第9話 変身と計画の失敗
「ねえ、これなにかなぁ」
杏と共に、コントロールルームから出てきて、いきなり見せられる。
それは、魔力を持った腕輪。
さっきじいちゃんが、貰ったものより魔力が強い。
「これって、この宇宙船のコントロールキーじゃ?」
そう言っても、杏は手から離さない。
「ええ? 綺麗なだけの普通の腕輪だよ」
「だとしても、勝手に持って来ちゃいけません。返してらっしゃい」
いかん。つい、杏のお母さんのマネをしてしまった。
「うーだめ?」
「すごい魔力を感じるから、そいつはまともなものじゃない。下手に持ち出して、船のセキュリティが発動して、爆発をしたらどうするんだ?」
「えぇー。そんな事……」
「ありそうだろ」
そう言うと、渋々返しに行くが、あれは人の物。
らしくもなく、欲望全開だったな。
そう、腕輪からは人の心に作用し、懐柔をするようなシグナルが発動されていた。
息吹には全く効き目も無いが、一般地球人である杏には効いた。
ファジェーエヴァ側は、あの手この手を仕掛けていた。
その日は、じいちゃんの鍵で外から施錠をする。
そして、週末。
有無を言わさず、杏の改造をする。
山野家のお母さんには、お泊まり会をすると言ってある。
ウキウキで参加をしてきた杏だが、いま、俺のベッドで呻いている。
せっかく、シーヴが気を利かして、宇宙船のベッドを貸してくれると言ったのに断りやがった。
あげくだ……
「息吹っ。ごめん…… 私もうだめ……」
あわてて、抱っこしてトイレへ……
だが布団を捲ると、幸せそうな顔。
抱っこして、風呂場へ直行になった。
あの幸せそうな顔は、何なんだよ。
「良いから脱がして。気持ち悪いから」
風呂場へ行くと命令される。もうね。何がしたいのか?
「動けないし、好きにして良いからね」
とまあ、らしくないことを言うし。
まあ脱がして洗って、着替えさせるが、おむつをはかせる。
流石に暴れたが、体が動かない。
「これは、こういうプレイだと思えば……」
杏は、そこまで来て、思い至ったようだ。
小だけではないことに……
シーヴから話を聞き、息吹に介護をさせよう。
あーんとかして、食べさせて貰って……
などと、良い所だけを妄想していた。
だがしかし、恥ずかしいが清拭とか。体を拭いている途中で…… 息吹も男の子。
我慢出来ずに、『良いだろ』とか言って、手を出してきて……、あーれーとか言って……
そう、恥ずかしいが、そこまでなら誰もが通る道。
少し先に、漏らしたが、まあまあまあ。
だけど、大きいのはだめよ。流石にマニアックすぎる。
そう言うのが好きという性癖もある様だけど、お互いに違う。
杏は考え。考え抜いた末に、シーヴを呼んで貰った。
泣く泣く宇宙船への移動。
――だが、宇宙船の治療ポットは、もっと屈辱的だった。
有無を言わさずカプセルに寝かされる。
それは良いのよ。
体は動かないけれど、意識はあるの。
機械の中で、一瞬カエル足にされ、戻ると足の間に何かが挟まっている。
そう、いきなり挿管される。
体も時間で洗われて、乾燥される。
床ずれを防ぐため勝手に体位が変えられる。
食事は、シーヴがチューブに入った流動食をくれる。
経験上、丸一日は体ができあがっていないそう。
「明日には、少しずつ動けるようになるから、頑張って」
そう言って、慰めてくれた。
シーヴ良い子。
そうして日曜日の夕方、歩ける程度にはなった。
「体が、上手くうごかせないけれど軽い。なんだか素材が変わった?」
そう思いながら、宇宙船のタラップを降りたら、目の前に化け物が居た。
そう、今までそばに居ても、見る事も感じることもなかった。
でも、今は見える。
顔は変わらない。
心配してくれたのか、私を見て安心してくれている。
でも、その魔力は何?
「お疲れ。これから、徐々に体がなじむと、人間をやめられるからな」
爽やかにそう言ってくれた。
ええっ? 気になって聞いてみる。
「その…… 私も、息吹みたいになるの?」
「ああ。安心をしろ。すぐに強くなれるさ」
爽やかに…… 違うのよ。
私も化け物になったのね。
息吹のお家で、大量のキャベツ炒めと、サラダ。そして親子丼を頂いて、お家へ帰った。
宿題をしていて、少し賢くなっていることに気が付く。
そして、意識を広げると、息吹を感じる。
「何の用だ? 念話なんか使えたのか?」
思わず、意識を閉じる。
頭の中で響いた、息吹の声。
そうか、脳まで変わったのね。
でもこれ、寝ぼけて息吹をを呼んだりしないのかしら?
例えば、息吹のことが好きとか?
その時、息吹はお茶でむせ込む。
「聞こえたぞ。まあありがとう」
素直な返事が来た。
当然、杏は引っくり返る。
「あうあうあう」
そんな、念話がやって来る。
「杏、慣れるまで念話をするな。周りにいる人間に全部聞こえるぞ」
むろん念話が出来る人間にだが…… じいちゃんとシーヴには聞こえただろう。
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