第8話
赤瀬は目を開けるなり呆れ顔になる。
「文化祭の出し
「何それ?」
赤瀬は不満そうに眉を曲げると身を乗りした。
「やっぱり聞いてへん。六限目に文化祭について色々決めてこってなったやろ。
「赤瀬は何て書いたの?」
赤瀬は目を丸くすると姿勢を戻す。
「うち? あーえっと、六限目に出た意見の一つに合わせた。黒板に何個か意見書き出されとったやろ?」
「寝てたから見てない」
赤瀬は眉間に皴を寄せるとまた身を乗り出した。
「死んだんかぐらい静かに寝てたんよう見えとったわ」
「意見は他にどんなの出てたの?」
「お化け屋敷、体育館で劇、教室使って段ボールで迷路作る」
「ふうん。じゃあ劇」
赤瀬に手を差し出す。私のスクールバッグを渡しての意で。赤瀬はノータイムで察すると、姿勢を戻しながら渡してくれた。
プリントはちゃんとしまっている筈だ。寝ている間に配られたものは取り敢えず持ち帰ると決めている。
ファイルを見てみると簡単に見つかった。その場に屈むと揃えた膝をテーブル代わりにしつつペンケースからシャーペンを抜き、「劇」と書く。プリント以外の荷物をしまったスクールバッグを持って腰を上げた。
「赤瀬って、文化祭の実行委員だったっけ?」
腕を組み直して、私を見守ると言うか見張っていた赤瀬は肩を竦めた。
「全然。無職」
「いやその場合は無所属。わざわざこの為に来たの?」
「うん。クラスの連中がお前の家の場所知ってんのうちぐらいやから、頼んで貰われへんかって」
「断ればいいのに」
家に上げたと言うのか、家に入って来たのは今日が初めてだけれど、部屋番号を喋った事ぐらいはあったか。
「別に断る理由無いし」
「そう?」
「だって近所やん」
「学校からはね。歩くの嫌う人って結構多数派だよ。赤瀬の家と私の家って、位置全然違うし」
「うちは好きやからええ」
「あそう」
「そしたらお前の家の鍵開いてるから、
今度は私が呆れ顔になる。
「度胸バグり過ぎ。そこはポリに通報じゃないの?」
赤瀬は私以上に呆れ顔になった。
「玄関にお前の靴あったから連れ出した方が早い
ガチで冷静なのにホント野蛮。
暴力沙汰前提かつ上等の侵入だったって事じゃん。ノータイムで土足で行こうと判断して入って来てたのも覚悟が決まり過ぎてる。
「……流石。よく見てる。裏目に出た時の事も考慮出来たら完璧だよ」
「お前を助け損ねるぐらいやったら不完全でいい」
自分の名前を教えるみたいに
私は頭が真っ白になって動けない。
その理由や今の気分を表す言葉も見つからなくて、頭が再び動くようになるまで立ち尽くしてから口を開く。
「……危ないよ」
「せやな」
自分でもどれぐらいの硬直を経て放ったか分からない言葉に、赤瀬は肩を竦めて笑い返した。少し寂しそうに見えるけれど、その理由は分からない。
赤瀬は腕を解きながら顎で私のプリントを指すと、学校のある方向へ向き直る。
「出しに行こ。あの女来る前に、なるべく人目のあるとこ行っといた方がええ」
赤瀬は言うなり歩き出した。
「赤瀬」
「ん?」
その場から動かず呼び止めた私に、赤瀬は首だけで振り向く。距離が開いている事に気付くなり、何で来てないんだと不満げに眉を曲げるその顔を、真っ直ぐ見て告げた。
「ありがと」
赤瀬は露骨に不愉快そうな顔になって大股で引き返して来ると、私の腕をがっしり掴む。そのまま大股でずんずん歩き出すものだから引き
霧で年中視界不良なこの町で、こうも堂々と歩く人間は赤瀬しかいない。揺れるロブの隙間から覗く耳が、案の定赤くて閉口する。
要は赤瀬の不機嫌顔とは、照れ隠しである事が多々なのである。
別に隠さなければならない部分なんて何も無い、満場一致の時代錯誤な熱血かつ義理人情を重んじるいい奴なのに、何でかそこを売りとしない。
これで人並みに素直なら、誰にでも好かれて信用される人間だったのに。なんて考えるのは、私の理想が
正義の味方を地で行くが故に自身の偉大さを知らない赤瀬は、やっぱり当たり前みたいに切り出した。
「また妙な事やる前にあの女何とかすんぞ。知ってる事話してくれ」
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