第10話 杏はやっと心を決めた

 朝、学校に向かう道。

 まだ山側の脇道ね。人が来ないし。


 危ないものは、この前、二本燃やしたから安全。

 ふと、違う道を通ったらどうしよう。

 そう思ったが、意識をした瞬間に探査が出来たようで、奴が来ているのが判った。


 そう、息吹よ息吹。

 幼馴染みで、ずっと見ていたし、知っている。

 でも暗黒の三ヶ月。そして、その後。おおよそ一年間は会えなかった。


 家でひもじくしていたときに、何かの肉と、野菜を持って来てくれた。

「やっと畑が、復旧をしたんだ」

 そう言って、うちの玄関先に立つ息吹は、男らしくなっていて、かっこよかった。


 そうは言っても、会えなかったのは私だけ。

 暗黒の期間でも、お父さんやお母さんは、私を家に残し、ご近所を回っていた。


 家は、普通のサラリーマンだったから。

 父さんも母さんも、すぐに困ることになった。


 ある日、テレビもネットもなくなった世界。

 いきなり、空が暗くなり風が吹き荒れた。

 どこかが、噴火をしたんじゃ無いかと、家の中では噂になった。


 帰ってくるなり、報告はあった。

「息吹君が、心配をしていたぞ。早く晴れれば良いなあ」

 そんな事を言われたら、気になるじゃない。

 その時から、ちょくちょくお米や野菜を貰ってきた。

 お野菜と言っても、ジャガイモとかね。


 ただ、真っ暗な中でも、ニンジンや大根。タマネギを納屋の中で育てていたみたい。そして水も、息吹の家には井戸があった。飲用井戸用のカルキも備蓄し、上水用フルターも装備。

 この時ばかりは、皆がおじいさんに感謝をしていた。


 おじいさんは昔からやっていた。備蓄と、対策。

 なんと、暗いときでも、息吹の家では明かりがあった。

 そう発電機。

 それを利用をして、納屋でお野菜を育てた。


 家には、ソーラーパネルがあった。

 でもね、お日様が出ないと発電をしないの。


 薪と灯油のボイラー。その蒸気で発電することも出来るらしい。

 太陽光でお湯を湧かす太陽熱温水器まで装備。


 お米の冷蔵庫や、精米機。

 もうね。流通が止まれば、苦労はあってもお百姓さんが最強だと理解をした。


 そうして、やっと真っ暗な日が終わった。

 なのに、相変わらず外に出してもらえない。


 そう未確認生物。モンスターがいたから。


 役場も、何処にも連絡が取れず、困ったことになった。

 とりあえず、モンスターは害獣として登録をする。

 そうして、一年近くたって。

 急激にモンスターの数が、周りから減った。


「もう良いだろう」

 お父さんから、許可が出た頃。


 先に、息吹やって来た。

 

「やっと畑が、復旧をしたんだ」

 そう言って。

 それから学校はないけれど、日常は少しずつ戻ってきた。


 そう本当に少しずつ。


 お互いに前のように家にやってきたり、お風呂を借りに行ったり。

 でまあ、そんな中で付き合わないかと言われたのよ。本当についで。

 他を探すのが面倒ってなに? 確かに、誰かと出会っても、合う合わないは実際付き合ってみないと分からない。だけどさーと思っていたらだね。

 よくよく考えると、息吹ってば、結構いけてる順位も高いし、魔法使い。


 それに百姓だし……


 あの猫。いや、感謝はしているけれど。


 それとこれは別よ。

「ああ、もうっ。息吹ってば好き」

「おう。ありがとう」

 気が付けば、本人が目を丸くして、立っていた。


「えっあっ。うん」

 告白をするため、待ち伏せまでして、気合いを入れていたのに、あっさり。ナニをしているの私……


 照れ隠しに、手を繋ぎ。引っ張って学校へ急ぐ。



 その頃学校では、息吹の提出した、続・点Pが話題になっていた。

「接触があった、あれは機械的な問題で、攻撃の意図はなかったようだ。と書かれている」

「なぜ、彼の所へ」

「信憑性と言うには…… ですが、実際に来ているので本当でしょう。彼のおじいさん。神谷 光希かみや こうきさんが高校生の時に、相手方。惑星ファジェーエヴァ。へ異世界召喚により世界を渡り、向こうの世界を助けた。これが時間軸がおかしいのですが、八百年前だそうです。そこで、向こうを助けて帰ってきて、今でもご存命。当然向こうの事情や魔法についても、お詳しいですし、モンスターについてもお詳しいようです。それによると、多少向こうと違うと言うことです」

 そう。集まっているのは、校長を始め、町長などの偉い手さん。

 これから復興などに際し、掴まるわらくずでも欲しいとき。

 そこに、降って湧いた福音。


 そしてやきもきしていた宇宙人は、すでに来ていた。

 ビックリである。

 当然、先生は宇宙船を見に行ったが、見えなかった。


「それで、どうするね」

「かれに、何か進展があれば、町の代表、全員に連絡が取れると伝えておきましょう」

「ああ、彼らと共同をして、復旧に向かうということだね」

「そうですね。そうしておかないと、彼らだけでこの地球に文明が築かれます」

「それは避けたいな」

「そうですな」


「ではまあ、一度話をしたいと、先方に伝えて貰うことが出来るかだけでも、聞いて貰えんかね?」

 町長さんが提案をしてくる。


「まあ、来ているのは、親善大使のようですから、大丈夫でしょう。聞いてみましょう」


 そして、授業の終わり。先生から質問が出る。

「神谷。続点Pについてだが、こちら側に点Tを置き、補助線分を入れるなり、中間点を置くなりして、接近するのは可能か?」

 すっくと立ち上がる、息吹。

 クラスの生徒は、よく分からないが、これが数学ではないことには気がついていた。


「可能です」

 凜とした、息吹の声が、教室に響き渡る。

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