インターハイ開幕

1週間のオフが終わり、練習も再開して2週間。


 8月上旬。


 いよいよ、インターハイが迫ってきていた。来週には、インターハイが開幕する。


 初めてのインターハイ出場だから、ワクワクもあるけれど、緊張のほうが強い。


 まさか、本当にインターハイに行けるとは。高宮コーチが来なかったら、インターハイに行くどころか、バスケ部がなくなっていたかもしれない。


 緊張はするけれど、やれることはしっかり準備してきたんだ。楽しもう。


 来週にインターハイが迫っているため、練習も調整時期。怪我をしないように、5割から6割程度での練習。


「メンタルも強化してきて、脱力も上手くできるようになったな」


 高宮コーチは俺たちに告げると、いつになく真剣な眼差しを向けた。


「インターハイは今までの予選とは全く違う。観客も大勢いるし、緊張感も想像できないくらい強くなると思う。雰囲気が全く違う」


 高宮コーチは一息置いてから再び話す。


「でも、脱力を身につけた城伯高校のバスケ部なら、その緊張を和らげることもできると思う。ただ、何が起こるかわからない」


 高宮コーチにも高校のときに、インターハイで苦い思い出があったのか、いつもの柔らかい顔ではなかった。


「全力でプレーするのはいいけれど、その全力は100%ではなく、80%で100%の全力を出せるようにして欲しい」


 高宮コーチは長く息を吐く。


 もしかして、高宮コーチも緊張している?


「100%全力でやってしまうと、逆に力んでボールをコントロールできなくなってしまう。それで、肩を壊して、将来、プロになっても活躍できなかったこともある」


 高宮コーチは、ある野球部の話をした。


 将来、プロになるという夢を持った球児がいて、怪我してプロで野球ができないということがないように、大事に育てた。


 甲子園がかかった試合では、本当は出したかったけれど、出さなかった。その結果、甲子園の出場はできなかった。


 でも、その球児は今、プロとして大活躍、日本代表にも選ばれ、メジャーリーグからも賞賛されている。


「正直、ちょっと俺も緊張してる。インターハイ出場をあと一歩で逃したからな」


 高宮コーチの言葉に、俺たちは驚愕した。


「高宮コーチ、インターハイ叶わなかったんですね」


 貴がボソッと呟いた。


「そうだな。それも1点差で行けなかったんだ」


 高宮コーチは苦笑いした。


「ここまで連れてきてくれてありがとうな」


 高宮コーチは感謝の気持ちを伝える。


 すると、慧がきっぱりと言い放つ。


「まだですよ。俺たちが、高宮コーチをインターハイ優勝まで連れていきます」


 慧の言葉に全員が頷いた。


「優勝するぞー」


 バスケ部の声が体育館中に響き渡った。

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