットの美少女。
超スピードで勇者に肉薄し、その頭をぷちっと踏み潰したのである。
銀髪ショートカットの美少女が冷淡に言う。
「分を弁えろ、ドブカスが。アーデウス様は魔王を従える大魔王だ。次に間違えたらぶち殺すぞ――っと、もう死んでいましたね」
こ、怖い!! あの子ホントに怖いよぉ!!
と心の中でビビりまくっている俺に銀髪ショートカットの美少女が振り向いて微笑む。
「アーデウス様、害虫を駆除しました!! 撫で撫でしてください!!」
「あ、ああ、偉いぞ。流石はルベールだ」
「えへへ♡ 照れちゃいますぅ♡ あ、あのぉ♡ アーデウス様ぁ♡ ルベールはお腹の奥が切のうございますっ♡ どうかお情けをっ♡」
怖い!! 怖いけども!! 可愛くてエロいから許してしまう!!
「おい、ルベール。勇者をあそこまで追い詰めたのは余だぞ」
「えー? アーデウス様ぁ♡ シャウラがルベールに意地悪してきますぅ♡」
「き、貴様……いや、よい。どちらを抱くかはアーデウスが決めること。アーデウスよ♡ 抱くならば余にすると良い♡ 雑魚だったとはいえ、戦い終わりで昂っているからな♡ 今の余の中はとろとろで熱々だぞ♡」
「むぅ。アーデウス様ぁ♡ ルベールはアーデウス様の太くて硬くてながーいモノが欲しいですぅ♡」
金髪ロングの美女、シャウラが大きな胸の谷間を見せつけながら誘惑してくる。
対する銀髪ショートカットの美少女、ルベールは俺の魔剣をお尻を欲してフリフリしながらおねだりしてきた。
正直に言うと、俺はこの二人が怖い。
二人は俺など指一本で殺せてしまう強者。文字通りの最強の女たちなのだ。
でも、その上で敢えて言おう。
「二人とも同時に相手してやる」
「っ♡ まったく、貴様という奴は♡ 本物の支配者にしかできぬ選択だな♡ ルベール、休戦だ♡」
「賛成です♡ ベッドの上では仲良しがルールですし♡」
エッッッッッッなのでオッケーです!!
どうして俺が最強美少女たちを相手にエロいことになっているのか。
それは少し前まで時を遡る。
あれはそう、日本という国の中古ゲーム専門店で俺が趣味の中古ゲー漁りをしていた時の出来事である。
◆
中古ゲーム。
それは誰かが買って、一通り遊び終わった後、要らなくなって売ったゲーム。
一度は誰かの手に渡ったことで値段がいくらか安くなり、お金に余裕が無かった学生時代はお世話になった代物。
世の中にはそれらを専門に扱う店もあり、社会人となった今でも俺は買うことが多い。
「ま、普通は新品で買うんだろうけど」
俺が社会人となっても中古ゲーをこよなく愛しているのは、面白いからだ。
中古ゲーを買うと、前にプレイしていた人物がプレイデータを消し忘れている事が多い。
そういうプレイデータを見ると、前の持ち主の人物像が分かる。
やり込むタイプの人はアイテムを全種類揃えていたり、ストーリーを優先してやり込みは全くしていなかったり。
そういうのを見るのも中古ゲームの面白さだ。
「さてさて、今日は何かあるかなー?」
俺は月に一度、給料日に駅前の中古ゲーム専門店を訪れる。
学生の頃から通っている店だ。
店の端から端まで、どうやって集めたのか気になるほどの中古ゲームがずらりと並ぶ店。
店長のバツイチお姉さんに顔と名前を覚えられるくらいには通っているし、常連と言っても過言ではない。
俺は商品棚の前に立った。
「うーむ。レトロゲーも良いけど、やっぱりFDVRだよなあ」
FDVR。
正式名称はフルダイブバーチャルリアリティである。
意識をゲームの中に移し、
俺が子供の頃はとにかくFDVRのゲーム機やゲームソフトは高価なものだった。
今では本体もソフトも価格が下がり、平リーマンな俺の薄給でも新品を買えるくらいにはお手頃な値段で手に入る。
っと、呑気に考えてる場合じゃない。
あと三十分で店が閉まってしまうため、早急に買う中古ゲームを選ばねば。
「お? 面白そうなの発見!!」
俺は商品棚から少し古めのパッケージを手に取り、ジャケットを見る。
ゲームタイトルは『ファンタジーブレイブ』。
裏面のあらすじを見ると、王道的なストーリーと広大なオープンワールドが売りらしい。
「でも聞いたこと無いゲームだな。FDVR登場初期のゲームか?」
FDVR登場初期のゲームには売れなかった名作が多い。
ゲーム会社がFDVR界隈での地位を固めようと次々とゲームを売り出した結果だ。
まあ、名作があれば駄作の場合もある。
それはやってみてからのお楽しみ、という人は多いが、俺のような貧乏人は買い物で失敗したくないのでスマホで調べてから買う。
と思ったら、この店の店長のバツイチお姉さんに声をかけられてしまった。
「おーい、川原くん。そろそろお店閉めるから、買うなら買う、買わないなら買わないで早くしてくれないかなー?」
「あ、す、すみません!! 買います!!」
調べる間もなかったが、気になってしまったものは買わずにはいられない。
俺は『ファンタジーブレイブ』を購入し、自宅まで歩いていた。
スマホを開いて、さっき購入した『ファンタジーブレイブ』の評価を調べてみる。
おっと、良い子は歩きスマホをしちゃダメだぞ!!
「ふーん? まあまあ面白そうだな……。世界観も独特で悪くない」
内容はジャケット裏にあった通り、王道ファンタジーらしい。
異次元の狭間から襲来する魔王軍に対し、プレイヤーが操る主人公こと勇者は仲間や装備を集めて迎え撃つ、というものだ。
「明日は仕事休みだし、帰ったら早速やってみるか!!」
俺はルンルンで帰宅し、FDVRゲーム機を速攻で起動。
ソフトを挿入して、早速プレイする。
始めから遊ぶのは後にして、まずは前の持ち主がどういうプレイヤーだったのか見てみよう。
そう思っているうちに意識が遠退いて行く。
「ん……んぅ、お? ログインできたみたいだな」
俺はゆっくりと目を開いた。
すると、目の前には信じられない光景が広がっていた。
「魔王アーデウス様、万歳ッ!!」
「人間どもに苦痛と死をッ!!」
「殺せッ!! 人間どもを殺せッ!!」
「魔王様に忠誠をッ!!」
「アーデウス様に忠誠をッ!! 人間どもに死をッ!!」
ファンタジーでは定番なゴブリンやオーク、スライムたちが俺に向かって魔王と叫ぶ。
俺は自分の身体を見下ろし、顔をペタペタ触って確認した。
頭からは角が、腰からは尻尾が生えている。
朝風呂が日課な俺はスーツを着ているはずだったが、身にまとっているのは漆黒の衣。
「……え?」
どうやら俺は主人公である勇者ではなく、魔王としてログインしてしまったらしい。
え、なんで!?
―――――――――――――――――――――
あとがき
ちょっとした小話
作者「歩きスマホ、ダメ絶対!! ルールを守って楽しくデュエル!!」
「面白そう」「またエッな作品か」「あとがきで笑った」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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