インターハイ予選決勝ー徳丸高校ー6

 拓斗は、1人でプレーしてしまい、慧に注意されていた。


 その場で謝ったものの、納得がいかない。難しい顔をする拓斗。


 梅木に挑発されて、ムキになる気持ちもわかる。俺も負けたくないから、勝負を仕掛けたくなる。


 だけど、バスケは個人プレーじゃない。チームプレーだから仲間がピンチの時はフォローすることが大事。


 梅木はフッと笑っている。


 推測だが、拓斗はすぐイラッとして、自分のプレーができなくなることを知って、怒らせるようなプレーを思いついたのだろう。


 城伯高校のディフェンス。


 梅木はボールを持ちながら、拓斗に来いよと目で合図していた。


 これをやられたら、俺もムカつく。でも、ここで冷静さを失ったら、相手の思うツボ。


 ますます悪い方向へと導かれてしまう。


「この野郎……」


 拓斗は眉をピクッと動かす。


「落ち着け!拓斗!!」


 怒りに身を任せて、ディフェンスをしそうになったことに気がついた灯が叫ぶ。


「挑発に乗るな!」


 ベンチから、記録していた美香の大きな声が飛ぶ。


「心を乱すな!」


 ベンチで見ている快の声も響く。


 拓斗にその声が届いたのか、届いていないのか。スルーして、梅木のシュートを狙う仕草に思わず反応してしまった。


 本当はジャンプしてはいけないところを、ジャンプして、スペースができる。


 そのスペースを使い、梅木はドリブルでゴール下まで切り込み、そのまま、フワッとボールをリングに置いてきた。


 ドライブからのレインアップシュートだ。


「挑発に乗りやすいな……」


 俺はため息をついた。冷静であれば、梅木がまだ、何をするかわからないため、たとえシュートする仕草を見せてもジャンプする必要はなかった。


 城伯高校のオフェンスだが、ここでも、また、拓斗は梅木の挑発に乗ってしまう。


「俺を抜いてみろ」


 梅木は口角を上げている。拓斗を止められる自信があり余裕だ。


「抜いてやる」


 拓斗はドリブルをして、空いたスペースに入り込もうとするが、そのスペースはない。


 ただ、貴のところが空いている。パスを出して貴に任せることが今のプレーでは必要。


「こっちだ! 拓斗!!」


 貴がパスを要求する。


 拓斗は貴の要求には応えなかった。あくまで、梅木を負かしたい、その思いだけで強引に突っ込んでいった。


「バカッ! 無理にシュートに行こうとするな!」


 智樹がすぐにリバウンド体制に入りながら呟く。


「1人でプレーするなって言っただろ」


 慧が再度、拓斗に忠告する。


 慧の忠告に、わかりましたと返事をする。


 返事はするけれど、慧の忠告を無視して、拓斗はひとりプレーを続けていた。


 試合を見ている人も、拓斗がひとりで暴走し始めていると思っているだろう。


 高宮コーチは手を顎に当てて、俺を呼んだ。


「拓斗と交代だ」


「はい」


 俺は息を吐いた。


 拓斗がベンチに下がると、高宮コーチにしては、厳しい表情で口を開く。


「何故、交代させたのか、よく考えてみろ」


 拓斗は何か言いたそうな顔をしたけれど、押し黙った。とても悔しそうだ。


 でも、冷静になって考えることも必要だ。しっかり考えろ。拓斗。


 さぁ、俺は俺で落ち着いてプレーを見極めないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る