第17話 アデラも洗礼を受ける
「おっ。アデラ良い所にいた。行くぞ」
地球に来て一月。
やっと落ち着いた頃、光希に呼ばれる。
「どちらへ?」
「ダンジョンだ。真鍮に銀。まあ、他のものも採取だな」
そう言った、光希の顔がなぜか怪しく歪む。
ダンジョンへ入った瞬間。
いきなり担がれる。
耳の横で、轟音のように聞こえる風切り音と、どちらが上で、どちらが下で横だか分からなくなる、驚異的な疾走。
聞いたこともないモンスターの咆哮と、魔法でも撃ち込まれたのか、末期の叫び声。
そうして、ダンジョン内。高濃度の魔力の中で、いきなり錬成が始まる。
ぐったりして倒れているアデラの横で、ダンジョンの壁が、変化をする。
金や銀。
魔導銀。
真鍮。
ものすごいスピードで変換、錬成されていく。
「良し、こんなもんだろう」
そう言って、また下って行く。
とんでもない振動や叫び声。
まるで、ケルベロスでもいるかのような、重なり合ううなり声。
いや実際、ケルベロスと戦っているのだが、すぐに瞬殺される。
気が付けば、動きが止まる。
降ろされたが、がくがくと足に力が入らない。
ぼーっと見ていると、光希はあろう事か、ダンジョンの壁を壊す。そして、躊躇せずに、中へと入って行く。
「あのクリスタルをやる」
そう言われて、ぼーっと見る。
「綺麗」
そう思って、手を伸ばす。
そう、手に取ってしまった。
それは、体の中にしみ込むように、消えてしまう。
「良し、戻ろう」
担がれ、走り始める。
「また? いいやあああぁ……」
そうして私は、人間をやめた。
シーヴに介護される。
なぜか、仲間だと喜んでいる彼女。
寝物語に、理由を知る。
曰く、ハイヒューマンの五人目。
多分、身体と魔法。共に人外の所まで、至ることが出来るし、寿命は長い。
断りもなく私は、改造されたようだ。
そんな事があったが、光希様の指揮で、地球用に調整された魔導具が量産され、この地から復旧が加速されていく。
そして、トランスファーチューブに目を付けた光希様が、また町長とか言う者を巻き込み、今度は市長? とかを呼んで、お披露目会とやらを行っている。
駅は幾つも作るが、本線は地下三〇メートル。
乗り口は、路線バスレベルで作ろうとか計画が進む。
バスの利便性で、電車以上の快適性とスピードを目指すようだ。
目的地は、移動カプセルを呼んで、乗り込んだときに、目的地指定をすれば、経路は勝手にシステムが選んでくれる。障害発生時には、勝手に迂回をするし。
そして、数日後。すぐに県知事とか言う者が来て、町の復旧状態を見て驚いたようで、他県の県知事に言いふらすと言って喜んでいた。
「なに? 高知が魔導具により復興? どういう事だ」
「不明です。ですが、すでにライフラインも復旧しているそうです」
「どうして? そして、魔導具とは何だ?」
「不明です」
「見てこい。まだ高速は復旧していないが、小さな道は繋がったようだ」
それを聞いて、職員は絶句をする。
嬉しそうな、高知からの配達員は、燃料が無いはずなのに小型のヘリで来ていた。
「道。車で?」
そう高知は、国道でさえ、下手をすると対面すら辛い、道幅三メートル以下の道がぞろぞろある。衛星が落ち、ナビが使えない現在。非常に困難な道中になることは知っている。
香川からなら、徳島経由の国道三十二号線。愛媛からなら四百四十号線か四百九十四号線。流石にこの道は対面では無いが、通れないときには、すぐに酷道と呼ばれる道に誘導される。
そう四国は、修行の場。弘法大師が歩いた一千二百五十年前と、変わらない険しさを持つ。
高知は、八十八箇所参りにおいて、修行の道場と呼称される険しい地。
―― 今、彼は、家族に遺言を残し、高知へと旅立つ。
彼が出発して、数日後に、高知からヘリに乗って使者が来た。
そうエンジンを乗せ換え、魔導具を積み込み、電動化したもの。
小型なら、汎用モーターで大丈夫だったようだ。
それにより各知事は、高知へと出発をした。
そして見た。彼の地の復興。いや発展。
ライフラインは、各家庭で独立。
それにより、災害時どころか、日々の経路にかかるメンテナンスが不要。
まあ、提供していた企業は涙目だが仕方ない。
電動化し、さらに魔道具を使用するために、ネックだったバッテリーが必要なくなった。今まで、セルの改良により十万キロ持つと言われても、バッテリーは消耗品。それも大きく重く。生産や廃棄においても困りものだった。
タイヤの粉塵問題そんなものもあった。
だが、バッテリーがなくなれば、軽い。
普通に一トンを切る車体。
そんなものが走っていた。
電車はなく、家族で乗れるトランスファーチューブ。
当然、個別に乗るので、痴漢問題など出ない。
業務用は、専用の乗り口があり、座席のない移動カプセル。無人での配送が出来、温度も管理されている。
各知事は、自分たちの地域を思い、その格差に愕然とする。
某地の知事は、魔導具による水の供給に大いなる関心を抱く。
今まで、強引ともいえる給水制限等、色々とあった。
これで、うどんを茹でるのに困らなくてすむ。
彼らは、復興支援について、承諾をすることになる。
「先ずは、あのヘリについても話がしたい」
その頃、連絡員となった彼は、山道で給油をしながら地図とにらめっこをしていた。
「また行き止まり。まっすぐ行けば百六十キロ前後だったはずなのに。もう三百キロ走ったのに山の中。畜生燃料は足りるのか?」
ラゲージルームと後部座席に並ぶ、ジュラカンと食料。
呆然と、それを眺めるうつろな目。
復旧し、余裕が出来た高知側から、道路の修復は始められていた。
問題は、それまで、彼は生きていられるのか……
雲海漂う山間で、今日も彼は道に迷う……
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