世界のヒビに

安心院りつ

第1話

 今代の西の勇者。

 エフィル・モルスタレー。

 彼女と同行する騎士。

 ノエル。

 右に同じの魔法使い。

 アンジュ・ロスタリカ。

 聖女と呼ばれた修道女。

 フリーデ。

 3人が町のド真ん中で行われているパレードの中心人物で、手を振りながら凱旋している。

 勇者の左手の甲にある聖痕は神に選ばれた勇者である証明。


 彼女たちが北の魔王を倒したらしい。

 全部で4人いる魔王のうち一角を討伐しただけでこの盛り上がり用。

 大昔から続いた人と魔族との戦争。

 200年前と比べると人の生存領域は3分の1にまで縮小してしまっている。

 残された人類の領域を3つに分けると北・西・東の大国が最後の人々の希望であり、そこに生まれる勇者が人々の最後の剣だ。

 ここは西にあるルクソール公国。

 必ず各国から1人ずつ勇者が生まれるカラクリは解っていないが、現代の勇者のそのウチの1人が今あそこで手を振っている。

 北の勇者と手を組みまずは北の魔王を倒し、次に西の魔王を倒そうとか思っているのだろうけど。

 あんな弱そうな見た目で本当に倒せるのかな魔王。


「アンチャン、今日は目出度い日だぜ?」

「だから何さ、いまだ人の劣勢は変わらないじゃないか」

「オイオイ・・・、まぁこれでも飲んでツマライ顔してないで少しは喜びなよ」

 昼飯を食べていた食堂のオバちゃんからサービスで貰った一杯を口に放り込む。

「アー旨い、勇者よりもオバちゃんに惚れちまいそうだ」

「はっ、冗談言えるだけいいさね、そんなにパレードが嫌ならさっさと食って仕事しな冒険者だろ?」

 そう言ってオバちゃんは同じように酒を飲みながら勇者に手を振る。

 確かに。そうさせて貰おうかな。

 俺は急ぐように食事を済ませ組合に向かう。

 冒険者組合、あらゆる仕事が並び、冒険者になりたいならここで登録をして、名声を稼ぐことでランクが上がる。

 名声と言えば聞こえはいいが実際は実力の証明だ。

 最低のEランクだと溝さらいとかしか仕事を受けられないが、俺は今Cランクなのでそこそこの仕事をすることができる。

 いつも仕事が張り出されている板から受けるものを持ってカウンターに持っていく仕様なのだが今日はずいぶんと紙が少ない。

 目出度い日に仕事をしたくないんだろう。

 だが少ないからこそおかしな依頼が目立つ。

 護衛任務。

 要人を2つ程離れた町まで護衛すること、移動は馬車。

そして定員は1名、怪しすぎる、訳有りすぎるその仕事依頼に俺は手を伸ばし受け付けに持っていく。

 これを受けると出した瞬間に。

「ほんとにこれにするんですか?」

 あからさまに嫌な顔をされる。

「どうみたって怪しいじゃん?これやる」

「はぁ、いいですけど知りませんよ?私達(ギルド職員)にも内容知らされてないんですからね」

 余計に怪しさが増していく。

 いやーいいねえ。

 最近こういう変な依頼を見ることがなかったから退屈だったんだけど。


 これはどういった訳ありだろうか、借金取りに追われてる?それとも大罪人?

 他に考えられる話としては実は王族関係だったりしてね、それは少し遠慮したいが、依頼の報酬金額からそれはないだろう。

 普通すぎる、というか特に内容も書かずに時間と合流場所だけしか情報が無い依頼で人を集めるには安すぎる。

 誰にも受けて欲しくなかったのか?

 集合時間まで残り1時間。

 こんなギリギリまで張られてるのも謎だし。

 依頼人の顔を拝みに行きましょうかね。


 いつもよりテンション高めで仕事に向かった。


 エフィル・モルスタレーの一行と顔を合わせるまでは・・・。

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